アウトレイジ : インタビュー

12日に開幕した第63回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品されている、ビートたけしこと北野武監督の最新作「アウトレイジ」。北野監督が03年の「座頭市」以来、7年ぶりに手掛けるバイオレンス・アクションとあって、国内外から大きな注目を集めている同作だが、カンヌ映画祭が開催されるフランスでは、北野監督自身が3月に芸術文化勲章の最高章コマンドゥールを受賞するなど、北野人気が最高潮を迎えつつある。そんな中、パリのカルティエ現代美術財団で開催されている「北野武／ビートたけし　Gosse de Peintre—絵描き小僧」展の模様をパリ在住の映画ジャーナリスト・佐藤久理子氏がレポートしてくれた。（取材・文・写真：佐藤久理子）

北野武／ビートたけし「Gosse de peintre - 絵描き小僧」展　レポート

北野武はヨーロッパにおいて本当にそれほど人気があるのか。3月11日から開催されたパリのカルティエ現代美術財団における「北野武／ビートたけし　Gosse de Peintre—絵描き小僧」展の反響を見れば、躊躇なくイエスと答えられるだろう。開催前から新聞や多数のメディアに取り上げられ、絶妙のタイミングでフランスの芸術文化勲章コマンドゥールを授与された彼の初の個展は、現代アートの発信地として名高いカルティエ財団の歴史のなかでも異例の人出を集め、オープニング記録を塗り替えるほどだった。

だがその内容は、監督北野武の顔ではなくアーティストとしての彼の全貌、とりわけ海外にはこれまでほとんど輸出されていなかったビートたけしのお笑いのセンスにフォーカスしたものだ。

入り口を入って左右に広がる吹き抜けのスペースには、日仏を又に掛けて制作された大型のオブジェが並ぶ。絶滅の理由を推測した恐竜（「メタボになったから」「ヤク中になったから」といったギャグが記されている）、萩焼きで作られた、腹の中に寿司をしたためた遺伝子操作の魚、「世界一安全な運転席」と題されたホンダならぬHONPAの乗り物、モダンアートを肴にした「ミスター・ポロック」（絵の具のついたボールがごろごろ転がるとジャクソン・ポロック風抽象画が出来上がるという原理を表したオブジェ）など。死刑制度や戦闘機を揶揄したスパイスの利いた作品もある。

地下のスペースには、北野がこれまでに描き溜めた絵画の中から厳選した作品や、べネチアで焼いたという色彩の鮮やかな「動物花器」、ビートたけし百変化のパネルが並ぶコーナーや観客参加型のアトラクション。それだけではない。庭には大仏しのぎ（お焼き）を売る屋台が建てられ、ふと見ると木々のあいだにも「魂爺」が陳列されていたりと、至るところに北野の遊び心が溢れているのだ。

会場には子供連れの客も多く、大人はジョークに笑い、子供はアトラクションに熱中するなど、各自がそれぞれの楽しみ方をしていた。現地で記者会見を開いた北野は「こんなギャグをやったらもうマエストロと呼ばれなくなるかもと後悔した」と冗談を飛ばしていたが、むしろ彼の百面相的な部分とユーモアこそが奥深い魅力となってパリジャンたちを惹き付けるようである。

とはいえ、北野本人もこれほどまでに好評を得るとは予想していなかったのではないか。監督としての北野人気は根強いが、それでもここ数年は「TAKESHIS'」「監督・ばんざい！」が辛い批評を受けていたからだ。フランスではカルティエと足並みを揃えて「アキレスと亀」が公開になり、ポンピドー・センターでは北野映画特集も開催されている（6月26日まで）。

最新作「アウトレイジ」のカンヌ映画祭コンぺティション部門への入選も重なり、文字通り北野カラーに染まった季節となった。果たして、この勢いがカンヌ映画祭の結果にどう影響するのかしないのか、楽しみなところである。

※カルティエ現代美術財団　北野武／ビートたけし展「Gosse de peintre - 絵描き小僧」は、当初より展覧会期を3カ月延長した9月12日まで、フランス・パリのカルティエ現代美術財団にて開催される。詳しくはカルティエ現代美術財団ホームページまで。