トロピック・サンダー 史上最低の作戦 : 特集
ついに日本公開された話題のアクションコメディ「トロピック・サンダー/史上最低の作戦」。いくつもの戦争映画をベースにした爆笑パロディに、ハリウッド映画製作の裏側を織り交ぜた痛烈な風刺劇に仕上がっている本作。劇中に登場する奇天烈なキャラクターたちと、気になるキーワードを拾い上げてみた。動画インタビューと合わせてお届けする。(文・構成:編集部)
「トロピック・サンダー」奇天烈キャラクター&キーワード集
【奇天烈キャラクター編】
●タグ・スピードマン(ベン・スティラー)
アクション映画「スコーチャー」が大ヒットし、一躍世界的なスターになるも、アクション以外の分野への進出はことごとく失敗。アカデミー賞を狙った「シンプル・ジャック」も大失敗に終わり、再度アクションスターとしてのカムバックを期して、「トロピック・サンダー」に挑む! となると、モデルはやはりシルベスター・スタローンか? スタローンも「ロッキー」「ランボー」が一段落した後は、「刑事ジョー/ママにお手上げ」「オスカー」といったコメディ映画に出演し、失笑を買ったが、その後は再びアクション路線へと戻り、最近では「ロッキー」「ランボー」それぞれの最新作を完成させている。
→タグ・スピードマン オフィシャルサイト
→「スコーチャー6」オフィシャルサイト
●ジェフ・ポートノイ(ジャック・ブラック)
単におならをかまして笑いを取るという下品なコメディ「ザ・ファッティーズ」の主役として人気者になったが、単なる“おならスター”から芸域を広げるべく、本作への出演を決めたポートノイ。キャリアのすべてを包括しているわけではないが、「ナッティ・プロフェッサー」で1人7役を演じたエディ・マーフィがモデルとして思い浮かぶ。マーフィは「ビバリーヒルズ・コップ」「48時間」などのヒットシリーズが終了し、人気が低迷していた頃に「ナッティ・プロフェッサー」に出会い、少しだけ復活した。その後めぼしい大ヒット作はないが、一昨年の「ドリームガールズ」でのアカデミー賞助演男優賞ノミネートで、ハリウッドを沸かせた。
→ジェフ・ポートノイ オフィシャルサイト
→「ザ・ファッティーズ2発目」オフィシャルサイト
●カーク・ラザラス(ロバート・ダウニー・Jr. )
オーストラリア人のカメレオンアクター、ラザラスはアカデミー賞主演男優賞5回受賞という輝かしい名誉を持つ、やり過ぎの演技派。完璧に役柄になりきるのがモットーで、今回も黒人の軍曹に扮するために自らの皮膚を黒くする整形手術まで受けている。また私生活では乱暴者で有名というところが、同じオーストラリア映画界出身のオスカー俳優ラッセル・クロウを彷彿とさせる。クロウも大酒飲みで乱闘騒ぎを多数起こしているほか、「インサイダー」「グラディエーター」「ワールド・オブ・ライズ」などでは体型を変えるカメレオン演技を披露している。
→カーク・ラザラス オフィシャルサイト
→ラザラスが整形手術をした整形外科医院のオフィシャルサイト
●レス・グロスマン
ハリウッドを代表するスーパースター、トム・クルーズがカメオで演じているのが、血も涙もない冷酷な映画プロデューサー、レス・グロスマン。撮影を予定通りに進められない監督をTV電話から口汚く罵るその高圧的な姿は、今までのハリウッド映画のどの悪役よりも強烈だ。ハーベイ・ワインスタインとジョエル・シルバーの毛むくじゃらでがっしりした体躯に、ジェフリー・カッツェンバーグの頭をくっつけたような容姿だが、中身は一体誰がモデルなのか気になるところ。いずれにしてもスーパースター、トム・クルーズしか演じられない役だ。
●アルパ・チーノ
アフロアメリカンの間では「ゴッドファーザー」(フランシス・フォード・コッポラ監督)よりも人気がある「スカーフェイス」(ブライアン・デ・パルマ監督)にはまって、自分の芸名をアルパ・チーノと名付けた。「スカーフェイス」でパチーノが扮したトニー・モンタナ同様、かなり口が悪くF○CKを連発。「スカーフェイス」の劇中で226回もF○CKを使ったパチーノほどではないが、本作でもかなりF○CKを口にしている。最後は意外なカミングアウトもあり。
●リック・ペック エージェント
アクションスター、タグ・スピードマンのエージェント。クライアントである俳優に対して徹底的に尽くす典型的なハリウッドのナイスガイだが、友情と自らの出世を秤にかける冷静な一面も。演じるマシュー・マコノヒーは、オーウェン・ウィルソンの代役として本作へのカメオ出演を果たした。
【気になるキーワード編】
■プレイヤー The Player
ロバート・アルトマン監督が同名タイトルの映画を作ったことでも知られる商業的、興行的に影響力のある役割を持つ人間、つまり大物のことを指すハリウッドの隠語。本作では、タグ・スピードマンのエージェントであるリック・ペックが、スタジオの大プロデューサー、レス・グロスマンに「お前もG5(プライベート・ジェット機:The Gulfstream 5)に乗るプレイヤーにならないか?」とそそのかされる。
■「プラトーン」Platoon
ベトナム帰還兵のオリバー・ストーン監督が、従軍時の強烈な戦争体験をリアルに映画化した86年のアカデミー賞作品賞受賞作。ポスターのメインビジュアルにもなっているエライアス軍曹(ウィレム・デフォー)による印象的なポーズを、スピードマンがしっかりパロっている。
■ティーボ Tivo
エージェントのリックがクライアントであるタグ・スピードマンのために、意見を押し通して撮影現場であるベトナムへの持ち込みを許可させた全米で大人気の家庭用ビデオレコーダー。ティーボは専用のハードウェアに独自のソフトウェアがを組み込まれることによって機能しており、単に番組を録画するためのレコーダーではなく、ユーザーの好みを勝手に判断して録画を行ってくれる、よりパーソナルなビデオレコーダーである。監督のコックバーンにより、突然ゲリラ撮影に駆り出されたスピードマンはホテルに帰ってこないため、ほとんどティーボは使用されないが、結果的に、スピードマンたちの命を救うことになる。
■「地獄の黙示録」Apocalypse Now
言わずと知れた戦争映画の最高傑作のひとつ。フランシス・フォード・コッポラ監督が私財を投じ、製作期間4年をかけて作り上げた超大作。冒頭のナパーム弾が森を焼き尽くす画や、米軍のヘリコプターがワーグナーの「ワルキューレの騎行」をかけながらベトナム人を急襲するシーンはあまりにも有名。本作では「地獄の黙示録」同様にナパーム弾を使用した大がかりな撮影シーンが登場する。
■「レイン・オブ・マッドネス(狂気の雨)」
Rain of Madness
「地獄の黙示録」の製作過程を描いたドキュメンタリー「ハート・オブ・ダークネス」(91)のパロディとして製作された劇中映画「トロピック・サンダー」のフェイク・ドキュメンタリー。コッポラ夫人のエレノア・コッポラが撮影したフィルムと録音テープを元に、撮影開始から公開まで4年かかった世紀の超大作の撮影現場の裏側が明かされる「ハート・オブ・ダークネス」に対し、「レイン・オブ・マッドネス」は、英国人監督ダミアン・コックバーンの大学時代のクラスメートで、ドイツ人監督ヤン・ユルゲンが撮影前のスタッフ・クルーの素顔を紹介している。後にヤンは撮影中不慮の事故で亡くなったコックバーンの遺志を継いで、本編である「トロピック・サンダー」も完成させることになる。