コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第53回

2017年11月30日更新

佐藤久理子 Paris, je t'aime

パリの日本映画祭キノタヨを通して見る、海外で評価される日本映画とは

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フランスで唯一、日本映画に特化した映画祭として知られるキノタヨ映画祭。第12回目を迎えた今年の受賞結果は、先日ニュース欄でお伝えしたが、ここではもう少し詳しく、映画祭の反響を通してフランスにおける日本映画の受け止められ方について考えたい。

今年コンペティションを彩った10本は、「アズミハルコは行方不明」「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」といった、今の日本の若者たちの空気を伝える作品、「愚行録」「永い言い訳」のようなずっしりと妥協のないドラマ、個性的ラブストーリーの「彼らが本気で編むときは」「パーフェクト・レボリューション」「Oh Lucy!」、大手スタジオ作品「怒り」から、インディペンデント製作で東日本大震災後の陸前高田を映したドキュメンタリー「息の跡」、同じく震災の後遺症をドラマに組み込んだ「彼女の人生は間違いじゃない」と、バラエティに富み、まさに旬な日本映画のショーケースというに相応しい。

選考委員代表のディミトリ・イアンニは、ここ数年の傾向をこう語る。「もちろん応募状況にも寄りますが、今の日本映画の制作本数の多さからみると、必然的にバリエーションはもたらされる。選考の基準はまずクオリティにあります。去年は深田晃司富田克也濱口竜介といった作家的な監督が多かった。それに比べると今年はより多彩であるのと、初長編作が3本(『愚行録』『Oh Lucy!』『息の跡』)あり、新世代も紹介しています。キノタヨの観客は年々増えているとともに、客層も広がっています。以前はフランス人の場合、映画通というより日本文化全体に興味を持っている観客が多かった印象が、いまは映画愛好家、あるいは日本映画に興味のある客が加わり、若い年代に訴求している。映画を見慣れている彼らの見識眼は鋭いので、たとえば2年前に紹介した『野火』のように、ショッキングでも優れた作品であれば積極的に紹介しています」

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観客によって選ばれた最高賞(ソレイユ・ドール)は、荻上直子の「彼らが本気で編むときは」、西川美和の「永い言い訳」、平柳敦子の「Oh Lucy!」の3作。日本でもこれから公開になる「Oh Lucy!」は、男っ気のない熟年OL(寺島しのぶ)が英会話教室のアメリカ人教師(ジョシュ・ハートネット)に惚れたことで始まる珍道中を描く辛口のコメディ。アメリカで演劇と映画を学び、現在シンガポール在住の平柳監督の国際的な視点を感じさせ、今年のカンヌ国際映画祭の批評家週間部門に出品された際にも好評を得ていた。今年のベルリン映画祭パノラマ部門出品がワールドプレミアだった「彼らが本気で編むときは」は、ホモセクシュアリティに関する画一的ではない描き方や、人間関係の機微の表現が評価された。

永い言い訳」は、妻の突然の喪失による、残された夫の後悔や割り切れない気持ちと、そこからの再出発を丁寧に描いた手腕が評価され、「何度でも観たい」という観客もいた。ちょうど11月27日からフランスで一般公開された本作は、西川監督にとって記念すべき欧米初の劇場リリース作。今回パリを訪問した際、西川監督は感慨深げにこう語った。

「自分にとっては、『ゆれる』(2006年/カンヌ監督週間部門出品)以降の作品を、三大映画祭に続けて出品できなかったことや、海外での受賞歴がないことなどが、なかなか外国でのリリースに繋がらないのだろうと分析していたので、劇場公開が叶ったことは本当に嬉しいです。今年でちょうどデビュー15年目なので、ここでひとつ(作品を)遠くに投げられたことは救いになりました。ヨーロッパでは小さい人間関係を描いた作品が少なくないですし、そういうものがちゃんと評価されているので、励まされます」

劇場リリース作品といえば、去年のキノタヨ組である富田克也の「バンコクナイツ」もフランスで公開中であり、批評家から強い支持を受けている。富田監督は現在まで長編が4作品ながら、今年7月のラ・ロシェル国際映画祭ですでに特集上映が組まれたほど。ラ・ロシェルの代表、プリュヌ・アングレは絶賛する。

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「トミタは完全にインディペンデントで、自由な視点で、撮りたいものを撮っている。今の世界的な風潮とは異なり、必要なだけ時間を掛けて作っていて、その豊かさが作品に表れています。まさに彼にしかできないパーソナルな作品。さらに『バンコクナイツ』は前作以上に、総合的にひとつの完成形に到達していると思います。また我々にとっては、外国を舞台に、外から見た日本人を描いていることがとても興味深く、ラ・ロシェルの観客からも彼の映画を発見できて幸福だったという声を聞きました」

たしかに富田監督、平柳監督をはじめとする、「海外組」の国外での活躍も最近の特徴かもしれない。昨年のベネチア映画祭オリゾンティ部門に出品され、今回キノタヨで最優秀映像賞に輝いた「愚行録」の石川慶監督も、ポーランドの国立映画学校で学び、ポーランド語の短編を制作してきた海外組。「愚行録」ではポーランド人の撮影監督と組み、「本作はクライムサスペンスですが自分としては人間ドラマであり、いまの東京の縮図のように感じました」という重い題材を、独創的なフレーミングや色彩感覚、音の使い方も含め鋭い演出で見せる。

彼らの作品を振り返ると、今の日本映画界で定型となっている、人気原作本を人気俳優により映画化する明るいエンタメ、という路線とは異なるユニークなアプローチを感じる。そしてこうした個性派の方が、海外ではやはり評価されやすいのである。(佐藤久理子)

筆者紹介

佐藤久理子のコラム

佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。

Twitter:@KurikoSato

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