永い言い訳

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劇場公開日:

永い言い訳

解説

「ゆれる」「ディア・ドクター」の西川美和監督が、第153回直木賞候補作にもなった自著を自身の監督、脚本により映画化。人気作家の津村啓こと衣笠幸夫は、突然のバス事故により、長年連れ添った妻を失うが、妻の間にはすでに愛情と呼べるようなものは存在せず、妻を亡くして悲しみにくれる夫を演じることしかできなかった。そんなある時、幸夫は同じ事故で亡くなった妻の親友の遺族と出会う。幸夫と同じように妻を亡くしたトラック運転手の大宮は、幼い2人の子どもを遺して旅立った妻の死に憔悴していた。その様子を目にした幸夫は、大宮家へ通い、兄妹の面倒を見ることを申し出る。なぜそのようなことを口にしたのか、その理由は幸夫自身にもよくわかっていなかったが……。

2016年製作/124分/PG12/日本
配給:アスミック・エース
劇場公開日:2016年10月14日

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(C)2016「永い言い訳」製作委員会

映画レビュー

4.5疑似主夫の発想が見事

2020年8月30日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

愛する人の死は悲しい。悲しいのが当然のはずである。
しかし、この映画の主人公は、その当然に該当しなかった。映画は妻の死を悲しめない男のやり場のない感情をつぶさに描く。西川美和監督の人間の見つめ方は相変わらず、するどい。冒頭、髪を妻に切ってもらう主人公の描写がいい。妻に何もかも任せているにもかかわらず、不満ばかり言う人間なのだというのが見事に伝わってくる。散髪というのは、考えてみると奇妙な場面だ。刃物を持った人間の前で無防備に身動きとれない自分をさらすわけで、そこには信頼関係がないとできない。そして、至れり尽くせりになっている状態に、なんだか可笑しみを感じる。
そして、本木雅弘に疑似的な主夫をやらせたのもうまい。自分と同じく妻を亡くした男性の家庭を助けるために、主夫に徹することで、誰かに必要としもらうことで、主人公は悲しめなかった自分を見つめなおすきっかけを得る。妻を失った男同士に絆が生まれるというのは、BL的な想像力も働く。西川監督は何かBL作品を参考にしたのだろうか、気になっている。

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杉本穂高

4.0『そして父になる』へのアンサームービー?

2017年1月31日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

妻を亡くしても悲しみを感じられない男が、自分がいかにマトモでないかを認識していく物語だ。アメリカ映画『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』と似通ったプロットだが、同時に是枝監督の『そして父になる』も思い出した。

『そして父になる』は、エリート意識にとらわれた男が父親としての愛情を見つけ出す話。その触媒になるのが貧しいが愛情豊かな別の家庭という点でも本作とよく似ている。

ただし、西川監督は「親は、夫は、家族はこうあるべき」という結論に向かおうとはしない。本作の主人公は物語の冒頭からして、性格のねじくれた、相当に面倒くさいダメ人間だ。それが倫理的な正しさに目覚めるのでなく、ろくでもない自分を認識した上で、ちょっとマシな人間になる。

しゃっきりしない話ではあるが、ある意味ストレートな成長物語だった『そして父になる』の反歌のようで、似た素材でここまで違うものを描く西川監督の手腕を楽しんだ。

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村山章

4.0心を抉るような鋭さと、深く抱きしめる優しさと

2016年10月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

突如の別れはどのように受け入れられるものなのか。遺された者はそこで何を感じるのか。

主人公が即座に感情表現できる人であれば本作は成立しえない。その分“サチオ”はうってつけだ。2時間かけてゆっくりと寄せる喪失の波。いやむしろ「一向に泣けなかった自分」についての探求の旅というべきか。その意味で彼は、最後まで己にしか関心のない人間だったのかもしれない。

しかしそれでも心に差し込む光の角度だけは、徐々に、確実に変わりゆく。妻への思いは曖昧だが、この先の生き方として、「他人との間」にこそ自分の現在地を見出していくような気配が見て取れる。そのことが何よりの尊さを持って胸に響く。

「オンブラマイフ(優しい木陰)」の調べに乗せ靄を進む列車は人生の縮図のようだ。共にいた人が下車し、新たな旅人と旅を続ける。そうやって木陰を求め人は彷徨う。西川監督はまたも、慈愛と切れ味が同居する演出で人生の本質をすくい取って見せてくれた。

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牛津厚信

4.5「おくりびと」に並ぶモックンの代表作

2016年10月17日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

泣ける

知的

テレビに出演するような有名作家だけれど、本業の執筆に生きがいを感じているようには見えない。無名時代に支えてもらった妻との愛は冷め切っている。妻の留守中、自宅で浮気相手と一夜を過ごした朝、妻の事故死の報を受けるが、悲しむ感情すら起こらない……。

外づらはいいが中身はダメダメな中年男を、本木雅弘が説得力十分に演じている。別の遺族一家に出会って、子育てを手伝っていくうちに変わっていく過程の表現もうまい。

妻役の深津絵里は、諦念を漂わせるクールな美しさが光る。出番が少ないのがちょっと残念。

西川美和監督が映画に先駆けて描いた原作小説にも同じ空気が流れていて、ちゃんと地続きの世界観なんだなと思わせる。映画を楽しめた方、小説もぜひ。

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高森 郁哉
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