コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第115回

2009年7月3日更新

FROM HOLLYWOOD CAFE

第115回:オスカー作品賞の10作品ノミネートは多すぎでは?

先日、映画芸術科学アカデミーのシド・ガニス会長は、来年のアカデミー賞において作品賞部門のノミネート数を10作品にすると発表した。作品賞のノミネート数といえば、他の主要部門と同様、計5本と決まっていたのに、突如、来年の第82回アカデミー賞から倍増させるというのだ。映画芸術科学アカデミーによると、ノミネート数が5本に定着したのは1944年の第17回からで、それ以前はバラバラだったらしい(31年と32年は8本、34年と35年は12本もあったという)。だから、アカデミー賞を「ルーツに戻す」ために、第82回ではノミネート数を10本に決定した、とガニス会長は説明する。

ルール改正で「カールじいさんの空飛ぶ家」のような アニメ作品にも作品賞ノミネートの可能性が
ルール改正で「カールじいさんの空飛ぶ家」のような アニメ作品にも作品賞ノミネートの可能性が

今回のルール改定で恩恵を被るのはメジャースタジオだ。最近の作品賞部門はインディペンデント系の地味な作品が独占していたから、ノミネート枠が拡大することで、メジャースタジオ配給の人気作品がエントリーする可能性が大いに高まった。今年の作品賞のノミネートは「ベンジャミン・バトン/数奇な人生」「フロスト×ニクソン」「ミルク」「愛を読むひと」「スラムドッグ$ミリオネア」の5作品だったが、もし10作品に拡大されていたら、「ダークナイト」や「ウォーリー」などの大ヒット映画もノミネートされていたに違いない。これらの映画を配給するメジャースタジオはアカデミー賞効果によるさらなる収益を獲得できるし、人気作品をノミネートすることでアカデミーは授賞式中継の視聴率アップができる。まさに一石二鳥の名案である。

しかし、さすがに10作品は多すぎではないだろうか?

シド・ガニス会長は、ルール改正の根拠として、「風と共に去りぬ」が作品賞を受賞した1939年度のアカデミー賞を例に挙げている。このときのノミネート数は10作品であり、「風と共に去りぬ」のほかに「スミス都へ行く」「オズの魔法使」「嵐が丘」「駅馬車」「チップス先生さようなら」「廿日鼠と人間」「愛の勝利」「邂逅 めぐりあい」「ニノチカ」という名作がノミネートされていた。ノミネート本数を10作品にすることで、その年に公開されたすべての作品を汲み取ることができると会長は胸を張る。しかし、いまのハリウッドは、アカデミー賞ノミネートに値する作品を10本も生み出しているのだろうか? 好みにもよるだろうが、6本か7本が良いところじゃないかと思う。

それでもアカデミーがノミネート数を10作品に増やしたのは、スタジオ側からの強い圧力があったからだと言われている。だいたい、その年の優れた業績をすべて表彰するのがアカデミー賞の使命であれば、作品賞だけでなく、俳優賞や監督賞など他のすべての部門においてノミネート枠を増やすべきだと思う。シド・ガニス会長といえば、かつてパラマウントとコロンビアで社長を務めた人物だから、ルール改正によって業界に便宜を図ったと見られても仕方がないと思う。

第82回アカデミー賞授賞式は2010年3月7日に行われる。

筆者紹介

小西未来のコラム

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。

Twitter:@miraikonishi

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