コラム:編集長コラム 映画は当たってナンボ - 第22回
2008年11月10日更新
第22回:「レッドクリフ」大ヒット。エイベックス初の快挙
エイベックスにとって、08年11月4日は忘れられない日になったことと思う。1つは小室哲哉が逮捕された日として、そしてもう1つ、自社配給の映画が初めて興行ランキング第1位を獲得した日として。
前者については、我々の守備範囲外なのでここで何も書くことはない。だが後者については、その偉業について讃えておく必要がある。例によって、週末の興行ランキングを見てみよう。
1 (初) 「レッドクリフ Part I」 (東宝東和、エイベックス)
2 ( 1) 「容疑者Xの献身」 (東宝)
3 (初) 「まぼろしの邪馬台国」 (東映)
4 (初) 「ハンサム★スーツ」 (アスミック・エース)
5 ( 2) 「イーグル・アイ」 (角川映画、角川エンタテインメント)
6 ( 3) 「ホームレス中学生」 (東宝)
7 ( 5) 「P.S.アイラヴユー」 (ムービーアイ、東宝東和)
8 ( 7) 「センター・オブ・ジ・アース」 (ギャガ)
9 ( 6) 「ICHI」 (ワーナー)
10 ( 9) 「おくりびと」 (松竹)
※(11月1~2日・全国動員集計)興行通信社提供。頭のカッコ内は前週の順位。
そもそも「レッドクリフ」は、エイベックスグループ創立20周年、東宝東和創立80周年、テレビ朝日開局50周年記念作品というアニバーサリーが3つも重なった事業である一方、エイベックスとしては、製作出資に30億円を投下したハイリスク事業でもある。
監督のジョン・ウーは中国大陸の出身で、ハリウッドでも「フェイス/オフ」や「M:I-2」など華々しい実績を持つ。加えて、東京国際映画祭に合わせた来日プロモーションや、公開間際の自社アーティスト大量稼働も奏功して、同作はエイベックスが配給した映画では初めて、国内ランキングの1位を記録した作品となった(製作に参加した作品としては、07年の「蒼き狼 地果て海尽きるまで」の1位がある)。
1日の映画サービスデイを頭に、3連休となる11月の最初の週末に公開日をセットした作戦もうまくハマった。オープニング3日間の成績は、動員82万5000人、興収9億6100万円と発表されている。最終的には40億円以上が見込まれる出足となっており、目下のターゲットは、03年公開の「HERO」の持つ(日本映画を除く)アジア映画の最高興収40.5億円である。ちなみに「HERO」のオープニング2日間の成績は、動員43万3000人、興収6億3400万円。こちらは2日間の数字なので比較が難しいが、ほぼ同等か「レッドクリフ」の方がやや上と見ることができる。アジア映画ナンバーワンの座は、十分に奪取可能である。
映画の評判も概ね良好なのだが、ストーリーは、肝心の「赤壁の戦い」が描かれる手前で終わってしまうことに、意外性や失望を漏らす向きも多い。そう、この映画は「Part I」「Part II」の2部作なのである。最大のクライマックスとなる「赤壁の戦い」が描かれる「Part II」は09年4月公開。実は、この、2部作とした(なってしまった)のもかなりのリスクと見られていた。興行が2回に分割されるのだから、必然的に、宣伝費やプリントのコストはおよそ2倍になる。1作目が成功すれば御の字なのだが、失敗したときの痛手は大きい。過去には、「キル・ビル」2部作(ギャガ配給)がVol.1で興収25億円を上げたが、Vol.2では11億円と半分以下になってしまったケースがある。2作合わせて36億円というのは大ヒットの部類だが、2回の封切りにかかったコストを想像するに、決して効率のいいビジネスでなかったことは間違いない。
もちろん「レッドクリフ」は、「キル・ビル」とは内容も客層も違う。オープニングの勢いからいって1作目で40億円、2作目をその半分の20億円として、最低でも興収60億円は行けるだろう。題材が三国志だけに、平日の稼働(=シニア層)も期待できる。できれば、2作合わせて80億円、いや100億円以上を狙って欲しいものである。(eiga.com編集長・駒井尚文)
筆者紹介
駒井尚文(こまいなおふみ)。1962年青森県生まれ。東京外国語大学ロシヤ語学科中退。映画宣伝マンを経て、97年にガイエ(旧デジタルプラス)を設立。以後映画関連のWebサイトを製作したり、映画情報を発信したりが生業となる。98年に映画.comを立ち上げ、後に法人化。現在まで編集長を務める。
Twitter:@komainaofumi