コラム:川村元気 誰も知らない100の企み - 第2回
2022年9月4日更新
川村元気、50問50答に挑む
「電車男」に始まり、「告白」「悪人」「モテキ」「おおかみこどもの雨と雪」「君の名は。」「怒り」「天気の子」など、これまで40本の映画を手がけてきた川村元気氏は、映画業界ならずとも、クリエィティブな仕事に従事する人々にとって無視することができない存在といえるでしょう。今年、映画プロデューサーのほかに小説家、脚本家、絵本作家など、実に多くの顔を持つ川村氏に、「映画監督」という肩書きが新たに加わりました。
自らの祖母が認知症になったことをきっかけに、人間の記憶の謎に挑んだ自著「百花」の映画化に際し、なぜ監督を務めようと思ったのか。激務をこなす川村氏にとって、仕事というカテゴリーにおける効率、非効率の線引きはどこにあるのか。
この連載では、本人のロングインタビューはもちろん、川村氏の“ブレイン”ともいえる仕事仲間や関係者からの証言集などを通して、全7回で「川村元気」を紐解きます。映画人としてのキャリアをスタートさせてから「百花」に至るまで、100の企みに迫っていきます。
第2回は、映画監督、配給会社スタッフ、宣伝会社スタッフ、映画.com編集部員から寄せられた50問の質問を「プライベート編」「お仕事編」に分割して答えてもらいました。
■プライベート編
●初めてデートで観た映画は?
デビッド・クローネンバーグの「クラッシュ」(チョイスミス)。
●最近どんなことで泣いた?
「トップガン マーヴェリック」は冒頭から涙目で、トム・クルーズの「But not today」で涙腺崩壊。
●小・中学生時、作文は得意でしたか?
読むのは好きだったけど、書くのは苦手でした。
●学生時代に熱中したことは何ですか?
特に打ち込んだことはなく(それがコンプレックスだった)。
映画、音楽、漫画、小説、美術などが満遍なく好きで、
結果それが映画的だったのかもしれません。
映画にはその全てがあるので。
●学生時代にもっと経験しておけばよかったと思うことはありますか?
バイトなんかしないで親に借金してでもすべての時間、旅したり遊んでいればよかった。
●モーニングルーティンはある?
コーヒー豆を挽いて、ハンドドリップでコーヒーを淹れて飲みます。
●1日で最もリラックスする瞬間は?
眠っているとき。
●明日から1週間どこでも自由に旅に出られるとしたら、行先は?
ニューヨーク(何度行っても楽しい)。
●世界中あちこち旅をしているイメージがありますが、最も肝が冷えた体験、色々な意味でやばかったことは?
ブータンで落馬しました。
●本で最近面白かったものは?(国内外問わず)
「くらやみに、馬といる」(河田桟著/カディブックス)。
●漫画原作の映画を多数手がけてきましたが、いま注目している漫画は?
藤本タツキさんの作品すべて。
●コロナ禍でご自身の生活で変わったことはありますか?
夜ではなく朝に、書く仕事をするようになりました。
●書籍は紙派? デジタル派? 馴染みの書店は?
小説は紙、漫画はデジタル。書店は三省堂書店有楽町店によく行きます。
●勝負飯は?
おにぎり。
●日比谷、有楽町、銀座界隈でおすすめのランチスポットは?
銀座デリー。
●「川村元気」なのに、元気なさそうに見える時があるのは何故ですか?
名前と真逆で、よく病気になります。
●よく使うソーシャルメディアは?
LINE。
●“人生最初の記憶”はなんですか?
3歳の時、坂道を転がり落ちている記憶(大怪我)。
あと強く覚えているのは、小さな自転車から少し大きな自転車に
買い替えてもらった時の記憶。
古い自転車を捨てて、新しい自転車に跨った時に、
それまで乗っていた小さな自転車が急に生気を失い、
まるで死んでしまったようにくたびれて見えた。
●人生で初めて映画館で観た映画はなんですか?
スティーブン・スピルバーグの「E.T.」。
3歳の時に、横浜の映画館で。映画館の床はベタついていて、暗くて怖った。
けれどもE.T.と少年エリオットを乗せた自転車が、空を飛んだ時に
興奮して立ち上がった(父親談)。
20年後に、大阪・難波の映画館で働いている時のプリントテストで、
ひとり深夜に「E.T.」20周年のデジタルリマスター版を見た。
そのとき同じシーンで涙が溢れた。
3歳と23歳で、同じ場面で感動していた。
こういう映画を作りたい、と強く思った瞬間でした。
■お仕事編
●憧れの人はいますか?(業界の先輩、歴史上の偉人など)
ポン・ジュノ監督は永遠の先輩です。
●映画やドラマで最近面白かったものは?
「ストレンジャー・シングス 未知の世界」と「トップガン マーヴェリック」。
●映画業界以外で職に就くとしたら、どのような仕事を選びますか?
音楽、でしょうか。
●動向が気になる映画人はいますか?
●故人で仕事をしてみたかった映画人はいますか?
相米慎二監督
●これまでの仕事で一番自分を褒めたいことは?
「告白」「悪人」「モテキ」の頃は、よく働いていたと思います。
●一番忙しかった時の、1日のタイムスケジュールを教えてください。
記憶が無い。
●映画を監督するにあたって最も影響を受けた人は?
溝口健二監督
●組んでみたい監督、映画人は?(国籍問わず)
●一緒に仕事がしたい俳優は誰?(国籍問わず)
藤山直美さん
●日本のインディーズ映画で気になる人物はいますか?
片山慎三監督の次回作楽しみです。
●「この作品はすごい!」と嫉妬した作品は?
最近だと、イ・チャンドン監督の「バーニング」に圧倒されました。
●プロデューサーとして、映画化する作品を選ぶ際のポイントは?
いろいろありますが“タイトル”は重要視します。
●今いちばん組んでみたいアニメクリエーター、アニメスタジオを教えてください。
●最近とくに面白かったアニメ作品を教えてください。
「FLEE フリー」。涙が出ました。
●小学生のうちに見ておいてほしい映画は?
ご自身でプロデュースした作品、それ以外の作品で1本ずつ教えてください。
プロデュース作:「おおかみこどもの雨と雪」。
それ以外の作品:杉井ギサブロー監督の「銀河鉄道の夜」。
●24時間のうち、どれくらい仕事のことを考えていますか?
仕事と遊びの境目がないし、夢で見たことすら企画につながることもあるから、0ともいえるし24ともいえる。
●小説を書く際、映画にしたときの画を思い浮かべているのですか?
映画にするのが非常に難しいことを、映像的に描くようにしています。
●「仕事ができるな」と思う人の特徴を教えてください。
加治倫三さん(テレビ朝日)が「新人の頃、コンビニで水買ってこいと言われた時に、
お菓子も買っていくようにしていた」(うろ覚え)と仰っていたのですが、
これは企画にも置き換えられるなと思いました。
頼まれていないアイデアという“お菓子”をその場にいくつ持ち込めるか。
●動画配信サービスとどのように付き合っていこうと考えていますか。
企画次第。
●困難だけど実現したい夢の企画はある?
時代劇をまだ作ったことがないので、いつか。
●日本映画が更に飛躍するためには、どの部分に時間と費用を割くべきでしょうか?
全部、なのですが特に美術とポストプロダクション。
●ヒットメーカーとして知られる川村さんですが、コケることもあるかと思います。その時はどうやって気持ちを立て直すか教えてください。
映画はみんなで作るものなので、ヒットしても自分のおかげじゃないし、
コケても自分だけのせいじゃない、と思うようにしています。
●一緒に仕事をしたいと思える監督の条件は?
珍しい才能があること。
●川村さんにとってカンヌってどんな所ですか?
ふわふわしたところ。
●作家、作詞家、プロデューサー、監督……。本当は何人いるんですか?
描きたい物語があって、それを一番適した表現で出している、というイメージです。
●川村さんが作り出すイメージが一番ないのがホラーなのですが、製作するとしたらどんな題材?
「来る」はホラーのつもりで作ったのですが、ホラーじゃなかったのかな。
●「告白」「悪人」が好きなんですが、どうやって企画を立ち上げたんですか?
まだ20代だったので、やりたいと騒いで、
いろんな人に味方になってもらったという記憶しかありません。
●年間で何本くらい企画を立案されているのですか?
新人の頃は100以上企画書を書いていた記憶があります。
●映画業界の新人が今やるべき事は何でしょうか?
才能のある人のそばで仕事をする。
●川村さんが描く理想の映画業界はどんなものですか?
奇妙なものが勝手にたくさん作られている状態。
幾つか熱のこもった解答も見受けられましたが、シンプルでいて行間に何かしらの真意を潜ませた川村さんの50問50答、お楽しみいただけましたか?
第3回は、「百花」製作に際し川村さんと“共犯”関係にあったキーマン3人のインタビューをお届けします。ご期待ください。
筆者紹介
大塚史貴(おおつか・ふみたか)。映画.com副編集長。1976年生まれ、神奈川県出身。出版社やハリウッドのエンタメ業界紙の日本版「Variety Japan」を経て、2009年から映画.com編集部に所属。規模の大小を問わず、数多くの邦画作品の撮影現場を取材し、日本映画プロフェッショナル大賞選考委員を務める。
Twitter:@com56362672