コラム:細野真宏の試写室日記 - 第69回
2020年4月28日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
第69回 試写室日記 【新型コロナ番外編】2019年作品でリアルに儲かった、あのメガヒット映画のお金事情 :第3回
日本の映画では、「個別の作品の利益など、具体的な数字は出さない」という風土が続いています。
その一方で、世界で展開をするハリウッド映画では、制作費などを詳細に公表するのが一般化しています。
昨年2019年作品は、大まかに世界で公開され、まさに今、配信などが行なわれているわけですが、話題作は最終的にどのくらいの利益が出たのでしょうか?
ハリウッドのDeadlineにて、それらのデータが出たので、それを基に今後の動向も合わせて紹介していきます!
そもそも「映画の儲けとは何なのか?」を簡単に解説すると、まず、大きなものに劇場公開で得られる「興行収入」があります。
そして、その後にネットで配信したり、DVD化などをしたり、テレビでの放送権も売ることで「2次使用料」が得られます。
その一方で、映画には制作費がありますし、宣伝やプリント代の「P&A費」もかかりますし、特にハリウッド映画の場合は、ヒットしたらボーナス的に監督や大物キャストに追加で支払われるギャラなどもあったりするので、それらの「プラス」と「マイナス」の結果が、最終的な映画会社の「儲け」となるわけです。
【なお、金額の規模感を分かりやすく示すため、キリの良い「1ドル=100円」として換算します】
≫第1回(第21位~第25位)はこちら
≫第2回(第16位~第20位)はこちら
●第15位
「ベスト15位」にランクインした作品は、小規模映画から始まったキアヌ・リーブスの新たな代表作となった「ジョン・ ウィック」シリーズ3作目の「ジョン・ ウィック:パラベラム」となっています。
この作品はライオンズゲートという独立系の映画会社の製作だったため、2004年の第1弾の「ジョン・ ウィック」では2000万ドル(20億円規模)の制作費という「アクション映画」としてはかなりの低予算映画として始まりました。しかし製作総指揮も務めたキアヌ・リーブスの熱演や、作品の世界観なども含め出来が良く、世界興行収入は8600万ドル(86億円規模)を稼ぎ出したのです。
そこで、第2弾の「ジョン・ウィック:チャプター2」では制作費を倍の4000万ドル(40億円規模)にパワーアップさせ、世界興行収入は1億7150万ドル(171億円規模)を稼ぎ出しました!
そして、第3弾の本作「ジョン・ ウィック:パラベラム」では、さらに制作費を7500万ドル(75億円規模)に、よりパワーアップさせ、世界興行収入は3億2670万ドル(326億円規模)を稼ぎ出しているのです!
このように、制作費に対してキチンと安定的な結果を出せているのが本作の強みにもなっています。
さて、本作の最終的な利益は8900万ドル(89億円規模) となっていて、当然、続編の製作も決定しています。
新型コロナウイルスの影響も気になりますが、現時点では来年の2021年5月21日に「ジョン・ウィック4(原題)」の全米公開が決まっています。しかも、その日にキアヌ・リーブスの代表作「マトリックス」シリーズの最新作「マトリックス4(原題)」も公開することになっているのです!
果たして、新型コロナウイルス後の世界で“キアヌ・リーブス祭り”は行なわれるのか?
“キアヌ・リーブス祭り”に向けて今から予習を始めておいてもいいのかもしれませんね。
●第14位
「ベスト14位」にランクインした作品は、メガヒット常連の「ミニオンズ」シリーズなどで有名なイルミネーション・エンターテインメントの「ペット2」です。
本作は前作の「ペット」が好調すぎたのもあり、世界興行収入は前作から半減(51%減)して4億3000万ドル(430億円規模)となってしまいました。
ただ、このイルミネーション・エンターテインメント作品は、制作費が比較的安く抑えられていることでも有名で、「ペット2」では制作費が8000万ドル(80億円規模) となっています。
そのため、本作の最終的な利益は1億1800万ドル(118億円規模) と、1億ドル(100億円規模)を突破しているのです!
このように、世界興行収入が半減しても100億円規模の利益を出しているイルミネーション作品は流石ですね。
とは言え、そもそも「ペット」シリーズは、私の感覚では、最初の第1弾の段階で、「これは、ちょっと興行収入が高すぎるのではないか?」というイメージだったので、実は今回の半減くらいが私の感覚値と一致しています。
この「ペット」シリーズは、「飼い主がいない間、ペットは何をしている?」という設定のため、イルミネーション版の「トイ・ストーリー」という評価がなされることもあります。
第1弾の際には“世界のリアルペット人気”もあり、予想以上に興味をひくことに成功しました。ただ、やはり「トイ・ストーリー」シリーズと比べると、やや子供向けの面は大きいので、もし続編の「ペット3」が作られるのであれば、“楽しいけど、より深い物語”を構築できるのか、が大きなカギを握ると思われます。
思えば「トイ・ストーリー」シリーズも、「トイ・ストーリー3」で覚醒したように、この「ペット」シリーズにもまだまだチャンスはあるので期待して待ちたいと思います。
●第13位
「ベスト13位」にランクインした作品は、意外にも、日本では興行的にはほぼ注目されていなかったホラー映画の「アス」です。
この作品の世界的なヒットには、2017年の「ゲット・アウト」がアカデミー賞にノミネートされ「脚本賞」を受賞するなど大きな話題を集めたジョーダン・ ピール監督の最新作というのも大きく関係していると思われます。
また、例によってホラー映画は“アイデア勝負”なので、制作費は2000万ドル(20億円規模)で済んでいるのも大きいですね。
世界興行収入は2億5520万ドル(255億円規模)となっていて、中でも注目すべきなのは、アメリカだけで1億7510万ドル(175億円規模)と大部分を稼いでいる点です。
特にアメリカの批評家は絶賛している人が少なくなく、アメリカの“都市伝説的な不思議な世界観”が独自の視点で描かれているので、ハマる人にはハマるのだろうと思われます。
ちなみに、私は2回見てみましたが、「面白い展開はあるものの、世界観がやや論理的には無理があるのかな」といった印象で、中立的な作品でした。
とは言え、ハマる人は本当にハマるようなので、一度は見てほしい作品ではありますね。
さて、世界興行収入は「ペット2」などと比べると大幅に低いのですが、制作費がかなり安く済んでいるため、こちらも最終的な利益は1億ドルを超え、1億1900万ドル(119億円規模) となっているのです!
●第12位
「ベスト12位」にランクインした作品は、こちらも意外で「ヒックとドラゴン」シリーズ3部作の完結編である「ヒックとドラゴン 聖地への冒険」となっています。
そもそも、本作を製作したドリームワークス・アニメーション作品は、以前は日本でも「シュレック」シリーズや「マダガスカル」シリーズなど、普通に公開されていました。
ところが、それらの代表作を除くと、特にキャラクターの絵柄があまり日本人と相性が良くないようで、コケる作品が増え、だんだん劇場公開をしなくなり、ビデオスルーが増えていきました。
第1弾の「ヒックとドラゴン」については劇場公開され、私は試写の段階で非常に気に入って、地上波のテレビ番組でも「夏休み映画の注目作」として解説までしましたが、残念ながらパッとしない結果に終わってしまいました。
そして、第2弾の「ヒックとドラゴン2」は劇場公開さえされずに、ビデオスルーにされてしまいました。
ただ、配給会社のGAGAが突然、第3弾の本作「ヒックとドラゴン 聖地への冒険」の劇場公開に名乗りを上げました。
とは言え、ほとんどの人が第1弾も第2弾も知らない状態で、いきなり「最終章」を見せた状態になったため、過程が分からない人も少なくなく、“焼け石に水状態”で残念な結果に終わってしまいました。
では、世界に目を向けると、本作の制作費は1億3000万ドル(130億円規模) と割と高額で、大作映画の部類なのですが、世界興行収入は5億2180万ドル(521億円規模)を稼ぎ出していたりと、海外では意外とウケているのです。
その結果、本作「ヒックとドラゴン 聖地への冒険」の最終的な利益は1億3000万ドル (130億円規模)に達しているのです!
さて、ここで少し、“数字のトリック”的な仕組みに注目してみましょう。
まず、本作「ヒックとドラゴン 聖地への冒険」の制作費は、「ベスト17位」の「ワイルド・スピード スーパーコンボ」の1億ドル(100億円規模) よりも高く、さらに世界興行収入でも「ワイルド・スピード スーパーコンボ」の7億5905万ドル(759億円規模) と比べて負けています。
つまり、「ワイルド・スピード スーパーコンボ」と比べると、“制作費が高い上に、世界興行収入でも稼ぎが少ない状態”になっているのです。
そのため、普通に考えると、最終的な利益は、「ヒックとドラゴン 聖地への冒険」(第12位)よりも「ワイルド・スピード スーパーコンボ」(第17位)の方が高いはずなのです。
実は、まさに、これが「豪華キャストの実写映画とアニメーション映画との違い」で、実写の場合は、特に大物キャストにはボーナス的な成功報酬が支払われる場合が多いのです。
「ワイルド・スピード スーパーコンボ」の場合は、ドウェイン・ジョンソンとジェイソン・ステイサムというメインの2人を中心に支払われたりしたため、最終的な利益では「ヒックとドラゴン 聖地への冒険」が勝つ、という面白い逆転現象が起こっているわけですね。
もし、まだ「ヒックとドラゴン」シリーズを一度も見ていない人は、せめて第1弾の「ヒックとドラゴン」くらいは見てみてほしいです。
●第11位
「ベスト11位」にランクインした作品は、日本でも話題になった「ITイット THE END “それ”が見えたら、終わり。」でした。
これもホラー映画なので制作費は安そうですが、後編の本作「ITイット THE END “それ”が見えたら、終わり。」ではジェシカ・チャステイン、ジェームズ・マカヴォイら人気キャストが出ていたり、上映時間が169分もあったりするので、制作費は7900万ドル(79億円規模) と、(ホラー映画としては)そこそこ高めになっていています。
そして世界興行収入は4億7310万ドル(473億円規模)を稼ぎ出しました。
この世界興行収入は「第12位」の「ヒックとドラゴン 聖地への冒険」(世界興行収入521億円規模)に負けているのですが、制作費が(「ヒックとドラゴン 聖地への冒険」よりも)安い分、最終的な利益は1億6900万ドル (169億円規模)も稼いでいるのです!
このように、やはりホラー映画は出来の良い作品を作り出すことができれば、かなりコストパフォーマンスが良いことが分かりますね。
ちなみに、第1弾の「IT イット “それ”が見えたら、終わり。」は上映時間は135分で、特に人気キャストが出ているわけでもないので、制作費は3500万ドル(35億円規模) と通常のホラー映画規模の予算になっていて、世界興行収入は7億0180万ドル(700億円規模)も稼ぎ出せていたのです。
これは「続編の厳しさ」と言える面もありますが、それを差し引いても、本作「ITイット THE END “それ”が見えたら、終わり。」の結果は優秀だと思います。
ここまでの映画会社の利益順の作品ランキングで見えてきたのは、もっと分かりやすい「世界興行収入トップクラスのメガヒット大作」ばかりが並んでいることを想像していた人も多いと思いますが、必ずしもそういう訳ではないのです。特に世界的には「ホラー映画」は隠れたブームとなっていて、映画会社にとっては大事な収益源の分野であることも分かってきましたね。
次回は、いよいよ“ベスト10”の第6位から第10位までを紹介します。
≫第4回(第6位~第10位)はこちら
≫第5回(第5位)はこちら
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≫第9回(第1位)はこちら
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細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono