コラム:細野真宏の試写室日記 - 第17回
2019年1月16日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
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第17回「マスカレード・ホテル」。2019年の邦画実写映画の勢いはどうなるか?
2019年1月11日@東宝試写室
2018年の邦画実写映画における最大の特徴は、何と言っても「青春恋愛映画」のトレンドが極端に変わった、ということでしょう。
ここ数年の恋愛映画は、女子学生やOLをメインターゲットに据えた内容にしておけば、出来がよほど悪くない限り大抵は採算ラインを超えて収益を上げることができていました。
ところが、この方程式が通用しなくなるほど粗製乱造状態が続いてしまったためトレンドが大きく壊れて、出来の良い作品までが巻き添えを食うまでの事態に…。
邦画実写では、安易な「人気少女コミック原作の争奪戦」から脱却せざるを得なくなってきています。
そんな中での「劇場版コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」のメガヒットは、テレビ局主導映画の力強さを改めて印象付けることになったと思います。
興行収入100億円超えも見えてきた「ボヘミアン・ラプソディ」のブームの背景にも、テレビ局の援護射撃的な露出が大量にオンエアされたのが大きかったように、やはりテレビの影響力はまだまだ侮れないのが現状のようです。
さて、そのような背景もあり、2019年最初の邦画実写大作である「マスカレード・ホテル」には注目が集まります。
まず作品の出来は、「HERO」の鈴木雅之監督×木村拓哉主演なので、テンポも軽快でなかなか良いと思います。
ただ、肝心の興行収入については目途が非常に想定しづらいのが本音です。
そこで、2つのアプローチから考察してみたいと思います。
この作品は「HERO」と同じフジテレビ映画ですが、私は個人的に、世間でよく言われる(テレビ局が主導しているから)「テレビドラマレベルの映画だ」といった批判はあまり好きではありません。
では、そもそも「テレビドラマ」と「テレビ局主導の映画」というのは、何が大きく違うのでしょうか?
これは、一言でいうなら「スケール感」だと思います。「テレビ局主導の映画」は、テレビドラマでは絶対に無理な規模の予算をかけて、思いっきりスケール感のある画作りをするわけです。
例えば、今回の作品と似た構造の作品に三谷幸喜監督の「THE 有頂天ホテル」があります。
これは、当時のフジテレビは、相当に無謀ともいえる賭けをしていました。
なぜなら、当時の日本では「コメディ映画はヒットしない」という定説があったからです。
それでも「THE 有頂天ホテル」では、当時のフジテレビ映画としては最高レベルの制作費をかけて、あのようなスケール感のあるセットを作り、豪華な実力派俳優陣も集め勝負したのです。
その甲斐もあったのか、当時の私は試写を見た時に、本当に驚きました。
テンポは言うまでもなく、どれをとっても邦画のコメディ映画としては最高レベルの傑作で、これがヒットしないとおかしいと思っていました。全くの余談ですが、「THE 有頂天ホテル」公開直前に両国国技館で講演をした際に、映画とは全く関係のない場でしたが、思わず「THE 有頂天ホテル」のPRもしてしまったくらいです(笑)。そのくらいの「口コミ力」がありました。
そして実際に公開されると、制作サイドも驚く想定外の大ヒットを記録し、最終的に興行収入は60.8億円となり「コメディ映画は日本ではヒットしない」という定説を見事に打ち砕いてくれました!
今回の「マスカレード・ホテル」においても、ホテルのロビーやバックヤードなど、1カ月以上をかけ日本最大級のスタジオで破格な規模の巨大セットを組んでいて「映画ならではの画作り」ができているのです。
とは言え本作はミステリー映画。「THE 有頂天ホテル」のようなコメディ映画ではないので、もう1つの視点でも考察してみます。
本作の原作者は東野圭吾で、「ガリレオ」シリーズや「新参者」シリーズで実績もあり、特に「ガリレオ」の最高傑作の「容疑者Xの献身」では興行収入49.2億円を記録しています。
そして、本作の「マスカレード・ホテル」は、事件の犯人を捜すミステリーなので、この2作品と近いものがあります。
ただ、気になる点としては、「ガリレオ」の2作目の「真夏の方程式」もなかなか出来は良かったのですが、興行収入は1作目よりも落ちて33.1億円となっています。
また「新参者」シリーズは、1作目の「麒麟の翼 劇場版・新参者」は興行収入16.8億円、2作目の「祈りの幕が下りる時」は15.9億円で、20億円に達していないのです。
これは個人的な感性ですが、この「マスカレード・ホテル」は、「仮面を守るホテルマン」×「仮面を剥がす刑事」といった興味深い設定をはじめ、「新参者」シリーズよりは設定もストーリーも面白いと思っています。
そのため、興行収入20億円の壁は突破できるのではないか、と思います。
ただ、「HERO」が2作目で興行収入46.7億円に落ち込んだ事例もあり、ちょっと気掛かりです。
確かに「HERO」1作目より2作目は、多少出来が劣るのは否定しませんが、興行収入81.5億円から46.7億円は、少し想定を上回る落ち込みでした。
とは言え、これは「ブームの最大風速」のときと「平時」を比べているようなもので、実はあまり大した話ではないのかもしれませんね。
加えて本作が有利な点を言えば、原作者の東野圭吾は、この「マスカレード・ホテル」の主人公の刑事を、木村拓哉を想定して書いていたんだそうです。
実際に見てみれば分かりますが、確かに役柄がピッタリだと思います。
ほかにも、出来によってはサプライズヒットするかもしれない「コンフィデンスマンJP」の長澤まさみや、「HERO」でも良い味を出している小日向文世など、キャストも相乗効果を見込めるような魅力的な布陣で今後への期待もかかります。
もし、この王道的な作品があまり支持をされないと邦画実写映画の見通しが悪くなってしまうので、何とか景気よく興行収入30億円は叩き出してほしいと期待します。
2018年に公開された木村拓哉主演作で、(「硫黄島からの手紙」など)演技派の二宮和也と初コラボした「検察側の罪人」は、キャストの斬新さもあって興行収入29億円を記録しました。
これを直近の一つの基準とすると、本作で興収30億円というのは、決して現実離れした数字ではないと思いますが、果たしてどうなるのかは注目ですね。
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono