ペ・ドゥナ、水川あさみらがキャリア&映画業界の女性の働き方の変化語る【第36回東京国際映画祭】
2023年10月27日 17:05
第36回東京国際映画祭で、スペシャルトークセッション「ウーマン・イン・モーション」が10月27日に開催され、俳優のペ・ドゥナ、水川あさみ、WOWOWチーフプロデューサーの鷲尾賀代、是枝裕和監督が登壇した。
「ウーマン・イン・モーション」は、グローバル・ラグジュアリーグループのケリングが、2015年のカンヌ国際映画祭で、カメラの前と後ろで活躍する女性に光を当てること目的とし、発足。写真、アート、デザイン、音楽、ダンスの分野にも活動を広げ、女性の才能を表彰する。
3年前から東京国際映画祭「交流ラウンジ」のアドバイザーの立場として参加している是枝監督は、「映画の現場で活躍する女性たちのトーク、労働環境において何が問題かをあぶりだしていくのかを映画祭の一環で行うのは大きな進歩だと思っている」と語る。是枝監督ほか、西川美和監督、岨手由貴子監督らも参加する日本映画業界の労働環境改善のための活動「action4cinema(アクションフォーシネマ)」について紹介した。
映画評論家の立田敦子氏が司会を務め、久々の来日となったペ・ドゥナに、キャリアと昨今の韓国映画をはじめとする韓国のコンテンツの世界的な躍進について質問した。
「モデルとしてスカウトされてから俳優の道に進みました。難しいこともありますがそのチャレンジに中毒性があり、続けてきました。情熱というより、自然と人生のほとんどが俳優としての人生となっている」と1998年から俳優活動を開始した25年のキャリアを振り返る。
「韓国映画の人気は私も気になっていて、海外の友人に尋ねたことがあります。特に西洋の方々は韓国映画をたくさん見ていて、K-POPも聞いているようです。私は1本の映画から様々な感情を味わえ、アクション、ドラマ、恋愛などバラエティ豊かな側面が含まれているという理由です。韓国映画の魅力は人間力だと思います。かかわっている人々が情熱的で、ひたむきに、汗と涙をすべて注いでいる。それが映画からも伝わるので、世界で愛されているのだと思います」と私見を語る。
その一方で、「(映画の歴史的にみると)先に日本の映画が注目を集め、そして香港映画があって……という時代の変遷がありました。時代の流行に乗るのではなく、クラシックになることに比重を置くことが大事だと思います。最近、黒澤明監督の映画を見ていますが、本当にものすごいです。韓国映画は今、そのような時期を経ているのではと思う」と一過性のブームに終わることがないことを願っていた。
ペ・ドゥナは山下敦弘監督の「リンダリンダリンダ」、是枝裕和監督の「空気人形」「ベイビーブローカー」など日本人監督との仕事にも積極的だが、日韓両国での映画の撮影現場で大きな違いを感じたのは、撮影時間と食事、モニターだという。
「2004年に山下敦弘監督の『リンダリンダリンダ』で初めて日本で撮影しました。韓国の撮影とは異なり、新鮮で学ぶことは多かったです。撮影時間がとても短いのです。クランクインの日、学校のセットでのシーンで早めに入ったら、正確に朝9時に始まりました。既にその前のシーンも撮り終わっていて。ワンシーン、ワンテイクも韓国より多いです。韓国では1作品で4カ月くらい、10カ月かけるのものもあります。『子猫をお願い』は6カ月でした。『リンダリンダリンダ』の撮影日数は28日でした。日本は本当に早く撮るのだと驚きました。また、文化的には近いですが、現場で皆がご飯を一緒に食べないことにも驚きました。韓国ではケータリングカーがきて、俳優もスタッフもみんな揃って食べます。日本はそれぞれがお弁当を食べる休憩の時間であって、社交の時間ではないことがわかりました。また、監督にしかモニターがないことにも驚きました。韓国では、俳優から小道具までそれぞれのパートでモニターがあります。『空気人形』の時にモニターを見たいと是枝監督に頼んだら、周りの方々に驚かれました。日本の現場はそういう雰囲気ではないのだなと学びました」
「私にはハリウッドでの経験もありますが、アメリカは真逆で、10時間近く待機の時間を経験しました。日本人は定時に終わります。インタビューも秒単位で管理されますよね。アメリカは俳優は朝呼ばれて、長く待機させられるのです。韓国のやり方はその中間かなと思います」
ペ・ドゥナの体験を受けて、米国での経験が長い鷲尾が「アメリカはユニオンの力が強く、12時間以内に撮影しなければならない決まりがあります。夜中の撮影の際は、次の撮影まで12時間空けるというルールもあるので、働き方については進んでいると思う」と補足。ペ・ドゥナも「2000年初旬頃まで、韓国も過酷な撮影をしており、昔は3時間くらいしか寝られないほどでした。今は外国の素晴らしいシステムを吸収して、応用する。それが役に立っていると思います。1週間52時間しか働くことができない、勤労法の影響が大きいです。映画人にも適用されるのでスタッフの状況は良くなりました。俳優にとってはあまり変わりませんが」と韓国国内での変化についても説明した。
河瀬直美プロデュース作品「霧の淵」(村瀬大智監督)で、先月開催された釜山映画祭に初めて参加したという水川は「小さな作品でしたが、満席で映画に関する興味の大きさ、映画に対する質問の深さが日本と違うと思った。韓国と日本、文化として映画の水準、見る人のリテラシーも違うことを目の当たりにして、ショックだった。私も映画に携る人間として、大きな課題だと思った」と振り返る。
ペ・ドゥナは「韓国は映画館に行って映画を見るという文化が日常に溶け込んでいて、映画が大好きな国民だと思います。釜山は特に映画を愛する人が多く集まる場所だと思います。韓国の観客のレベルが上がっているから、韓国映画のレベルも上がっていくという相互作用があると思います」と分析した。
そして、映画業界で女性を取り巻く環境についての話題に移る。日本の現場の現状を「力を使う部門や、撮影監督やチーフでも女性のスタッフが増えたと思います。でも、まだまだ年齢を重ねて、出産して子どもを持つこととのバランスがうまく取れないことのほうが多い、正直そう感じることは多い」と水川は現場での肌感覚を報告。
鷲尾は、ハリウッドでは40代以降の女優に大きな役が与えられなくなり、昨今現状を変えようと女優や女性監督、プロデューサーたちが立ち上がるようになったという事例を紹介。「日本ではまだ若い役者を主軸に置くことが多く、20代は日本でドラマや映画で経験を積んで、その後30代以降でハリウッドに行くという現状を聞くと悲しくなります。アメリカでは#metoo前は40を過ぎると、女優が主役の映画はなくなると言われており、リース・ウィザースプーンが自分の製作会社を立ち上げて、スタッフも女性としたようなそういう動きがある。エイバ・デュバーネイ監督などは積極的にマイノリティを雇っている」
ペ・ドゥナは「25年前と今を比べると、韓国も女性が働く環境は良くなりました。私が『子猫をお願い』を撮っていた時代に女性監督は非常に少なかった。女性スタッフが最年少だとかわいがられますが、監督になると摩擦が生じるのです。そこに葛藤を感じ、不当だと思いましたが、今はそういうことはなくなりました。人々の意識が変わったのかもしれません。2014年の『私の少女』で、チョン・ジュリ監督の現場は女性スタッフが多く、以前のように感じることはありませんでした」と韓国の現場の変遷とともに、ハリウッド映画「クラウド アトラス」(12)の経験から「ウォシャウスキーの現場はすべてオープンで、マイノリティへの偏見もなく、学びが多かったです。儒教の国で育ちましたが、男女では仕事においてその違いはないということを学びました」と語る。
#metoo運動が始まった頃に米国にいた鷲尾は「実力ある人を雇って、それがたまたま全員白人男性でも、黒人男性でもいいと思うと自分の意見を言って議論したことがあるが、これまで雇われてきたのがずっと白人男性であり、意図的に機会を与えるために、まず女性やマイノリティを雇うことがスタートとなる。そこからが実力での勝負。その変化を恐れないアメリカの底力を知った。アメリカや韓国の映画界に学ぶことがたくさんある、コピーでもいいのでやっていくことが大事」と期待を込めた。
職場での各種ハラスメントや差別問題については「私は不義には声を上げるべきだと考える人間です。今は、問題が語られるようになり、人種差別、性差別を過度に意識し、政治的な正しさを強調する過渡期だと思う。権力を使って、職業について誰かの生死を左右するようなことは正常なことではない。過ちを正し、クリーンになってほしいですし、徐々にそうなっています」(ペ・ドゥナ)
「#metoo運動始まった頃、日本は静かだった気がします。そして、今、問題として上がってくることが多くなりました。日本人の性質として、すぐに変わることが難しく、現場が変えなければとわかっていても、なかなかできない。根本的にいろんな水準をあげなければと思いますし、純粋に良い作品を作りたい人が集うのが大事だと思う」(水川)
「アメリカは女性にとっては天国のような仕事現場。現在全体の3、4割の女性リーダーの割合を5割にしようとしているが、日本は出る杭は打たれる、のような空気が流れ、女性は働きづらい。アメリカは堂々とやるアグレッシブさがある。最近公開された『リトル・マーメイド』では7つの大海の人魚を多種多様な人種で描き、その他のキャラクターも男性、女性、LGBTQが描かれている。自分も古い固定観念でここまで描かなければいけないのか?と思ってしまったが、今生まれて初めて見る子どもたちにとっては、多種多様な人がいるのが常識となる。映像作る側にも、責任がある」(鷲尾)
第95回アカデミー賞主題歌賞ノミネート作で、世界各国の映画界で活躍する女性監督と女優が集結し、女性を主人公に描いた7本の短編で構成されるオムニバス映画「私たちの声」では、呉美保監督が杏主演でシングルマザーの奮闘を描いた作品「私の一週間」で参加。「ジェンダーギャップ最下位の日本だが、日本の才能を世界に紹介できたのがうれしかった。日本とハリウッドをつなぐ懸け橋になりたい」と鷲尾。
映画業界での活躍を望む若者へのメッセージとして「若い方はアメリカのフィルムスクールに行くのが一番早い。卒業後のサポートもある。しかし、日本は厳しい世界。出る杭は打たれる世界でめげないメンタリティを持つこと。運も重要ですが、運を引き付けるのと、数回しかやってこないチャンスをつかみ取る準備をしておくこと。私自身そうやってきた。努力は誰かが見てくれると信じて、私もやっていきたい」と語る。
6年前に独立した水川は「ずっと映画や舞台をやりたかった。(独立で)業界で煙たがられる存在になったこともあったが、私なりに1歩ずつやってきた。やっと映画に関わる賞を貰って映画の神様が肩を組んでくれたと思った。純粋な気持ちで何に関わっていくか、何が起きても自分の確固たる気持ちを持ち続けるのが大事」とあきらめないことの大事さを説く。
ペ・ドゥナは「日本について知らないことが多く、“出る杭は打たれる”という言葉に衝撃を受けました。韓国は石に例えますが、たくさんあればどこに当たるかわかりません。何かを始めようとしている人には勇気と希望を持ち続けることを伝えたいです」とエールを送った。
第36回東京国際映画祭は11月1日まで、日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区で開催。
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