ベイビー・ブローカー

劇場公開日:

ベイビー・ブローカー

解説

「万引き家族」の是枝裕和監督が、「パラサイト 半地下の家族」の名優ソン・ガンホを主演に初めて手がけた韓国映画。子どもを育てられない人が匿名で赤ちゃんを置いていく「赤ちゃんポスト(ベイビー・ボックス)」を介して出会った人々が織り成す物語を、オリジナル脚本で描く。古びたクリーニング店を営みながらも借金に追われるサンヒョンと、赤ちゃんポストのある施設で働く児童養護施設出身のドンスには、「ベイビー・ブローカー」という裏稼業があった。ある土砂降りの雨の晩、2人は若い女ソヨンが赤ちゃんポストに預けた赤ん坊をこっそりと連れ去る。しかし、翌日思い直して戻ってきたソヨンが、赤ん坊が居ないことに気づいて警察に通報しようとしたため、2人は仕方なく赤ちゃんを連れ出したことを白状する。「赤ちゃんを育ててくれる家族を見つけようとしていた」という言い訳にあきれるソヨンだが、成り行きから彼らと共に養父母探しの旅に出ることに。一方、サンヒョンとドンスを検挙するため尾行を続けていた刑事のスジンとイは、決定的な証拠をつかもうと彼らの後を追うが……。ソン・ガンホのほか、「義兄弟 SECRET REUNION」でもソンと共演したカン・ドンウォン、2009年に是枝監督の「空気人形」に主演したペ・ドゥナら韓国の実力派キャストが集結。2022年・第75回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、主演のソン・ガンホが韓国人俳優初の男優賞を受賞。また、人間の内面を豊かに描いた作品に贈られるエキュメニカル審査員賞も受賞した。

2022年製作/130分/G/韓国
原題:Broker
配給:ギャガ
劇場公開日:2022年6月24日

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第75回 カンヌ国際映画祭(2022年)

受賞

コンペティション部門
男優賞 ソン・ガンホ

出品

コンペティション部門
出品作品 是枝裕和
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映画レビュー

4.5社会的弱者が支え合う単位としての疑似家族と、見上げ追いつこうとするアウトサイダーの視点

2022年6月28日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

泣ける

笑える

悲しい

そのフィルモグラフィでほぼ一貫して“家族”を描いてきた是枝裕和監督が、前々作の「万引き家族」に続き、分かりやすい疑似家族を題材に選んだ。ソン・ガンホが演じる借金苦のクリーニング店主サンヒョンは、児童養護施設出身で赤ちゃんポストのある施設で働く青年ドンスと手を組み、ポストに置き残された乳児を裏ルートで養子を求める親に販売して稼いできた。ところが若い母親ソヨンが一度ポストに預けた子を取り返そうと戻ったことから、大人3人と乳児、途中から養護施設の少年も加わって奇妙な5人組の“赤ちゃんを売るドライブ旅行”が展開する。彼らは格差社会の底辺近くにいる弱者であり、苦しさゆえに赤子をお金に換える目的のために行動を共にするという悲哀に満ちた旅でありながら、自然と彼らの間に絆が生まれてくるのは「万引き家族」に通じる要素だ。

そして、彼らを尾行する女性刑事2人組という外部者の視点を配し、ロードムービー形式にしたのは、是枝監督が韓国のスタッフとキャストで製作した韓国映画であることと無関係ではないだろう。外国を訪れて異邦人の立場になったとき、その国を旅して巡りたいというのは自然な欲求だ。見たことのない景色を見たいというのももちろんあるが、移動することで現地の人々と出会い、交流し、その暮らしぶりに触れることもまた旅の醍醐味と言える。是枝監督もまた、キャラクターたちの道中に伴走するような心持ちで脚本を書いていったのではないか。

社会的なランクで言えば明らかに上にいるはずの刑事2人が乗用車の低い座席から尾行を続け、5人組がワゴン車に乗っている時やホテルの部屋にいるときなど、常に彼らを見上げる位置関係に配したのも巧い。当初こそ乳児売買という不正を憎み犯行現場を取り押さえようと意気込むが、5人組の奇妙な絆に軽く嫉妬し、やがて羨望に変わり、彼らの心の内に近づきたいとさえ願う。常に社会的弱者に寄り添う是枝監督の視点を、疑似家族を見上げる刑事2人の構図が象徴している。

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高森 郁哉

4.0「万引き家族」に並び、深淵な響きを放つ秀作

2022年6月26日
PCから投稿

映画を始めとするフィクションの面白いところは、例えばブローカーという違法な存在から家族のあり方を問える点だ。近年、海外製作を通じて国境に囚われない「家族の情景」を映し出そうとしているかのような是枝監督。本作は急な坂道や階段を登り尽くした先から物語が始まる。そこで我が子を手放す若き母親。セリフはなくとも、歩んだ道のりが重い胸のうちを覗かせる。ただし、ここからシリアスに振り切れるのかと思いきや、本作はソン・ガンホらが醸し出す絶妙なニュアンスで多様な味付けを加味。彼らを廃車寸前のワゴンに同乗させ、束の間の擬似家族の温もりを織り成していく。ふと目に飛び込むのは「傘」。私たちは誰かの傘になり得ているだろうか。はたまた、社会は、世の中は、人々の苦しみや悲しみの傘たりえているだろうか。絶え間なく注ぐ陽光、染み付いたものを洗い落とす水しぶき、それからふと聞こえてくる音楽が、人間ドラマに忘れえぬ陰影を刻む。

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牛津厚信

5.0韓国を舞台に韓国ならではの問題を見出し、それを国籍を越えて関係する「人間の根源的な物語」として昇華させた作品。

2022年6月24日
PCから投稿

日本では、育てられなくなった赤ちゃんを置く「赤ちゃんポスト」というものがありますが、韓国でも「ベイビー・ボックス」というものが存在しています。
しかも韓国は日本より利用件数が桁違いに多くなっている現実があります。
韓国では2012年の法改正により養子縁組がしにくくなっているのです。
そのため“仲介役”としてお金を稼ぐ(違法な)「ベイビー・ブローカー」の存在があり、本作ではそれを題材に、1人の赤ちゃんをめぐっての動向を描いています。
まず、それぞれの登場人物が自然にキチンと背景も含めて描かれているので、登場人物が活きていて物語の深みが増しています。
そして社会問題化している犯罪なので、警察との攻防にもなり物語に起伏を与えています。
このように、大きなテーマではあるのですが、「人の日常が根本にある」のでキチンと人間模様が丁寧に描かれ続けているのです。
本作はカンヌ国際映画祭で最優秀男優賞をソン・ガンホが「韓国人初受賞」しましたが、それも納得でした。単なる表層的な「ベイビー・ブローカー」として赤ちゃんの仲介をするのではなく、一人の人間として「活きた演技」をしていたからです。
2004年の「誰も知らない」で柳楽優弥がカンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を「日本人初受賞」しましたが、あの時も主人公の少年に生命が宿っていました。
是枝裕和監督は「映像の中に生命を宿す」名手です。
本作の最大のテーマに「自分は生まれてきてよかったのか?」という問いかけに対する答えのようなものがあります。
「自分は生まれてきてよかったのか?」や「自分は生きていて意味があるのか?」というような根源的な疑問は、誰しもが漠然と抱えているものだと思います。
きっと見終わった後に「自分は生きていてもいいのかな」など、どこか前向きな気持ちになれるような優しさが詰まった作品に仕上がっています。
なお、「1ドル=100円」のように韓国のウォンについては「10ウォン=1円」というオーダー(桁数の指標)を頭に入れておくと便利です。

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細野真宏

4.5「赤ちゃんを売買する人」というタイトルは衝撃的でも、そこには地に足のついた深い人間模様があった

2022年6月24日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:試写会

「万引き家族」の是枝裕和監督がオリジナル脚本で手がけた韓国映画。是枝監督は、韓国での撮影は日本とあまり変わらなかったと述べているように、言語は違っても邦画の香りが残る作品となっている。
本作は「パラサイト 半地下の家族」のソン・ガンホ主演。クリーニング店を営んでいるからか、上着やシャツなど着ているものに清潔感があったところに、過去作の多くの役柄のイメージから、いい意味でギャップがあった。
ただ、他では期待通りで、借金に追われている「どこか憎めないオジサン」であり、営むクリーニン店も今では珍しいくらい古い。足踏みミシンを難なく使いこなす姿、ボロ車の修理をしないまま堂々と乗り続ける風格は、ソン・ガンホならでは。
この先がどうなってしまうのかワクワクする展開となる。
映画は、ストーリーが重くなりがちな「赤ちゃんポスト」から始まるが、優しいロードムービーのように仕上がっており、その流れの中で、生きることと育てること、多様な存在価値の本質を前向きに提示している。
韓国映画特有のグロさや決定的な結論が緩和されているあたりは客層の意見が分かれる作品なのかもしれない。
ただ、子供の自然な姿を映し出す是枝監督の技法は満点!
2009年に是枝監督の「空気人形」で主演したペ・ドゥナは、相変わらず華奢で口数が少ないにも関わらず、表情や身振りで重要な役柄を演じているのでそのあたりも見所。

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山田晶子