【コラム/細野真宏の試写室日記】「かぐや様は告らせたい ファイナル」VS「孤狼の血 LEVEL2」の行方はどうなる?
2021年8月19日 09:00
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
今週末は「大型の邦画実写映画」で、ともに「続編」の同日公開となります。
まず初めに正直に言うと、「孤狼の血」の続編が作られることは予想していましたが、「かぐや様は告らせたい 天才たちの恋愛頭脳戦」の方は予想していませんでした。
それは、作品の出来に起因していたのかもしれません。
2018年5月12日に「孤狼の血」が公開。
一言でいうのなら、「これぞ東映映画!」といった東映の本気度を感じられる作品でした。
特に役所広司が演じる大上刑事と松坂桃李が演じる日岡刑事とのコンビが良く、私は本作を「名作」だと思っています。
一方で、R15+指定の「任侠もの」が今の世の中でどこまで響くのかは未知数でした。
ただ、前年の2017年には「やくざの組織」を思いっきり描いた北野武監督の「アウトレイジ 最終章」が、興行収入15.9億円を記録する快挙を果たしました。
そのため、R15+指定の「任侠もの」でも面白ければ興行収入15億円くらいに行く素地があると言えます。
そこで、「孤狼の血」には興行収入10億円を突破してほしいと思っていましたが、残念ながら興行収入7.9億円で終わってしまいました。
とは言え、ここで終わるスタッフではないだろうと思っていた通り、すぐに「続編決定」の発表が。
次に、2019年9月6日に「かぐや様は告らせたい 天才たちの恋愛頭脳戦」が公開。
この試写の段階で思っていたのは、正直なところ、作品としてはスベっているシーンが多いということ。
そこで、ぼんやりと2018年12月21日に公開された「ニセコイ」を思い浮かべていました。
共通点は、ともにTBS幹事作品で、河合勇人監督作。
とは言え、「ニセコイ」のように興行収入5.3億円という結果になるのか、というと、そこまで悲観的にはなれませんでした。
それは、主演の平野紫耀×橋本環奈のコンビが底堅いのと、脚本が「翔んで埼玉」も手掛けた徳永友一という点で、何とか興行収入10億円は突破するのではと考えていました。
ところが、実際には軽いブームのような状態が起こり、想定を超えて興行収入22.4億円にまで行ったのです。
そして、今年に入って続編が発表され少し驚きましたが、正式なタイトルは「かぐや様は告らせたい 天才たちの恋愛頭脳戦 ファイナル」。
なるほど、潔くこれで完結ならアリかも、と妙に納得しました。
では、ここからが「本題」です。
それぞれの続編を実際に見てみると、ともに「想定外」の結果になっていたのです。
最初に見たのは「孤狼の血 LEVEL2」の方でした。
こちらは、白石和彌監督らの熱量の高さを前作同様に強く感じます。
ただ、役所広司が演じる大上刑事が抜けた穴は(私にとっては)大きく、どちらかというと前作の方が満足度は高かったです。
とは言え、それを補うための「強敵」として鈴木亮平が演じる上林という“モンスター”が出てくるので、満足度は人それぞれかと。
いずれにしても前作の「孤狼の血」は、「万引き家族」と並んで「日本アカデミー賞にて最多12部門でノミネートされた作品」として評価も高く、ファン層は広がっていると思います。
心配なのは、本作のメインターゲットと見られる中高年層の動向で、未だに映画館への戻りが鈍い状況にある点です。
きっと作られるであろう「次回作」のためにも、前作並の興行収入、できれば興行収入10億円に届いてくれたら嬉しいです。
次に見た「かぐや様は告らせたい 天才たちの恋愛頭脳戦 ファイナル」ですが、こちらは作品のクオリティーが急激に上がっていたのです!
前作は、あえて例えると、「10のうち8,9くらい」の割合でスベっていたと感じました。
ところが本作では、スベっているのは、せいぜい「10のうち1,2くらい」の割合で、大まかに「優良エンターテインメント作品」にまで進化していたのです。
例えば、前作で言うと、平野紫耀の父親役の高嶋政宏は可哀想なくらい外していたと思います。
佐藤二朗でさえも、割と外すことが多かった印象です。
これらはディレクションをした河合勇人監督に問題があると思いますが、本作では、「一体、何が起こったんだ?」と驚くくらいに河合勇人監督のギャグセンスがアップしていたのです!
例えば、話している内容を画面でテロップ化するシーン、強調させるシーン等、画面構成の冴えた作り込みや“間(ま)”のセンスがこれまでとは比較にならないくらいレベルアップしています。
直近の河合勇人監督作品は、昨年の「貴族降臨 PRINCE OF LEGEND」や、先月公開の「都会のトム&ソーヤ」がありますが、どちらを見ても、ここまでの“確変の影”は見えませんでした。
これは「翔んで埼玉」も手掛けた徳永友一の脚本を生かすべく、一生懸命にエンターテインメント映画の成功事例を研究し応用したのかもしれません。
また、前作での体験がありキャストとのチーム感もアドバンテージとしてありますし、原作がマンガなので「場面構成」に応用しやすかったのもあるのでしょう。
そして、クオリティーの上がった本作を見て、ようやく「かぐや様は告らせたい 天才たちの恋愛頭脳戦」シリーズのキャストが凄かった、という点にも自然と気付くことができました。
本作は、生徒会のメンバー全員に光が当たりますが、平野紫耀×橋本環奈はもちろんのこと、佐野勇斗と浅川梨奈も魅力的です。
特にラストのエンドロールでは、それをより実感できると思います。
また、脇役でも、「四宮かぐや」(橋本環奈)のお供「早坂」を演じる堀田真由は、今年は「ライアー×ライアー」「ハニーレモンソーダ」といった恋愛映画のヒット作でもメインで登場しています。
もちろん、前作での汚名(?)を返上すべく高嶋政宏、佐藤二朗の打率も圧倒的に上がっています。
このようにいろんな意味でキレイに完結しているのです!
通常であれば、「かぐや様は告らせたい 天才たちの恋愛頭脳戦 ファイナル」は興行収入25億円規模を目指せると思いますが、気になるのは、やはり前作です。
前作は、ちょっとしたブームのような状況ができ、あれよあれよと興行収入が堅調に上がっていったのですが、ブームはブームでしかありません。
そのため、地上波のプライムタイムで放送しても視聴率は低くなるなど、心配なデータもあります。
とは言え、前作で最大の起爆剤となった主演の平野紫耀×橋本環奈の人気は健在で、しかも本作の方が出来は良いので、本作でも口コミで再びブームが起こるのでは、と予想します。
以上のように、今週末は、出来の良かった作品の続編はどう動き、出来がそれほど良くなかった作品の続編はどう動くのか、などの人の動きを確認することもできるのです。
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