黒沢清&前田敦子「旅のおわり世界のはじまり」ロカルノ上映で8000人が喝采「感無量です」
2019年8月19日 14:00

[映画.com ニュース]スイスで開催されていた第72回ロカルノ国際映画祭が、8月17日に閉幕を迎え、クロージング作品として黒沢清監督の「旅のおわり世界のはじまり」が披露された。現地には黒沢監督とともに主演の前田敦子が駆けつけた。
今年就任した映画祭の新ディレクター、リリ・アンスタンは、「黒沢清監督は、もっとも重要な日本のコンテンポラリー・フィルムメーカーと言えます。ホラー映画で知られますが、50本近い作品のなかで多くのジャンルに挑戦し、『CURE』『回路』『トウキョウソナタ』といった傑作を生み出しています。今夜彼の新作を、インターナショナル・プレミアとして披露できることをとても嬉しく思います。ロベルト・ロッセリーニの『イタリア旅行』のように、女性が見知らぬ土地で自分を見失ったのち、異なる世界と、自分自身に出会う物語です」と紹介。続いてふたりが登壇すると、8000人を収容するピアッツァ・グランデの野外会場に拍手が鳴り響いた。
黒沢監督は「ボナセーラ」とイタリア語で挨拶をしたのち、本作のきっかけについて語り、「何か運命のようなものを感じます。2年半前、知り合いのプロデューサーから連絡があり、ウズベキスタンで映画を撮らないかと言われました。まさかその映画がこうしてロカルノ映画祭のフィナーレとしてピアッツァ・グランデを飾ることになるとは考えてもいませんでした。日本人とウズベキスタン人が混じり合ったチームで、キャンプをしているような楽しい撮影でしたが、ここで上映されると知っていたら、もう少し真面目に撮っておけばよかったと後悔しています(笑)」と冗談混じりに語り、笑いを誘った。
フォークロア調を意識したレッド ヴァレンティのロングドレスを纏った前田は、黒沢監督との仕事について、「一緒に仕事をさせて頂くのは今回が3回目だったので、監督が意図していることを今まで以上に読み取って、答えていけたらいいなという気持ちで臨みました」と語った。
本作は、日本のバラエティ番組のレポーターとして働くヒロインが、言葉の通じない国で困難と孤独を味わいながら成長していくさまを優しく見つめる。途中、ユーモラスなシーンでは何度か笑いも起こり、ラストで前田が「愛の讃歌」を熱唱し終わると、場内には大きな拍手が響いた。また会場で作品を鑑賞していた黒沢監督と前田は終映後、記念撮影を求める多くの観客に囲まれた。

終映後、日本のマスコミの取材に応じた両者は目頭を熱くした様子で、「感無量です。ロカルノは何度か経験していますが、今回は特別な感じがしました。前田さんと隣同士で見られたことも含めて、この映画を作ってよかったと本当に思いました。(ラストシーンについて)まるで映画が街に放たれるかのような、葉子が何かから解放され、新しい世界が始まったかのような感じが、この場所だからこそ感じられた気がしました」(黒沢)、「これほど大きなスクリーンで、こんなにたくさんの人が観て反応して下さって、わたしも感無量です。黒沢監督と一緒に見たのも初めてだったので、ずっと瞬きもできませんでした(笑)。黒沢監督だからこそ、こういう経験ができるとあらためて思いましたし、いろいろな嬉しさがこみ上げてきました」(前田)と、それぞれの興奮を語った。
なお、今年のコンペティションには日本から深田晃司の「よこがお」が入選し、深田監督とともに主演の筒井真理子もロカルノ入りを果たした。バラエティやスクリーン・インターナショナルなどで好評を得たが、惜しくも受賞はならなかった。
金豹賞をさらったのは、ペドロ・コスタ監督の「Vitalina Varela」。音信不通になっていた夫の死を聞きつけ、ポルトガルにやってきた妻の悲しみを、この監督らしい、暗い技巧的な映像スタイルのなかに立ち昇らせる。ヒロインに扮した素人の女優ビタリナ・バレラも女優賞に輝き、2冠を独占する形となった。(佐藤久理子)
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