アカデミー賞2冠「リメンバー・ミー」が描いた“死の克服” L・アンクリッチ監督に聞く
2018年3月17日 20:45
[映画.com ニュース] 死は、決して悲しい別れではない。記憶にとどめていれば、逝ってしまった大切な人に、また会うことが出来る。第90回米アカデミー賞で2部門を受賞したディズニー/ピクサーの新作「リメンバー・ミー」(3月16日公開)は、見る者にそう囁きかける。監督を務めたリー・アンクリッチが来日し、世界中に感動の波を広げる今作を語った。
アカデミー賞の長編アニメーション賞&主題歌賞に輝いた「トイ・ストーリー3」でも知られるアンクリッチ監督が、1年に1度だけ他界した家族に会えるとされるメキシコの祝日“死者の日”を題材に紡いだミステリーアドベンチャー。一族の掟で大好きな音楽を禁止されたギター少年ミゲルが、伝説的ミュージシャン、エルネスト・デラクルスのギターを手にしたことをきっかけに、テーマパークのように楽しく美しい“死者の国”へと迷いこみ、冒険を繰り広げる。
「トイ・ストーリー」「モンスターズ・インク」「インサイド・ヘッド」など、奇想天外なモチーフと豊かな物語性を備えた作品を世に放つピクサーだが、ここまで死の概念を直視したのは初ではなかろうか。アンクリッチ監督は「死は今までのピクサー作品でも存在していました。『ファインディング・ニモ』や『カールじいさんの空飛ぶ家』がそうですね。ただ、直接的に相対したのは、今作が初めてかもしれません」と頷いたうえで、「一方でこの作品は、私は死そのものを描いたとは思っていません。誰かが亡くなった時、彼らを記憶にとどめ、次世代へ物語を伝え続けることで、人は生き続ける。我々皆がそうする義務を持っている。そういう物語なんです」と力強く断言する。
肉体が滅びようとも、誰かの記憶に生き続けていれば、その者は観念的な不死を獲得する。アンクリッチ監督は、大切な人の記憶を伝えていく行為が、すなわち“死の克服”であることを描き出した。「特にデラクルスのような有名人は、永遠に存在することになるでしょう。個人的により胸を打つコンセプトは、自分を覚えている人がいなくなったとき、2度目の死が訪れること(劇中、人間の世界で忘れ去られた死者は、死者の国からも消滅してしまう)。歴史上、語り継いでもらえず、そもそも存在していなかったかのように扱われた人もいると思うんです。だからこそ、メキシコでは死者の日があるのでしょう」。
「私はオハイオの小さな町で育ちました。そこでは亡くなった人との向き合い方は厳粛で、重みがあったんです。一方で死者の日はカラフルです。もちろん死への悲しみはありますが、それよりも生前の人生を祝福している姿に魅力を感じました。日本のお盆と同じように、死者の魂が家族のもとに毎年戻ってきて、再び集まれる。これは素敵な考え方だと思います。『007 スペクター』などでメイクやパレードのイメージはつきましたが、映画では伝統の裏にある思いが描かれていないと思ったので、この作品で描こうと決めました」。死者の国も、とにかく楽しさにあふれている。底抜けにカラフルで能天気なほど陽気な世界観は、「ここに行けるのなら、死ぬのも悪くない」とさえ思わせる。
今作の感動は世代を問わない。先祖が育んできた歴史が自身を存在させていると、誰もが気づくはずだ。「ピクサー作品のいくつかは、確かに“子どものころの恐怖”を物語の中心に置いています。ただ、おそらく我々ピクサーがやろうとしていることは、人々一般が置かれている状況を、もっと掘り下げることです。我々がどれだけ幸せで、悲しくて、子育てをしたり、人を愛したり、人を失ったりするのか。見終わったとき、自分の人生を考えてもらえるような作品をつくりたい」。
状況説明と活劇的興奮を両立させる物語展開の妙にも、舌を巻くばかりだ。スピーディーかつスリリングに進行しつつ、テーマを支えるセリフや背景を、リズムを阻害することなく滑り込ませる。アンクリッチ監督は、そのクオリティは個人の資質と組織の補完性の両面で担保されていると明かす。「1人で苦しむ時間が長くなったときには、直接的に関わっていない人も集まって、皆で画コンテに意見を言い合うんです。『ここが上手くいっていない、ここは上手い』など、客観的な意見は大きな助けになります。ときに宮崎駿監督のように、森に入り1人で全部を描いてしまいたい、と思うことはあります。しかしピクサー作品は、皆が力を合わせ、補完しあっているからこそです。今作をつくるのに6年かかりましたが、ピクサーは、幸運なことに、時間をたっぷりと与えてくれます。物語を構築するには焦らせてはいけないと、わかっているからです」。
2月21日の来日会見では、アンクリッチ監督へ「今作と『トイ・ストーリー3』の共通点、相違点は」と質問が飛んだ。「『3』は人生の次のステージに移っていく“別れ”がテーマ。今作は、その逆かもしれません。決して『さようなら』を言わない。いつまでも愛する人を心にとどめ、伝えていくことです」と答え、隣に座ったエイドリアン・モリーナ共同監督は「でも、『3』でこういうセリフがあったよね。巣立っていくアンディに、母が別れ際『あなたと一緒に行けたらいいのに』と言ったら、アンディは『いや、ずっと一緒じゃないか』と。その気持ちは今作に通じると思うよ」と語りかけた。ピクサーの物づくりへの信念や、作品への愛を象徴するシーンとして、感慨深く記憶にとどめている。
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