20センチュリー・ウーマン : 特集
自由な魂を持つ母と、ふたりの個性的な女性たち──
名作「人生はビギナーズ」マイク・ミルズ監督最新作
15歳の少年が経験するひと夏の物語“母と息子のラブストーリー”
マイク・ミルズ監督が、自立心旺盛だった自身の母親をモチーフに描いた最新作「20センチュリー・ウーマン」が、6月3日より全国公開。アネット・ベニング、グレタ・ガーウィグ、エル・ファニング、ビリー・クラダップらの共演で描かれる、温かなひと夏の物語の見どころに迫る。
母との記憶を思い出し、自身の子どもへ思いをはせる──
“誰もが抱く共感”を生む《物語》が、オスカーノミネートも引き寄せた
どうしてこの映画は、こんなにも「私たちの物語」として感じられるのだろう。1979年、米カリフォルニア州サンタバーバラに降り注ぐ日差しのきらめきとともに、本作は、自由で独立した魂を持つシングルマザーと15歳の息子、そして、彼女らを取り巻くふたりの女性の特別なひと夏を描き出す。前作で自身の父親をモチーフにしたマイク・ミルズ監督が、今回は母親をモデルに描く。アカデミー賞脚本賞も引き寄せた爽やかで優しい物語に、心を委ねてみてほしい。
先進的な考えを持つ55歳のワーキングマザーでシングルマザーのドロシア(アネット・ベニング)。彼女には15歳のひとり息子ジェイミー(ルーカス・ジェイド・ズマン)がいたが、思春期を迎えた彼の思いについていけない自分も実感していた。そんな彼女は、ドロシアの家を間借りする24歳のパンクな写真家アビー(グレタ・ガーウィグ)と、ジェイミーの2つ年上の幼なじみジュリー(エル・ファニング)に「ジェイミーを助けてあげて」と相談する。どんなときでも自分を保ち、より良い人生を送れるようになってほしいという、子を思う母の願いから……。
「サムサッカー」で鮮烈に長編映画監督デビューを飾り、第2作「人生はビギナーズ」では75歳でゲイであることをカミングアウトした自身の父親と自らの関係を描いたマイク・ミルズ監督が、今作では、自立心旺盛で自分の生き方に大きな影響を与えてきた母親をモデルに作品を撮り上げた。「息子が生まれ、5歳に成長した今だからこそ、彼に自分の母親のことを伝えたい」という非常にパーソナルな思いを出発点とした本作は、普遍性を帯びて、誰の胸にも共感を湧き起こす。
「サムサッカー」「人生はビギナーズ」に続いて、今回も脚本はミルズ監督自身が書き上げた。互いを愛し、慈しみ合っているにも関わらず、それを素直に表現することができない母と息子のもどかしくも純粋な関係はもとより、彼らを取り巻く人々とのユーモラスでもある温かな交流が描き出される。前作「人生はビギナーズ」で、母のことに触れるシーンの脚本を執筆している際に、母も父に負けず劣らずユニークで魅力的な人間だったと気づいたという監督。そこから構想が湧き上がって完成したストーリーが観客の心に染み入って共感を呼び、アカデミー賞脚本賞にノミネートされたのも自然なことだろう。
ミルズ監督が見た《実在の女性たち》を3世代の実力派女優が演じる
鑑賞した女性が本作を支持する理由──それは“リアルで身近”な「3人の生き方」
55歳の「母」、24歳の「姉貴的存在」、17歳の「幼なじみ」。15歳の少年を取り巻く3世代の女性たちは、父親が不在がちだった少年時代のミルズ監督に大きく関わってきた母親や女きょうだいがモデルになっている。アネット・ベニング、グレタ・ガーウィグ、エル・ファニングという、映画ファンが信頼する実力派女優の熱演によって、彼女たちの生き方が、各世代の観客にとって本当に身近でリアルに、「自分たちのこと」として感じられるのだ。
55歳の母ドロシアを演じたのは、「キッズ・オールライト」「アメリカン・ビューティー」ほか4度のアカデミー賞ノミネートを誇る名女優、アネット・ベニング。息子に対する無条件の愛と、思春期の息子が足を踏み入れていく世界に困惑していくさまを演じ切り、ゴールデングローブ賞主演女優賞に見事ノミネートを果たした。
「フランシス・ハ」「マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ」のグレタ・ガーウィグは、少年を新しい世界にいざなう姉貴的存在のパンクな写真家アビー役。自分も監督・脚本を手掛けるガーウィグはミルズ監督と議論を重ね、ニューヨークへと演劇修行に出ていた自身のバイオグラフィをアビーに重ね合わせている。
少年の友達以上恋人未満の幼なじみ役には、エル・ファニング。「ネオン・デーモン」「SOMEWHERE」などに出演し、みずみずしさと透明感をあわせもつ存在感がファッションアイコンとしても注目を集める彼女は、毎晩のようにベッドに潜り込んで添い寝しながらも、セックスは厳禁の微妙な関係で少年を小悪魔的に翻弄。ときにドキッとするセリフを口にするほか、セクシーな下着姿も披露する。
詩的でエッジィ──S・コッポラ、W・アンダーソンらと並ぶ映像作家
実は日本ともなじみ深いマイク・ミルズ監督を追いかけてますか?
映画監督であることはもちろん、脚本家、プロデューサーとしても活躍し、グラフィック・デザイナー、写真家、ミュージシャンとしての顔を持つ映像作家、マイク・ミルズをあなたは知っていただろうか。66年米カリフォルニア州バークレーで生まれ、本作の舞台にもなっているサンタバーバラで育った現在51歳。ポップで繊細で、そしてエッジィ──画づくりやストーリーテリングはもちろん、美術や音楽(セレクトされる楽曲も)に非凡さを発揮する、「マリー・アントワネット」のソフィア・コッポラや、「グランド・ブダペスト・ホテル」のウェス・アンダーソンらと並ぶ気鋭&要注目のクリエイターだ。
「リアルな女の子のストリートスタイル」として知られるブランド「X-girl」のロゴ、グラフィックを手掛けたほか、カルチャー誌「relax」の表紙絵を担当するなど、90年代から00年代にかけて生み出したデザインの数々は、日本人にとって非常になじみ深いもの。ソニック・ユース、ビースティ・ボーイズなどのアルバム・ジャケットのデザイン、オノ・ヨーコ、パルプなどのミュージック・ビデオやアディダス、ナイキのCM映像制作にも関わった。妻は、パフォーマンス・アーティスト、映像作家、小説家であるミランダ・ジュライ。
「言われなくても、もう知ってるよ!」という方も、「本作を機に彼のことを知った」という方も、そのまま追いかけておいて損はない、注目の人物だ。