レッドクリフ Part I : インタビュー
「男たちの挽歌」「フェイス/オフ」「M:I-2」など多くの傑作アクションを世に送り出してきた巨匠ジョン・ウー監督が、念願の企画だった「三国志」を100億円超の製作費をつぎ込んで映画化した超大作「レッドクリフ」。魏・呉・蜀の3国が鼎立していた西暦200年頃の中国・三国時代を舞台に、80万の軍勢を誇る曹操率いる魏軍と、呉の孫権、蜀の劉備による5万の連合軍が雌雄を決した三国志史上最大の合戦“赤壁の戦い”が描かれる本作について、ジョン・ウー監督と、孫権率いる呉軍の司令官・周瑜に扮した主演のトニー・レオンにインタビューを行った。(文・構成:佐藤睦雄)
ジョン・ウー監督インタビュー
「“赤壁の戦い”を見れば人々に勇気が与えられると確信していました」
──20年間、夢に描いてきたという「三国志」の魅力とは何ですか?
「子どもの時から『三国志』の中の劉備、関羽、張飛、趙雲、諸葛亮、周瑜といったヒロイックな存在に憧れていて、チャンスがあればいつか映画化したいと思っていました。1986年に『男たちの挽歌』を撮り終えたあと、私自身で映画化のために奔走したんですが、当時は映像技術の問題と予算的な問題という大きな壁があり、泣く泣く断念したのです。なかでも“赤壁の戦い”は、弱い(呉・孫権と蜀・劉備の)連合軍が強敵(曹操の魏軍)に対抗して勝ったというエピソードで、相当な知力と相当な勇気がなければ成し遂げられない戦いであり、それを見れば人々に勇気が与えられると確信していました。その後、私はハリウッドでさまざまなジャンルの映画に挑戦し、いろんな経験を積むことができました。それにスケール感のある映画を手がけ、それをハンドリングするという経験も積んできました。そんななかで、日本や中国などからビッグバジェットの投資がありましたので、ついに夢の企画が叶ったのです」
──「三国志」のエピソードの中で好きなのは、やはり“赤壁の戦い”ですか?
「ええ、やはり赤壁の戦いが大好きです。あとは、劉備、関羽、張飛の3人が義兄弟の契りを結ぶ“桃園の誓い”も好きです」
──やはり「男たちの挽歌」の世界というか、“義”には篤いわけですね(笑)。
「『三国志』の世界は『男たちの挽歌』シリーズにも大きく投影されていますよ。例えば『ハード・ボイルド/新・男たちの挽歌』の中で、チョウ・ユンファが病院に駆け込んで赤ん坊を助けるシーンなどは、実は趙雲が敵陣に単身乗り込んで劉備の息子阿斗(後の劉禅)を救出する場面からいただいています(笑)。それと、チョウ・ユンファとティ・ロンの関係は関羽と劉備の関係に似ていますね」
──「三国志演義」の主役は劉備や関羽、諸葛亮になると思いますが、今回「レッドクリフ」を描くにあたって、主役に周瑜を選んだ意図は何ですか?
「いろんな文献にあたってみて、赤壁の戦いは周瑜が主導して作戦を立てていたことが分かったのです。一方、孔明(諸葛亮)はまだ27歳。劉備軍に仕えたばかりで軍師に任命される前でした。彼の功績は、孫権を説得して劉備軍と孫権軍の合従連衡を成し遂げたことだけでした。なので、友人を大事にし、義を尊ぶという周瑜を主役にしたストーリーにしたい、歴史本来が伝える正しい歴史を伝えたいと考えました。もちろん、映画を展開させる上で、諸葛亮は大事な存在です。彼を周瑜の若い友人として描き、赤壁の戦いを大きく展開させようと思いました」
──周瑜については、かなり研究されたわけですね。
「周瑜は芸術家であり、人徳のある人格者でありました。部下に対して厳しく接するかたわら、温かく思う気持ちを忘れない軍事指導者でありました。友人や国家に対する忠節心が強く、妻の小喬を深く愛していて、家庭も大事にする男でした」