八つ墓村(1977)

劇場公開日:

解説

数奇な運命に生まれた青年が、四百年にわたる怨念が息づく生地を訪れ、続発する血腥い殺人事件にまきこまれる姿を描くミステリー映画。原作は横溝正史の同名小説。脚本は「八甲田山」の橋本忍、監督は「昭和枯れすすき」の野村芳太郎、撮影は「錆びた炎」の川又昂がそれぞれ担当。

1977年製作/151分/日本
配給:松竹
劇場公開日:1977年10月29日

あらすじ

羽田空港、国際線発着誘導員の寺田辰弥は、奇妙な新聞尋ね人欄の呼びかけに誘い込まれるように大阪北浜の諏訪法律事務所を訪ねた。そこで辰弥は母方の祖父井上丑松に初めて会うが、丑松はその場で誰かに毒殺される。辰弥は見えない血縁の糸にたぐり寄せられるように未亡人森美也子の案内で、備中神代駅から車で辰弥の生れ故郷八つ墓村に向かった。途次、長峰峠から連なる山々は、多治見家の所有であり、辰弥はその豪家の後継者であると聞かされる。辰弥はまだ乳呑児の頃、母の鶴子に抱かれて八つ墓村を去った。鶴子は神戸で再婚したが、辰弥が小学生の時、辰弥の生地と実父の名を明かさず、病死した。義父が新しい妻を迎え、次々に弟妹が生れると、辰弥は家を出た。美也子は多治見の分家にあたる森家に嫁したが、夫に死別、いまは関西で手広く事業を経営していた。その美也子が八つ墓村の由来を語る。--永禄九年(一五六六年)毛利に敗れた尼子義孝は、山峡の谷間をはい上がり、この村にたどりついた。義孝ら生残った八名は村外れの荒地を拓いて住みついたが、村祭の夜、村民に欺し討ちにあい全滅した。その時義孝は、この恨みは末代まで崇ると、呪いの言葉を吐きながら死んだ。落武者謀殺の中心人物であった村総代の庄左衛門は毛利家から莫大な山林の権利を与えられ、一躍近郷きっての財産を得て現在の多治見家の基礎を築いた。だが、ある夏の日、庄左衛門は突如発狂し村民七人を斬殺、自ら自分の首を斬り飛ばした。村人は落武者の崇を恐れ、義孝ら八人の屍骸を改めて丁重に葬り祠をたてたことから、村は八つ墓村と呼ばれるようになった--井川丑松の野辺の送りが済んだ翌日、辰弥は多治見家の城郭のような屋敷で、病弱な兄の久弥、姉の春代、この家の実権を握る双生児の伯母小竹、小梅らに引き合わされた。久弥は辰弥と面談中、突然吐血して死んだ。屋敷の離れに起居している辰弥は夜中に小竹と小梅が鍾乳洞を訪れるのを知った。そしてその洞窟の中で辰弥は異母姉の春代と共に鎧武者姿の多治見要蔵を見た。要蔵は春代と辰弥の父であり、その姿は死蝋化していた。春代から二十八年前の戦慄すべき事件が語られる。--要蔵は多治見家の当主であり、妻もありながら、当時二十一才の鶴子を強奪して犯した。多治見家の離れに軟禁された鶴子が一年後に辰弥を連れて逃げたのが原因で要蔵はある夜発狂し、妻を斬殺、村民三十二人を日本刀と猟銃で虐殺した。夜明けとともに要蔵は失踪し、今日まで発見されなかった。しかし小竹と小梅は毎晩洞窟で要蔵と対面を続けていた--私立探偵、金田一耕助は数日前から、この村に瓢々たる姿を現わしていた。金田一は辰弥に、多治見要蔵の子ではないと言う。辰弥はこの村を早く去りたかったが、本当の父親だけは知っておきたかった。辰弥の出生の秘密を知っている小学校の工藤校長が、毒殺された。村民は工藤の死で激昂し、多治見家に押し寄せた。その騒ぎの中で四人目の犠牲者が出る。祈祷師の濃茶の尼が自宅の祭壇の前で死んでいた。毒物はすべて硝酸ストリキニーネである。その夜、小梅が洞窟内で絞殺された。しかも連続殺人の四人までが毒殺ということで最も嫌疑をかけられていた久野医師も洞窟内で小海と相前後して毒殺される。警察と金田一は犯人の目星を失い、辰弥は犯人を求めて洞窟内をさ迷う。村民は一切の災厄は辰弥が持込んだものときめつけている。金田一は辰弥が洞窟から出ることを禁じた。辰弥が本当の弟でないことを知っていた春代は、辰弥を秘かに愛していた。辰弥の身を案じて洞窟に入った春代は、真犯人に襲われ瀕死の重傷を負い、犯人の指に噛みつき、指を怪我させたと言い残すと、辰弥の腕の中で息絶える。地上では金田一が遂に犯人をつきとめていた。洞窟内では辰弥が自分の誕生の場所である竜のアギトを発見し、その荘麗な造化の妙に心うたれた。食物と水を運んできた美也子と感動のあまり抱擁するが、美也子の右手の薬指の包帯を見て、彼女が真犯人であることを知る。美也子は恐ろしい形相に変り、一切を知った辰弥を殺そうとつかみかかる。その時、洞窟に落盤が起こった。落盤で空いた穴から、黒い蝶のようなコウモリの群れが地上に飛び立っていく。呪われた最後の一人、小竹の残る多治見家を目指して、まっしぐらに襲いかかる。美也子は岩石の下敷になって静かに横たわっていた。地上に出た辰弥は、炎上する多治見家から遠く長峰峠を眺めた。そこでは、八人の落武者が燃え盛る多治見家を見下している。それは、四百年にわたる“八つ墓村”の怨念が崩れ去るかのようであった。

全文を読む(ネタバレを含む場合あり)

スタッフ・キャスト

全てのスタッフ・キャストを見る

受賞歴

第1回 日本アカデミー賞(1978年)

受賞

音楽賞 芥川也寸志

ノミネート

脚本賞 橋本忍
主演男優賞 渥美清
詳細情報を表示

関連ニュース

関連ニュースをもっと読む

フォトギャラリー

映画レビュー

2.5オカルト風味

2025年6月4日
PCから投稿

古い記憶にある映画のコピー/フレーズとして、サスペリアの「けっしてひとりで見ないでください」と人間の証明の「母さん僕のあの帽子どうしたでしょうねえ」と「八つ墓村のたたりじゃあ」を覚えている。奇しくもすべて1977年だった。

ドリフが濃茶の尼のセリフ「たたりじゃあ」を寸劇コントにつかったこともあり、おそらく学校でもなにかにつけて「たたりじゃあ」と言った記憶がある。
じっさい八つ墓村は『配収19億8600万円という松竹映画の歴代に残る大ヒット作』だったそうだ。(『』はウィキペディア「八つ墓村 (1977年の映画)」より)

ただし興行収入とクオリティは一致しておらず、昔見た記憶は消えていたが、今見ると長くて冗漫な出来栄えだった。
1976年に市川崑監督の犬神家の一族が公開され、当時は横溝正史ブームに沸いていた。松竹は東宝に対抗すべく、金田一耕助に渥美清をあて、オカルト風味を増幅し『2年3箇月の製作期間と7億円(現在の15億円分)の制作費をかけ』て八つ墓村をつくり、鳴り物入りで封切った。結果、興行的に成功し「たたりじゃあ」ははやり言葉にもなり、映画八つ墓村は大成功をおさめた、といえる。

批評も当時は悪くなかったようだが、時を経て見ると古さが目立った。洞窟にはハリボテ感があり、小竹・小梅はアダムスファミリーのようだ。
津山事件を扱ったものなら丑三つの村(1983)のほうが猥雑さがあっていい。
そもそも日本映画ベスト10にさえ入れてしまえる1976年版犬神家の一族との比較は酷な話だとは思う。

ところで横溝正史ブームとは恒久永続的なものと言える。横溝正史的世界がホラーの一分野を形成しているからだ。
犬鳴村、樹海村、牛首村、ヴィレッジ、湯殿山麓呪い村、すなわち旧弊な村の因習にからめとられる現代人という構成で話がすすむホラージャンルは常に王道にある。
おどろおどろしい村の因習へ、とても呑気で日常的な構えの金田一耕助が介入していくところが横溝正史の魅力だが、金田一耕助という文明が介入しなければ腑抜けたホラーになってしまう。
雨穴さんの話が面白くて怖いのは文明サイドに雨穴さんや栗原さんがいるからだと思う。結果として、今つくられる横溝正史型ホラーは腑抜けている。面白いのは罵倒村ぐらいだろう。

この映画八つ墓村も推理小説をオカルト方向へ舵取りしたせいで横溝正史風味をことごとく削いでいる。渥美清も、もっとコミカルに位置づけるのかと思ったのにビーンのメグレという感じ、キャラクタが生かされていなかった。

さらに主役は荻原健一。個人的にショーケンは数回の結婚歴・逮捕歴がある人という認識しかなく、芸能界の「昔やんちゃしていたタイプ」の一人。おそらく横溝正史らしからぬ配役を狙ったのだとは思うが、いいところが解らずじまいだった。

コメントする (0件)
共感した! 0件)
津次郎

2.0二匹目のドジョウ

2024年12月10日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

砂の器コンビ、橋本忍✕野村芳太郎が再タッグで二匹目のドジョウを狙った本作だが、これはちょっといただけない。

まず、時代設定が昭和52年、横溝文学は戦後の混乱期が背景となり、それが作品のよさを醸し出しているのであるが、本作は近代を背景にしたことで、その臭いが薄い。

あと、だいぶ原作を端折っていて原作のよさが十分でているとは言い難い。

画面構成や音楽の入れ方なんかは砂の器に似せているが、中身が伴ってないから感動できない。

砂の器は社会的差別を扱っていて実感できる何かがあったが八つ墓村は祟、祟って、これはちょっと実感できない。

連連書いたが何故当時あんなに祟じゃが流行ったのかよくわからない。

よ〜く観ていると、本編では、そんなに祟じゃは言ってない

何でもかんでも、今は大谷翔平。それと同じで傑作だろうが駄作だろうが当時は横溝正史だった、ってことかな。

コメントする (0件)
共感した! 1件)
ちゆう

3.5 以前トヨエツ版をテレビで観ていたけれど、結末をすっかり忘れていま...

2024年10月29日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 以前トヨエツ版をテレビで観ていたけれど、結末をすっかり忘れていました。ラスト30分まで犯人を思い出しませんでした、我ながら忘れっぽい…
 濃茶の尼がどういう存在なのか、どうやって殺されたのかの説明がなく、トヨエツ版に比べて全体的に説明が少なく行間を読んで理解せよという感じに受け取れて、初見だといろいろ訳わからなかっただろうなと思いました。ただ金田一が西日本の各所を回っていた理由がわかるときは、なるほどそういうことかと納得しました。
 綿引さんが昔の名前で出ていて(曲名みたい)驚きました。

コメントする (0件)
共感した! 0件)
たたみ

2.0とにかく古い…

2024年7月27日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

言わずと知れたミステリーの金字塔だが、今見ると古臭い感じが多い。
金田一耕助が渥美清というのがキャスティングミスであるのが、よく分かる。
お約束の呪いの伝説が語られるが、呪いで人を殺せるわけがなく、
タイトルにある「八つ墓」どおり、八人が殺されなければ終わらないので、
話が無駄に長い…
TVの2時間ドラマで、サスペンスやミステリーを多く観る人は、大体「感」で
犯人が分かってしまう…

コメントする (0件)
共感した! 2件)
777