原作者トム・クランシーの映画化された長編小説の発行年と題名は次の通り
1984年 レッド・オクトーバーを追え
1987年 愛国者のゲーム(パトリオットゲーム)
1989年 いま、そこにある危機
1991年 恐怖の総和(本作、トータルフィアーズ)
いずれもCIA 分析官ジャック・ライアンが主人公
しかしお話はそれぞれ独立しているので、どれから映画を観ても大丈夫です
ソ連崩壊後のロシアと米国との核戦争の危機を扱っています
そんなもの21世紀の現代に於いては、もはや観るべき価値はない?
核戦争危機の黒幕の正体はトム・クランシー自身そんなものはいないと明言しています
では、彼は何を描きたかったのか?
それは恐怖の連鎖が、超大国の強大な軍事システムや情報機関でどのように互いに連動して動くのか、動き出したらどれほど止まらないものなのか
それを限り無く具体的に、綿密な取材の上で描く
それが本作のテーマです
映画化に於いても監督はそこを良くふまえています
オーディオコメンタリーでもトム・クランシーから監督が誉められています
だから主人公の活躍で全面核戦争の危機が寸前で止まるという荒唐無稽な展開はお話を面白くするための方便という程度のことで、そこを云々しても仕方のないことです
そこを批判するのではなく、巨大な軍事組織、情報機関がどう動くものなのか、動きだしたら止まらないものなのかこそを観るべきなのです
軍事オタクの目からしても、ディテールは極めて正確です
ん?というシーンも恐らく映画の演出の為、意図的にわかってやっていると納得できるものです
超音速爆撃機Tu-22Mバックファイアの大編隊が北海に展開中のニミッツ級原子力空母に大型対艦ミサイルの飽和攻撃を浴びせるシーンは、軍事オタクなら夢に観るようなシーンを極めて正確に映像化しています
では本作は軍事オタクだけしか、もはや価値はない作品なのでしょうか?
ひさびさに本作を観てロシアを中国に置き換えてみたら、そのままだ!と痛感させられました
劇中でのロシアのチェチェン問題は、中国のウイグル問題と相似形です
内政問題に口出しするなという台詞はついこの間聞いたばかりです
黒幕の台詞
誰もが20世紀は共産主義と資本主義が激しく対立した時代で、ファシズムは衰退したと思っている
共産主義は失敗
マルクス信者は地上から消えた
フランシス・フクヤマの「歴史の終わり」と同じ視点です
所が、21世紀の私達は直ぐ隣の大国が、悪夢のように共産主義とファシズムが結びつき、民主主義世界に挑戦しようとしているのを目撃しています
映画TNET のように歴史を逆転させようとしているのです
本作の劇中のボルチモアでの核爆発にも似たコロナウイルスのパンデミックも経験しているところです
恐怖の連鎖が始まっているのです
トータルフィアーズ
恐怖の総和
それは全面核戦争のことです
米中が激しく対立するとき、日本も巻き込まれるのは間違いないことです
いや日本こそ、その対立の当事者であるのです
そのとき平和憲法が有ろうが無かろうが、そんなことはお構いなしに戦争となり日本も戦場になるでしょう
核の恫喝すら受けるかも知れません
そんな事態を一体どう防ぐのか
その視点でぜひ本作を観て頂きたいと思います
裏口を開けておくことの大事さ
果たして米国や日本はできているでしょうか?
それよりも中国は裏口を開けてくれているのでしょうか?
恐怖の連鎖は、2021年の今現在もう始まっています
本作は古いどころか今現在を扱っていると言えると思います
つい数日前のアラスカでの米中外交トップ会談は激しい非難の応酬だったのです
本作でのジョン・クラークは「今そこにある危機」の役者よりも、ずっと原作イメージに近いと思います