コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第249回
2014年2月25日更新
第249回:ハイレベルなアカデミーノミネート作品、製作に尽力した人物とは?
今年のアカデミー賞は近年稀にみるほどレベルが高い。作品賞にノミネートされた9作品はいずれも個性的だから、優劣を付けるのが難しいほどだ。
映画好きにとっては嬉しいことだけれど、手堅いフランチャイズ映画に重点を置くハリウッドがいきなり野心的になったというわけではない。メジャースタジオが製作した作品は「ゼロ・グラビティ」と「キャプテン・フィリップス」のみで、「ゼロ・グラビティ」に関してはかつてユニバーサルでボツになり、その後、ワーナーが実現させた経緯がある。レオナルド・ディカプリオ主演の「ウルフ・オブ・ウォールストリート」に至っては、リスクが高すぎるという理由からワーナーでボツになり、その後、どのスタジオも拾わなかった。他のノミネート作品はハリウッドの基準からいえばすべて低予算であるうえに、製作にメジャーは関与していない。
では、なぜこれらの映画企画が実現したのか?
有名スターが出演していたり、才能のある監督がメガホンを握っていたり、原作ものであるなどいろいろあるが、最大の理由はアウトサイダーが製作を支援しているためだ。
たとえば、「ウルフ・オブ・ウォールストリート」は、レッド・グラナイトという新興会社が100%出資している。共同経営者はマレーシアのナジブ・ラザク首相の息子で、中東とアジアの投資家から1億ドルを掻き集めたという。
また、「アメリカン・ハッスル」と「her 世界でひとつの彼女」、そして外国語映画賞にノミネートされている「グランドマスター」の3作品は、アンナプルナという製作会社が出資している。この会社はメーガン・エリソンという若い女性が率いていて、彼女はこれまでに「ゼロ・ダーク・サーティ」、「スプリング・ブレイカーズ」、「ザ・マスター」、「ジャッキー・コーガン」などを実現させている。
いずれも作家性が強く、キャラクター重視の作品で、つまり最近のハリウッドがもっとも敬遠する映画をつぎつぎと世に送り出しているのだ。
彼女の父親がオラクルの創業者のラリー・エリソンであることが知れば、わずか28歳の女性がどうしてここまでのリスクを冒すことができるかわかるだろう。なにしろラリー・エリソンはアメリカを代表する大富豪のひとりで、娘の25際の誕生日に巨額の資産を譲ったといわれている(ちなみに、息子のデビッドも映画をしていて、スカイダンスという製作会社で、「スター・トレック」や「エージェント:ライアン」などの大作映画を手がけている)。
メーガン・エリソンは大のインタビュー嫌いで知られているので真相は不明だが、彼女がいなければ以上のような作品はおそらく生まれていなかった。また、今年のアカデミー賞17部門でのノミネートを獲得するなど、その鑑識眼は立派なもの。
また、レッド・グラナイトも大博打が成功し、「ウルフ・オブ・ウォールストリート」が世界で大ヒットを飛ばしている。
彼らの活躍に刺激されて、ハリウッドが野心的な映画に積極的になってくれると嬉しいのだが。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi