コラム:編集長コラム 映画って何だ? - 第5回
2018年11月13日更新
炎上案件「ボヘミアン・ラプソディ」が大ヒット!完成まで8年間の紆余曲折
「ボヘミアン・ラプソディ」が日本でも公開され、興行ランキングで見事首位デビューの快挙を成し遂げました。日本に先立って11月2日に公開された全米でも、週末3日間で5000万ドルを稼いで圧巻の首位デビューを記録しています。
本作について私の正直な感想は、「この映画が完成する日が、本当にやって来るとは思っていませんでした」ということになります。スタッフ・キャストの皆さんに心からのお祝いを申し上げたい気持ちでいっぱいです。
この映画は、2010年に英国人プロデューサーのグレアム・キングによって立ち上げられ、完成まで実に8年の長きに渡ったプロジェクト。その間、大変な紆余曲折がありました。主演男優の降板、監督の交代&離脱。よくぞ途中でポシャらなかったものです。ちょっとまとめてみましょう。
ちなみに、フレディ・マーキュリーが死去したのは1991年11月24日のことです。そう、もうすぐ命日なんです。そして以下は、8年間にわたって映画.comが掲載してきた「ボヘミアン・ラプソディ」の記事を時系列でまとめたものです。
2010年9月17日
サシャ・バロン・コーエンがフレディ・マーキュリーに!伝記映画製作へ
これが記念すべき第一報です。「ボラット」「ブルーノ」の愛すべき変態俳優、サシャ・バロン・コーエンがフレディ・マーキュリーを演じるだなんて、素敵過ぎるよ!って、当時ちょっと興奮した記憶があります。今読み返してみると、「エイズに冒されたマーキュリーの晩年には焦点を当てない内容になる」と書かれています。その後コンセプトは変更になったということですね。
2012年5月14日
フレディ・マーキュリー伝記映画にスティーブン・フリアーズ監督?
脚本家は「クィーン」「フロスト×ニクソン」でアカデミー脚本賞にノミネートされたピーター・モーガンに決まっていましたが、監督が未決です。イギリス人のフリアーズなら、誰もが納得のはず。……でした。
2013年3月18日
フレディ・マーキュリー伝記映画に「レ・ミゼラブル」トム・フーパー監督?
2人目の監督候補は、やはりイギリス人のトム・フーパーでした。彼は「英国王のスピーチ」「レ・ミゼラブル」をものにしています。先のスティーブン・フリアーズにしてもそうですが、本作がオスカーを狙う気満々の銘柄であることが分かります。
2013年3月26日
フレディ・マーキュリー伝記映画、元恋人役にブレイク・ライブリー?
こんなニュースもあったんですねえ。最終的に、メアリー・オースティン役は、「シング・ストリート 未来へのうた」のルーシー・ボーイントンがゲットしました。
2013年7月24日
サシャ・バロン・コーエン、フレディ・マーキュリー伝記映画から離脱
このプロジェクトには、ブライアン・メイやロジャー・テイラーといったクイーンのメンバーたちがかなり深く関わっています。コーエンは、とりわけブライアン・メイとウマが合わなかった模様です。この記事には「クイーンの残りのメンバーがPG指定(保護者同伴を推奨)映画を求めているのに対し、コーエンはより踏み込んだ内容のR指定映画を望んでいたため、意見の相違を理由に企画から離脱したようだ」と書かれていますが、完成版のレイティングは、北米が「PG-13」、日本では「G」となりました。ブライアン・メイたちの目論見どおりです。
2013年12月11日
フレディ・マーキュリー役に「007 スカイフォール」ベン・ウィショー
サシャ・バロン・コーエンが離脱した時点で、このプロジェクトは終了したものと私は思っていましたが、全然そんなことはありませんでした。しかし、ベン・ウィショーはちょっと違うんじゃない?
2014年5月8日
ブライアン・シンガー監督、別の男性からも性的虐待で訴えられる
これは本筋とは関係ないのですが、ブライアン・シンガー監督は、本作と関わる前にセクハラ問題を抱えてしまいます。
2015年11月29日
フレディ・マーキュリー伝記映画に「博士と彼女のセオリー」脚本家が参加
ピーター・モーガンに加え、アンソニー・マッカーテンが脚本チームに加わります。やはりオスカーを目指すんでしょうね。
2016年11月8日
フレディ・マーキュリー伝記映画主役に「MR. ROBOT」ラミ・マレック
これは本当に驚きました。「Mr. Robot」は大好きなシリーズですが、その主人公ラミ・マレックとフレディ・マーキュリーがまったくシンクロしないんです。「ウソだろ?」という感想しかありません。そして、スタジオが決まります。「このほど20世紀フォックスとニューリージェンシーがプロジェクトに新たに参加し、来年初頭の撮影開始に向けて急ピッチで準備を進めていく予定」とのこと。
2017年9月8日
「クイーン」伝記映画のキャストが決定!監督はブライアン・シンガー
主要キャストが決定し、監督もアメリカ人のブライアン・シンガーに決まりです。これでオスカー路線からエンターテインメント路線へスイッチしたと思われます。
2017年9月27日
マイク・マイヤーズ、クイーンの伝記映画に参加
本編をご覧になった方、「オースティン・パワーズ」ことマイク・マイヤーズに気がつきました? 「『ボヘミアン・ラプソディ』は長すぎるから、シングルカットは別の曲にしろ!」とゴリ押ししていたレコード会社の社長を演じていました。
2017年12月5日
フレディ・マーキュリー伝記映画、ブライアン・シンガー監督の健康問題で撮影中断
ここにいたる経緯を見ても、本作が立派な「炎上案件」だってことが分かると思いますが、この期に及んでシンガー監督が職場放棄するという異常事態。プロマネを務めるグラハム・キング氏のストレスたるや……。
2017年12月6日
ブライアン・シンガー監督、フレディ・マーキュリー伝記映画から解雇
シンガー監督、とうとうクビになってしまった……。
2017年12月8日
クイーンの伝記映画 ブライアン・シンガー後任はデクスター・フレッチャー監督
代理の監督が決まって、ようやく炎上も鎮火。「監督」のクレジットはブライアン・シンガーで、デクスター・フレッチャーは「エグゼクティブ・プロデューサー」のクレジットを得ました。
このように、信じられないような紆余曲折を経て、ようやく完成に至ったのが「ボヘミアン・ラプソディ」なんです。しかも同作は、公開されると人々の心配をよそに見事な大ヒットを記録。
2018年11月7日
【全米映画ランキング】「ボヘミアン・ラプソディ」がV 「くるみ割り人形と秘密の王国」は2位デビュー
もう、お見事としかいいようがありません。炎上まみれの黒歴史も、この大ヒットによって武勇伝へと変わります。私の正直な気持ちは、「サシャ・バロン・コーエンのフレディが見たかった」というものですが、ラミ・マレックもよく頑張りました。彼は、オスカー主演男優賞も可能性ありますね。今後の賞レースの行方にも注目しましょう。
筆者紹介
駒井尚文(こまいなおふみ)。1962年青森県生まれ。東京外国語大学ロシヤ語学科中退。映画宣伝マンを経て、97年にガイエ(旧デジタルプラス)を設立。以後映画関連のWebサイトを製作したり、映画情報を発信したりが生業となる。98年に映画.comを立ち上げ、後に法人化。現在まで編集長を務める。
Twitter:@komainaofumi