コラム:細野真宏の試写室日記 - 第26回
2019年4月25日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
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第26回 「アベンジャーズ エンドゲーム」。世界興行収入歴代2位の「タイタニック」を遂に超える?
2019年4月24日@ディズニー試写室
いよいよ「平成公開作での最後に相応しい映画評」になるのが、世界興行収入で歴代何位まで行けるのか、歴史的な快挙が記録されそうな「アベンジャーズ エンドゲーム」です。
まず日本では、前回の予感通り「名探偵コナン 紺青の拳」の初動の興行収入は例年以上に大きな金額になりましたが、果たしてトータルの興行収入でどこまで行けるのか。
やはりカギを握るのは、「10連休」という“特別な響き”を持つ期間における映画業界の動きでしょうか。
国内、海外ともに旅行需要はいつになく高いようで、これが人と映画との行動にどう影響を与えるのか、今後の参考になりそうな経済的なデータが得られそうです。
そんな中、まず注目したいのは今週の金曜日(4月26日)という「10連休の前日」から公開される「アベンジャーズ エンドゲーム」でしょう。
今から10年くらい前の「アイアンマン」から始まった「アベンジャーズ」へ誘導する仕掛けは、「インクレディブル・ハルク」「マイティ・ソー」「キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー」といった個別の作品で毎回、何かしらの誘導がなされ、私は「何か凄いことが始まる!」という期待がどんどん膨らむばかりでした。
その間、日本での「アベンジャーズ」関連作品の配給元は、まず最初の2作品「アイアンマン」「インクレディブル・ハルク」がソニー、そして3作品目の「マイティ・ソー」からはパラマウントに移り(「スパイダーマン」関連だけは今もソニー)、2012年の“アベンジャーズ”というチームとしてキャラクターが総結集する枠組みでの第1弾「アベンジャーズ」からはディズニー、という大きな変遷がありました。
背景には、1990年台の後半にソニーが「スパイダーマン」を映画化権を買うためにマーベルと交渉をしたのですが、その時のマーベルは1度倒産し「マーベル・エンタテインメント」として再生したばかりでした。そこでソニーは「スパイダーマン」だけでなく「アイアンマン」「マイティ・ソー」「ハルク」「キャプテン・アメリカ」「アントマン」「ブラックパンサー」など、ほぼすべてのマーベル作品映画化権を、わずか「トータル2500万ドルで販売したい」と提案されていたそうです。
結局、ソニーは当初の目的の「スパイダーマン」の権利しか買い取らなかったようですが、その後にマーベルは急成長し、2009年には「マーベル・エンタテインメント」はディズニーによって40億ドルで買収され、ディズニー傘下となりました。
そして、このアベンジャーズ関連の作品(マーベル・シネマティック・ユニバース)は、2008年の「アイアンマン」から「キャプテン・マーベル」までの10周年の間に「全世界興行収入で約2兆円」という「シリーズ映画で世界No.1」を記録するシリーズにまでなりました!
本作「アベンジャーズ エンドゲーム」で、さらに記録を大きく拡大させることはほぼ間違いがなく、まさに「映画史を変える存在」にまでなったのですが、もしソニーが当初の交渉にのっていたら今ごろソニーの株価も大幅に変わっていたのは間違いなく、コンテンツのポテンシャルを見抜くことは経済的に非常に大きな意味のある話と言えるわけです。
ウォルト・ディズニー・ジャパンが2012年の「アベンジャーズ」という超大作を打ち出す際に使ったキャッチコピーは「日本よ、これが映画だ。」という思い切ったものでした。
確かに私の中でも、いまだにエンターテインメントの分野で、この超大作を超える作品はすぐには頭に思い浮かばないので、規模感やクオリティーをかなり的確に伝える正しい表現だと思います。
それまでの単体での作品の興行収入は、なぜか日本だけは振るわず「アイアンマン」9.4億円、「インクレディブル・ハルク」5億円、「アイアンマン2」は12億円、「マイティ・ソー」は5億円、「キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー」は3.1億円という結果だったため、「アベンジャーズ」の36.1億円というのは、日本では大躍進と言えるのではないでしょうか。
その後「アベンジャーズ」のヒットによって「アイアンマン3」は25.7億円まで伸びたりしましたが、“アベンジャーズ”という枠組みでの第2弾の「アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン」は、第1弾と比べてしまうと出来は良くはなかったので、32.1億円と少し伸び悩んでしまいました。
そして、昨年の“アベンジャーズ”という枠組みでの第3弾の「アベンジャーズ インフィニティ・ウォー」は37.3億円と再び日本では過去最高を記録しました。
“アベンジャーズ”という枠組みでのラストとなる本作「アベンジャーズ エンドゲーム」は、世界的にはおそらく前作(世界歴代興行収入ランキング4位)を超え、2位の「タイタニック」と争うくらいの規模感で歴史的メガヒットを記録するだろうと思います。
日本でどうなるのかは非常に読みにくいですが、まず、作品の出来は総合的に非常に良いです。
3時間1分という上映時間が贅沢にすら感じるくらいに、これまでの壮大なまとめとして見事に「完結していた」と思います。
そして、またいろんな過去作が見たくもなります。
これまで情報を徹底的に管理していたのもよく分かるくらいの衝撃と納得感がありました。
ただ、様々な登場人物の関係性と感情に溢れた「壮大な物語」なので見た後でも大きな余韻は残り、おそらく前作の「アベンジャーズ インフィニティ・ウォー」より、リピーターが増えると思います。
文字通り「世界の映画史を変え続けたコンテンツ」なので、日本でも最後は有終の美を飾って初の興行収入40億円を突破してほしいところですが、「10連休」の動きも含め注目です!
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono