【横浜フランス映画祭2025】「ロザリー」監督、アナマリア・バルトロメイ、山中瑶子監督が映画業界における女性の現状や表現についてトーク
2025年3月24日 10:10

横浜市で開催された横浜フランス映画祭2025で、「女性と映画 ── 日仏映画人の対話」と題したトークイベントが3月23日行われ、映画祭での上映作から「ロザリー」のステファニー・ディ・ジュースト監督、「The Count of Monte-Cristo(原題)」に出演したアナマリア・バルトロメイが参加。日本側からは第77回カンヌ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞した「ナミビアの砂漠」の山中瑶子監督が登壇し、ジャーナリストの佐藤久理子氏が聞き手を務めた。登壇が予定されていたMEGUMIは体調不良のため欠席した。
まずは佐藤氏が、フランスの映画、視聴覚メディアに対する支援機関であるCNC(フランス国立映画映像センター)が毎年発表している、様々な調査の結果から、2023年度のフランス映画界の女性監督の割合が26.5パーセントであり、フランスは世界で最も女性監督の割合が高い国であると伝える。そして、ディ・ジュースト監督、バルトロメイに実際の労働環境はどのようなものかを問いかける。
ディ・ジュースト監督「その数字を聞いて驚きました。もっと増えていったらよいと思いますが、やはり女性が映画業界で働くのは常に闘いです。私が初監督作を発表したのが2016年、当時より自由に発言できるようになってきました。2作目の時は、やはり私も他の人と同じ扱いを受けているのか? など色々考えました。撮影現場では、女性にできるのか? そういう目で見られることもありました。私は比較的規模が大きい作品を2つ作りましたが、監督は職人であり、技術者の中のチーフとして活動するわけです。そういう目で見られることはモチベーションにもなりますが、やはり男の監督だったらそのように見られないと思います」

ハリウッドから始まった動きだが、例えば性的なシーンの撮影時はインティマシーコーディネーターを立てる、など俳優を守るためのプロが現場に入るようになり、映画界では様々な変化があることを紹介する佐藤氏。10歳から子役として、映画界で活動しているバルトロメイに、俳優としての立場からどのように感じているのかを尋ねる。
バルトロメイ:「私は10歳の時から俳優を始めたので、映画界であまり大人になりすぎないようにと気をつけてました。自分の人生と同じぐらい、子供時代は子供なりに、それからティーンエイジャーはティーンエイジャーとして、そして、成人した若い女性になってから、初めてヌードを見せる、そのように心がけました。そして、撮影現場では監督の対話を重要視しています。様々なことを共有し、協力し、後で曖昧なところがなかったようにしています」
そして、先のアカデミー賞で、主演女優賞を受賞した「ANORA アノーラ」のマイキー・マディソンがインティマシーコーディネーターをつけなかったというエピソードを挙げ、自身の疑問を述べる。「監督との関係がすごく良かったからつけなかったのか? それとも本人が若すぎて求められなかったのか? 若く、経験が浅く、有名ではない俳優だと本当はインティマシーコーディネーターが欲しくても、要求できないということもあると思うんです」
バルトロメイは自身の主演作「Maria de Jessica Palud(原題)」で、ベルナルド・ベルトルッチ監督作「ラスト・タンゴ・イン・パリ」に出演したマリア・シュナイダーを演じた。キャリアの浅かったマリア・シュナイダーは、撮影中に性的暴行を受け、その後も訴えることができなかったという当時の事情を佐藤氏が説明する。

その話題を受け、ディ・ジュースト監督は「自分の経験を通してしか言えませんが」と前置きし、「撮影に入る前に、俳優と信頼関係を結んでいくことが何より重要です。監督は監督としての芸術的な要求があり、(登場)人物像に集中したいものです。その中で監督と俳優お互いが信頼し、信頼関係が醸成される環境になれば、俳優も自分たちが考えている以上のものを出していけると思うのです。ですから暴力的なことは必要ありませんし、俳優がもっと自分を自由に出した演技をしていきたいと思わせるような環境づくりをします。ですから、私の現場でインティマシーコーディネーターがいることは想像できないですね。監督自身がそれをやるのです」と自身の撮影現場について伝える。
自身の新作「ロザリー」では、「ブノワ・マジメルだけが唯一裸になるのですが、彼にとってそれは大きなチャレンジでした。この映画に馴染んでいくことによって、彼は体を見せることが少しずつできるようになり、そして最後は非常に大胆なシーンに臨みました。ですので、相手がどういうふうに感じているかを尊重して、それを重視していくことが大事でした」と振り返る。
ディ・ジュースト監督の話を聞いた山中監督は「『ロザリー』を拝見して、お2人の関係性、親密さがよくわかりました。物語にとって必要な親密なシーンであり、そういうものを見られてとても嬉しく、それが監督と俳優同士の密な信頼関係によって生まれたシーンだったとうかがえてよかったです」とコメント。
山中監督の「ナミビアの砂漠」での場合も同様だったと言い、「私と河合(優実)さんは、脚本を書き始める前にたくさん話をしていて、あて書きということになったんです。脚本を書くためにざっくばらんに話したことが脚本に生きて、その後、役についての話はあまり必要ないくらいになっていました」

次に、佐藤氏が日本の映画の予算の少なさに伴う、労働条件の厳しさについて山中監督に質問する。山中監督は「日本映画の予算の少なさは想像を絶する」といい、「ナミビアの砂漠」はなんと15日で撮りあげ、「それは、本当にただただ制作費が少なく、イコール使える日数が少ないということ」と明かす。
ディ・ジュースト監督は「2週間であんなに素晴らしい作品が作れるなんて!」と驚きを隠せない様子でコメントすると、山中監督は「でも、それを許してはいけないとも思うんです。私が作れてしまったせいで、もしかしたら今後、他の人たちも『山中さんはナミビアを15日で撮ったんだから』みたいなこと言われてしまったら、業界全体にとって良くないなと思う」と自身の考えを述べる。
ディ・ジュースト監督も「もちろん、それは悪い例だと思います。(十分な予算や期間が)何もないのに良い映画が撮れてしまうと、何もなくても良い映画撮る要求をされてしまいますからね」と山中監督の意見に同調した。

そして、山中監督は「スタッフが若いチームでやったので、体力と集中力があったから可能だったということもあります。とはいえ、労働時間はきちんと守ってやっていたつもりではありますが、それでももっと時間が欲しい、それが正直なところでした。日本映画の現状は、小さい予算の映画がたくさん作られていて、もうそれをやめた方がいいんじゃないかと思います。もう少し予算をかけ、企画のしっかりした映画に集中する、そういうことが必要だと思います」と日本映画界への希望を述べる。
「そのお話を聞くとフランスはすごくラッキーだと思います。私たちは文句ばかり言っていますが、年間280本撮ることができるのは、やはりCNCの補助のシステムがあるから可能だと思うんです。もちろん、決して予算は十分だと感じることはなく、もっと欲しいと思っていますが、客観的に見てみますと、フランスのシステムはやっぱり特別です」とディ・ジュースト監督。そして、「勝利の頂点にある作品が『落下の解剖学』です。女性監督で、カンヌ映画祭でパルムドールを獲って、興行成績も良く、たくさんの人に見てもらった映画。そういう意味で勝利の1つの代表だと思います」と、フランス映画界のシステムをうまく活用できた女性監督の作品の名を挙げた。
次のトピックは映画における女性の表現について。昨今の映画作品では女性の主人公の描き方が多様化していることを例に挙げ、佐藤氏はまずはバルトロメイに現状を尋ねる。
バルトロメイ:「例えば1950~60年代のイタリア映画は欲望の対象として描かれていました。美しいですが、セクシュアリティに関しても、その内面の生活に関しても裏には言ってはいけない秘密やタブーがあった。当時に比べて今は、女性を女性そのままに捉える作品が多くなり、それを女性が演じることは当然良いことであり、一番良い形で実現できていると思います」
バルトロメイの意見に同調したディ・ジュースト監督は、ジェーン・カンピオン監督の「エンジェル・アット・マイ・テーブル」で描かれた女性像に感銘を受けたと明かす。そして自作「ロザリー」の話題に。多毛症の女性が、ありのままの姿の自分で生きることを望み、自分の意思で人生を切り開こうとする物語だ。

「日本社会では体毛が多いことはタブーだと聞いていたので、日本で公開されることに安心しましたし、すごく嬉しい」と喜び、「雑誌などで書かれる、女性はつるつるとした肌でなければいけない、エロティシズムはこういうものだ、というような社会的な決まりを変えたいと思ってこの作品を作りました」と語る。そして、山中監督の「ナミビアの砂漠」でも、主人公が脱毛サロンで働いているという設定に言及する。
日本人が体毛を気にすることに、山中監督は「私も大人になって、外国に行ったりして気づくようになりましたが、他の国から見ると異常なことなんじゃないかなと思う」と言い、「日本ではルッキズムを利用したビジネスが蔓延していて、コンプレックスをわざわざ作って、そこからお金を儲けようとする、そういうシステムにものすごく疑問がある」と述べた。

そして、主人公カナの人物像は「女性は、母親は、こうあってほしいとか、若者はこういう風にいてほしい――そんな映画ばかりでは、実際に生きている人たちが、自分みたいな人が映画の中にいない、そんな存在の不安みたいなものに繋がると思っているので、映画にはいろんな人が映っていてほしいし、ダメな人間が生き生きと好き勝手に生きている映画を作りたいなと思ってました」と説明し、「そして『ロザリー』もそういう映画で素晴らしかった」とディ・ジュースト監督作との共通点を見出した。
ディ・ジュースト監督も「その通りで、ロザリーも自分の自由を探求する女性です。『ナミビアの砂漠』も終わり方に希望が持てる」と評した。
次の議題として、日本とフランスの映画制作における共通点はあるのかないのかという点においては、フランスにはCNCという支援機関があるが、ディ・ジュースト監督は「プロデューサーが、最後まで付き添ってくださったので本当に良かった。『ロザリー』はシナリオの段階で、毛深い女性という設定なので、(映画会社)ゴーモンの女性プロデューサーがこれでやります、と言ってくれなければできなかった映画」と製作側の良き理解も重要だったと振り返る。

山中監督は、商業デビューしたばかりで、全体を俯瞰しているわけではないと自身の状況を前置きしたうえで、「日本はオリジナル脚本に対する信用度がない。売れているコミックや小説など原作ものの映画化企画を新人監督にはプロデューサーが持っていくし、監督から発されるアイディアをプロデューサーも期待していないのが切ない」と吐露。
ディ・ジュースト監督は、フランスの良い点として、カンヌ国際映画祭のように良質な作品が集まる映画祭があり、本選のコンペティション以外でも「ある視点」部門で取り上げられたことで注目されるようになったと自身の経験を語る。山中監督は、日本では国内の映画祭よりもカンヌ、ベルリン、ベネチアなど海外映画祭での入選を狙うことは一般的だと説明し、山中監督自身も「あみこ」が第68回ベルリン国際映画祭フォーラム部門に史上最年少で招待されたことから「逆輸入のような形で話題となって見てもらえた」と振り返る。
フランスにおける原作もの、という点では、バルトロメイが出演し、アレクサンドル・デュマの小説「モンテ・クリスト伯」を原作とした「The Count of Monte-Cristo(原題)」は、昨年のフランスで最大の製作費となる69億円が投じられ、フランス国内で動員940万人を超える大ヒットを記録した。

バルトロメイは「非常に大きなプロダクションで、予算も撮影もすごく大規模な作品です。オリジナルのシナリオが難しいという話題については、監督たちの話によると、やはり予算が大きい作品になると、プロデューサーが安心材料を求めます。それは俳優も同様ですが、どうしてもオリジナルよりも、これはヒットするだろうと、安心できるシナリオを使うと言っていました」と、フランスでも大バジェット作は、リスク回避で原作ものが好まれると明かした。
最後のトピックとして、日仏の表現者として互いの国の文化で惹かれるもの、インスピレーションの源になるものはあるかと、佐藤氏が登壇者に質問した。
ディ・ジュースト監督は「フランス人は日本のいろいろな側面に惹かれます」といい、映画では是枝裕和監督の「万引き家族」、宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」、そして写真家川内倫子の作品が好きだと明かす。バルトロメイは「1つずつの動作の美しさ、仔細な描き方、言葉にしない沈黙によって表されるものが素晴らしいと思う。私は映画の中での沈黙が好きで、そういう日本の詩的な表現がすごくいいと思います」と答えた。

一方で山中監督は「私はフランスのカップルたちの終わらない論争というか、言いたいことを言い合うのがすごく好きで。だからジャン・ユスターシュの『ママと娼婦』やモリース・ピアラの『愛の記念に』のように、とにかく喧嘩して、くっついて離れてを繰り返すようなフランス映画のそういうところがすごく好き。あとは、近年の『TITANE チタン』や『サブスタンス』など、フランスの女性監督が描く、逸脱した女性のキャラクターからもインスパイアを受け、嬉しい気持ちになります」と語った。
トークセッション終了後には、観客から今後どのような作品を作りたいかという質問も寄せられた。
ディ・ジュースト監督「最初の2作が女性、それも強い女性を描く作品だったので、次回は男性を描きたい。『ロザリー』のブノワ・マジメルとの仕事で男性のデリケートさを知った。男性のヒーローを撮り直して、違うものにしたい」
バルトロメイ「ベルイマンの『仮面 ペルソナ』のように、社会的に見せている面と内面の葛藤がある人物を演じたい」
山中監督「男性を撮ることにチャレンジしてみたい。組織と組織の中にいる男性の役割、社会的な役割と内面の動きなど、おふたりが言ったことが掛け合わさったものをやってみたい」

最後に、今回の出会いとトークを通し、山中監督は「次に行きたいという気持ちがやっと出てきた。おふたりに出会えて、次頑張ろう、みたいな気持ちが湧きました」と感想を述べる。ディ・ジュースト監督は、「面白いのは、私の映画『ロザリー』と山中さんの『ナミビアの砂漠』は同じことを語っているんです。でも全然表現は違う。これだけ違う表現で同じことが言えるというのを確認できて、とても面白かった」と予期せぬ発見を喜び、バルトロメイが「映画の中での女性について、女性監督と女優として、それぞれの立場で色々話ができたのはとても嬉しいです。いつか撮影現場で会えることを楽しみにしています」と結んだ。
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