パリの日本映画祭キノタヨ「バカ塗りの娘」に観客賞 審査員賞「銀河鉄道の父」、グランプリに「茶飲友達」
2023年12月19日 16:00
本作は、高森美由紀の小説「ジャパン・ディグニティ」を原作に、青森県弘前市で伝統工芸・津軽塗を生業とする寡黙な父(小林薫)と、それを手伝う娘(堀田真由)の姿を描く。津軽塗の魅力と斜陽の伝統工芸の状況、津軽塗に魅せられながらも父に言い出せない娘の自立の物語が融合し、日本文化に興味のある観客を魅了した。
鶴岡監督は感激した面持ちで、「素晴らしい賞を本当にありがとうございます。本作は伝統工芸という、もの作りの営みを描いたもので、そこからわたしも、もの作りという素晴らしい人間の営みを教えてもらいました。そういった映画が、映画の本場であるフランスで観客のみなさんに受け入れられたことは、本当に勇気づけられます。この喜びを映画に協力して頂いた青森のみなさんと分かち合いたいと思います」と語った。
一方、審査員が選ぶ審査員賞とグランプリは、前者が「日本の偉大な詩人、宮沢賢治の人生を、優れた演出力と素晴らしい俳優たちの演技により描いた」として、成島出の「銀河鉄道の父」に、後者が「高齢者の性欲の問題を描いた印象的な作品。また女性の強いキャラクターを描いた作品が目立った中でも、とくに繊細で人間性をもったヒロイン像で、気品を失わないところに魅力がある」として、外山文治の「茶飲友達」にわたった。
他のコンペティション参加作品は、高橋伴明の「夜明けまでバス停で」、阪本順治の「せかいのおきく」、石井裕也の「月」、松本優作の「Winny」、二ノ宮隆太郎の「逃げ切れた夢」、内藤瑛亮の「毒娘」。たしかに今回のコンペティションのセレクションには女性を主人公に、日本の伝統的父権社会のなかで奮闘する姿を描いた作品が目立った。
コンペティション作品以外も、今年はとりわけ魅力的なラインナップが揃っていた。オープニングを飾ったのは、ヴィム・ヴェンダースの「PERFECT DAYS」。ヴェンダース監督も駆けつけ、上映後に観客とのQ&Aに応じた。さらにフランスでも劇場リリースがまだ未定という山崎貴の「ゴジラ-1.0」、片渕須直の「この世界の片隅に」、原恵一の「百日紅 Miss Hokusai」、ヘザー・レンズの「草間彌生 INFINITY」、ジュリアン・ファロの「東洋の魔女」、パスカル=アレックス・ヴァンサンの新作ドキュメンタリー「岸惠子、自由な女性」、空音央の「Ryuichi Sakamoto | Opus」、クロージングを飾った松本准平の「桜色の風が咲く」と、新旧おりまぜた話題作が並んだ他、小津安二郎の生誕120周年を記念して、「早春」と「宗方姉妹」、またヴェンダースが東京を訪れて小津の軌跡を追った1985年のドキュメンタリー、「東京画」が上映された。
「岸惠子、自由な女性」の上映では、岸の娘でパリ在住のミュージシャン、デルフィーヌ・麻衣子・シャンピが登場し、ヴァンサン監督とともにQ&Aをおこなった。ヴァンサンは、女優としてのみならず時代の先端を行っていた、自立した女性としての岸の存在に惹かれたと解説。さらに当時としては珍しく外国人の、それもアメリカではなくフランスの映画監督であるイヴ・シャンピと結婚したことも印象的だったと語った。一方シャンピは、子供時代は母親が仕事で不在がちだったものの、家にいるときはつねにさまざまな文化人が遊びに来て賑やかだった思い出を明かした。本作はフランスのテレビ用に52分と尺が短いなかで、岸の多彩な半生をコンパクトにまとめ、勇気と慧眼に満ち我が道を貫いた彼女の人生を浮き彫りにする。
それにしても今回映画祭に通ってもっとも印象的だったのは、かつてないほど動員が増え、その熱気が肌で感じられたことだ。映画祭の発表では、昨年から観客数がトータルで5割以上も増えたという。もちろん作品の傾向や、上映日時にも拠るが、日本映画や日本文化全般に対する注目度の高さを改めて認識させられた。今回のゲストのなかでもっともベテランであった阪本監督は、以前「大鹿村騒動記」がキノタヨで賞を受けながらも立ち会えなかった経験があり、「今回初めて参加させて頂きましたが、日本映画に対する観客の方の眼差しがとても温かいなと。もちろん厳しさもあるのでしょうが、注目されていることを実感しました。上映後にQ&Aもやりましたが、観客の方がキャラクターや人間を注意深く観ている、自分なりに持って帰ってもらっているというか。それぞれの方が自身の解釈を持って、それを監督にぶつけてくるという感じがしました。映画に対して、芸術としての捉え方が違うと感じました」と感想を明かした。
フランスで唯一の現代日本映画祭は、この後2024年にかけてリヨン、カンヌ、サンマロなど、地方を廻る予定だ。(佐藤久理子)
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