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「戦メリ」秘話、「クラッシュ」大騒動、坂本龍一への思い 名プロデューサー、ジェレミー・トーマスが語る【NY発コラム】

2023年10月12日 16:00

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ドキュメンタリー映画「The Storms of Jeremy Thomas」
ドキュメンタリー映画「The Storms of Jeremy Thomas」

ニューヨークで注目されている映画・ドラマとは? 現地在住のライター・細木信宏が、スタッフやキャストのインタビュー、イベント取材を通じて、大作だけでなく、日本未公開作品や良質な独立系映画なども紹介していきます。


名プロデューサー、ジェレミー・トーマス――ベルナルド・ベルトルッチ監督作「ラスト・エンペラー」ではアカデミー賞作品賞をはじめとする9部門に輝き、ニコラス・ローグ大島渚デヴィッド・クローネンバーグジム・ジャームッシュ三池崇史といった錚々たる監督陣とタッグを組んで刺激的な作品を世に送り出してきた人物だ。

そんな彼にフォーカスしたドキュメンタリー映画「The Storms of Jeremy Thomas」が完成し、単独インタビューが実現。過去作や現在の映画界への想いを教えてくれた。

同作は、「ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行」「ヒッチコックの映画術」を手掛けたマーク・カズンズによる作品。ジェレミーが車でカンヌ国際映画祭に向かう道中に同行し、彼の映画に対する情熱を聞き出している。「戦場のメリークリスマス」「ラスト・エンペラー」「十三人の刺客」「コン・ティキ」などの秀作や過去の製作経緯を振り返っている。

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父親ラルフは映画監督、叔父のジェラルドは映画編集者。ジェレミーは、映画業界に関わる家庭に育った。

「(映画に関わる家庭に育ったので)映画業界にいることは、普通の仕事をするよりも良いことだと思っていた。ある意味、素晴らしい人生だからね。そう思ったから、17歳で学校を辞めて、フィルムラボで働き始めたんだ。当時は映画のことしか頭になく、常に映画を見ていたと思う。その時は、すでに映画に夢中だったが、普通の人が夢中になる年齢よりずっと若かった。その後、ペリー・ヘンゼル監督の『ハーダー・ゼイ・カム』で編集助手を務め、一気に業界を関わることになった」

さらに「その後、伝説のストップモーションアニメーターの故レイ・ハリーハウゼンと共に仕事をしたり、ケン・ローチ監督の編集を頼まれて何本か仕事をしたこともあった。友人のフィリップ・モーラ監督とオーストラリアで、映画『マッド・ドッグ・モーガン』を撮った。あれは私が映画製作の知識を全く持たずに、(プロデューサーとして)関わった最初の作品だった」と告白。当時は“何もできなかった”そうだが「世界中で映画を撮ることは、本当に楽しい」と理解するきっかけになったそうだ。

適任の映画監督やテーマを選ぶことに長け、驚くべき大胆なセンスを持っている。いかにして自分のテイストを確立したのだろう。

「それは、(説明するのが)とても難しいね。私は父の影響を受けながら、自分のセンスを育ててきた。彼は戦争に関わり、ボブ・ホープキャサリン・ヘプバーンハンフリー・ボガートなどの映画スターにいつも囲まれ、成功を収めた映画人だ。私はそんな家で育ち、ただ映画の仕事をしたいと思っていた。私はとても出来の悪い生徒で、ある日、校長に父が呼び出され『この子は学校にいる必要はない、あなたは連れて帰るべきだ。彼はここではなにもしないだろうし、絶望的だ』と言われたんだ。そんな絶望的な少年だった私は、学校を去って仕事に就いた。(当時の)私は映画のことばかり考え、映画監督になりたかった。だから、自分の映画を監督するためにプロデューサーになった。人や文化を自分のテイストで交錯させるのがとても楽しいんだ。私はカウンターカルチャー出身で、それを誇りに思っている。僕自身は主流文化の大衆映画を作ることにはあまり興味がない。次に流行るものを探すことにも興味がない。面白いもの、独創的なもの、物議を醸すようなものをあえて探しているつもりだ」

だからこそ、このような映画(=「The Storms of Jeremy Thomas」)を選択しているという。

「大企業のように自分の映画を宣伝する余裕はない。人々が話題にして、記事にしてくれるような映画を作りたいと思っている。基本的な観客である特別な人たちや、特別な関心を持つ人たちと一緒に映画を作りたい。私が扱っている題材は、それを作るために必要な、映画スター以上の関心を集めることを望んでいる。しかし、題材そのものは、まともな食事のように美味しい。物語だけでなく、映画には知的な側面も持たせたいとも思う」と答えた。

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これまでデヴィッド・クローネンバーグ大島渚ベルナルド・ベルトルッチなど、独創的な映画監督たちと仕事をしている。

「私は自分がインテリだとは主張しない。だが、適切なプロジェクトを見つけるために知性を大いに活用しているとは思っている。私は、身の回りのことを吸収するために、お金を持ち教養のある人々を尊敬している。学べることはすべて学びたい。常にいろいろなものを見て、学び、尊敬する人たちや私が知らないことを知っている人たちからも情報を吸収したいと思う」

「魅力的だと感じ、尊敬する人たちの映画と一緒に仕事をしたい。初監督の映画監督と仕事をしたことも何度かあるが、普段は自分の作品を理解している映画監督と仕事をする。まずは、様々な監督からどのような映画が生まれるかを理解することがプロデューサーの仕事だ。私は、俳優、脚本家、ミュージシャン、ストーリー、国など、あらゆるものを混ぜ合わせてきた。そして、それを新鮮で、少しオリジナルなものにしようとすることでもある。だから、後戻りすることには興味がない。私は前進し、私と観客を刺激する新しい物語を見つけたい。それは映画監督の年齢とも関係している。私はただ、人々が私の映画を見たくなるような題材を追っているだけだ」。

自動車事故をきっかけに性的倒錯へ落ちていく人々を描いた「クラッシュ」は物議を呼んだが、当時の人々の反応についてどう思っていたのだろうか。

「(あの反応は)狂っていたし、愚かだと思った。記者会見での反応も、センセーショナルでクレイジーなものだった。記者会見に出席していた原作者J・G・バラードは、実は非常に喜んでいたんだ。何百人もの人々が自分たちに向かって叫んだりしてくれたことに、私たちは皆喜んでいた。良い意味でね。観客は本当にショックを受け、気分を害していた。ただ私たちは、その後に何が起こるのかはわからなかったんだ。メディアがスチール写真を見せ続けたりしたことで、私の子どもが学校で虐待されたり、かなり嫌な時間を英国で過ごしたことを覚えている。ある時、フィリップ・ノイス監督と共にパブにいた際、後ろの女性が『クラッシュ』に関して、『(これを製作した)彼らは、絞首刑にすべきだ』と。あの映画は、英国の人々を逆撫でして、ロンドンではいまだに上映禁止になっているんだ」

戦場のメリークリスマス」では、音楽中心に活動していたデヴィッド・ボウイ坂本龍一が俳優として起用されている。キャスティングの過程についても教えてくれた。

「『ザ・シャウト さまよえる幻響』が、カンヌ国際映画祭で賞を受賞した年、大島渚監督に会ったんだ。彼は僕の隣に座っていた。それから2年後、彼は220ページもある『Merry Christmas Mr.Lawrence』の脚本を送ってきた。私は『おお、大島と仕事ができる』と思ったんだ。それから、私は『地球に落ちて来た男』などを書いた脚本家のポール・メイヤーズバーグと東京に行った。彼は私の西洋的な解釈に同意し、脚本を私たちが撮影できる長さに縮めてくれた。大島監督は、当時主役にロバート・レッドフォードを望んでいたが、それは実現しなかった。それから大島は『デヴィッド・ボウイが欲しい』と言ってきて、そこで私は、共通の友人を介してロンドンでデヴィッド・ボウイと夕食を食べたんだ。僕はデヴィッドに『大島は君を望んでいて、君にジャック・セリアーズ(主人公)を演じて欲しいと思っている』と言うと、デヴィッドはすぐに『やるよ』と返事をくれた。それから、僕と大島がジャック・トンプソントム・コンティ等など西欧の俳優をキャスティング。大島が日本の俳優をキャスティングしたんだ」

最後に答えてくれたのは、「戦場のメリークリスマス」「ラスト・エンペラー」「シェルタリング・スカイ」などで組んだ坂本龍一とのタッグについて。

「(坂本龍一の)息子・空音央は、彼の最後の演奏を映画『Ryuichi Sakamoto / Opus』にしている。空音央はニューヨーク映画祭に来るだろう。あの映画を作ったグループはとても献身的で、信じられないようなドキュメントに仕上がっている。彼(=坂本龍一)はご存知のように、とても特別な人で、教授でもあった。私たちが彼を『教授』と呼ぶのは、彼が本物だったからだ。彼は、私が人生で知り合った中で最高の人物の一人だった。特別な人であり、天才だった。私は、その言葉を軽々しく使うつもりはないが、彼は真の天才だった」

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