【コラム/細野真宏の試写室日記】「ボス・ベイビー ファミリー・ミッション」。なぜ「ボス・ベイビー」は日本で大ヒットしたのか?
2021年12月16日 14:00
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
「ボス・ベイビー ファミリー・ミッション」は日本で2018年に公開された「 ボス・ベイビー」の続編ですが、この「ドリームワークス・アニメーション映画」は日本で難産の末に公開されている背景があります。
「ドリームワークス・アニメーション映画」は、日本では「シュレック」「マダガスカル」シリーズ辺りはアメリカと同様に好調でしたが、それ以外は日本では上手くいかず、だんだん、日本での劇場公開がなくなっていったのです。
そんな“日本では事実上の撤退状態”だったドリームワークス・アニメーション映画が、2016年に転機を迎えます。「ミニオンズ」などで大ヒットを飛ばすユニバーサル・ピクチャーズ社の傘下となったのです。
そしてユニバーサルと組んだ最初の作品として2018年に「ボス・ベイビー」が公開されました。
このシナジー効果が日本でどうなるのか注目していましたが、日本で興行収入34.4億円という大ヒットとなったのです!
そのため、今週末12月17日(金)に公開の「ボス・ベイビー ファミリー・ミッション」にも大きな期待がかかっています。
ドリームワークス・アニメーション作品は、2019年3月より日本での配給はギャガと東宝東和の「共同配給」になりました。ギャガが宣伝を、東宝東和が劇場営業を担当する形となっています。
では、そもそも2018年3月21日に公開された「ボス・ベイビー」が、なぜ日本で大ヒットしたのでしょうか?
私は、2つの要因があったと思っています。
まず、1つ目は、吹替版のキャストにあると分析しています。
具体的には、主役の“ボス・ベイビー”をムロツヨシが演じたことです。
吹替版のキャストが興行収入に影響する事例はそれほど多くはないのですが、まれに「旬なタイミング」と「役柄」が一致するときにパワーを発揮することがあるのです。
「ボス・ベイビー」の際には、「銀魂」や「斉木楠雄のΨ難」などの福田雄一監督作品を中心に、まさにムロツヨシが「面白い存在」として大きく脚光を浴びていたタイミング。そのムロツヨシが「面白そうな赤ちゃん役」を演じるということで興味を掻き立てるものがありました。
これと似た現象に、同じく東宝東和配給の2013年1月18日公開の「テッド」があります。
この作品は、日本では「R15+指定」で、いわゆる「アメリカンコメディ映画」なので、通常であれば興行収入5億円もいければ十分なイメージです。
ところが、クマのぬいぐるみで下ネタやブラックジョークなどを吐きまくる“テッド”を、毒舌キャラで再ブレイク中だった有吉弘行が吹替をしたことで面白さが倍増し、まさかの興行収入42.3億円という大ヒットを記録したのです!
ちなみに「テッド」の作品の評価は、Rotten Tomatoesでは、批評家の評価は69%、一般層の評価は73%(2021年12月15日時点。以下同)となっていて、順当なイメージです。
そして、続編の「テッド2」も25.1億円の大ヒットを記録しています。
「テッド2」の作品の評価は、Rotten Tomatoesでは、批評家の評価は44%、一般層の評価は50%と、こちらも順当なイメージです。
そのため、いかにこの大ヒットが異例なものなのかが分かるかと思います。このように、吹替版でも「当たり役」というものが存在するのです。
次に「 ボス・ベイビー」が日本で大ヒットした、もう1つの要因は、ユニバーサルの傘下となったことで、大ヒットコンテンツ「ミニオンズ」との相乗効果が得やすくなったことが考えられます。
まず、CGを主体とした3D型アニメーションにおいては、「ディズニー・ピクサー作品」が世界で圧倒的な存在感を放っていますが、近年では「ディズニーアニメーション作品」のクオリティーが上がっていて、「ピクサー作品」との違いを感じにくくなってきています。
つまり、良い意味で「ディズニー作品」と「ピクサー作品」のトーンが融合しつつあり、「ディズニー・ピクサー」という独自性に磨きがかかってきていると言えます。
そして、それに対抗できている存在は、ユニバーサル傘下の「イルミネーション作品」で、「ミニオンズ」「SING シング」「ペット」シリーズなど、日本でも大ヒットを記録しています。
この枠組みで見ると、「ボス・ベイビー」の作品のトーンは「ディズニー・ピクサー作品」とは異なり、「イルミネーション作品」と非常に似ていることが分かります。
さらには、「ボス・ベイビー ファミリー・ミッション」では、その表現方法が「イルミネーション作品」との違いが見えにくく、「イルミネーション・ドリームワークス」という新たな領域になりつつあるように感じます。
つまり、かつて「ピクサー」がディズニー傘下になった際に、垣根がなくなっていき「ディズニー・ピクサー」という融合が起こったように、「ボス・ベイビー」シリーズから「イルミネーション・ドリームワークス」という新たな融合が起こるような様相を見せているのです。
さて「ボス・ベイビー」シリーズの作品の評価はどうなっているのかというと、「ボス・ベイビー」はRotten Tomatoesでは、批評家の評価は53%、一般層の評価は51%と、割と低くなっています。
そして、「ボス・ベイビー ファミリー・ミッション」はRotten Tomatoesでは、批評家の評価は46%、一般層の評価は89%となっています。
ここで注目したいのは、本作における批評家の評価は相変わらず、ですが、「一般層の評価は89%とかなりの高評価」となっている点です。
実は、これには、ちょっと思い当たる経験があります。
私は、まず字幕版を先に見たのですが、その時は、割と批評家に近いイメージでした。
というのも、前作の「ボス・ベイビー」の内容を、ほぼ忘れていたので、何となく記憶をたどりながら内容を確認していた感じだったのです。
ところが、その後に吹替版を見た際には、感想が全く変わり、まさに一般層と同じ評価に跳ね上がったのです!
このときは、何となく前作の設定等を思い出していて、さらには吹替版なので細かいことを気にせずに力を抜いて見ることにしたからでした。
前作の“25年後”を描いた「ボス・ベイビー ファミリー・ミッション」は作品のクオリティーも、まさに「ミニオンズ」を彷彿させるような出来で、前作よりも面白いと思います。
それを実感できるように、公開日の12月17日(金)の金曜ロードショーで「ボス・ベイビー」が放送されるので、まずはそれを見てみてください。
「ボス・ベイビー ファミリー・ミッション」では吹替版はさらにパワーアップしていて、特に“ボス・ベイビー”のムロツヨシは言うまでもなく、赤ちゃん役のティナを演じた多部未華子は意外なハマり役でした。
このように、本作では圧倒的に吹替版の方を99.9%は推したいのですが、0.1%は字幕版の方が良かった点もあります。
それは、後半の一つの重要なシーンである長女タビサの歌のシーンなのですが、字幕版で見たときは少し感動的なシーンだったのが、吹替版ではあまり響かなかったのです。
これは、単なる記憶違いかな、と思ったのですが、吹替版のエンドロールの際には、英語での字幕版の歌が流れるので確認してみてください。
長女タビサは歌が上手くない、という設定ではあるので、吹替版でも正解かもしれませんが、私は、この歌のシーンだけは字幕版の方が良かったと思っています。
最後に、肝心の興行収入ですが、字幕版を見たときは興行収入10億円いければ十分かも、と思っていました。ただ吹替版がかなり良く、本作のアニメーション映画としての出来の良さが実感できたので、まずは興行収入15億円を目指して頑張ってほしいところです。
出来は前作より良いとは思うものの、やはり今年の冬休み映画はかなり充実していてライバルが多いため、興行収入15億円でも十分に成功だと思われます。
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