エドガー・ライト監督作品完全制覇のススメ!「ラストナイト・イン・ソーホー」公開記念【映画.comシネマStyle】
2021年12月12日 11:00
毎週テーマにそったおすすめ映画をご紹介する【映画.comシネマStyle】。
エドガー・ライト監督の約4年ぶりとなる新作で、トーマシン・マッケンジー、アニヤ・テイラー=ジョイが共演したタイムリープホラー「ラストナイト・イン・ソーホー」が、本日12月10日から公開中。そこで今週は、「ショーン・オブ・ザ・デッド」「ベイビー・ドライバー」など映画ファンの心を掴む作品を発表し続けるライト監督を特集。メガホンをとった長編映画5本(「ラストナイト・イン・ソーホー」とショートフィルムを除く)を、時代順にご紹介します。
▽ライト監督の才能が世の中に広く知れ渡った最強パロディ映画
「ショーン・オブ・ザ・デッド」(2004年/99分/R15+)
ジョージ・A・ロメロの「ゾンビ」(原題:ドーン・オブ・ザ・デッド)をパロディ化したホラーコメディ。2004年の製作当時は日本で劇場未公開となったにも関わらず、熱烈なファンも多く、15年経った19年にTOHOシネマズで限定上映という形で、念願の劇場公開となった異色作です。この作品のヒットがきっかけで、ライト、サイモン・ペッグ、ニック・フロストのタッグで製作されたB級ホラーコメディ「血とアイスクリーム3部作」(本作を含む)に続くことになります。
ロンドンの家電量販店で働くショーン(ペッグ)は、親友のエド(フロスト)とともに毎日パブで飲んだくれ、自堕落な日々を過ごしていた。そんな彼に恋人のリズ(ケイト・アシュフィールド)は愛想を尽かす。リズを取り戻すため、ショーンは更生を誓うも、街には大量のゾンビが発生。エドとともに、母親とリズを助けるためクロケットのバットひとつで街中に飛び出すショーン。果たして、彼はふたりを無事救い出し、生き残ることができるのか……。
そんなショーンが考えついた最高の生存方法が「母親を迎えに行き、リズも助け出し、なじみのパブに立てこもる」。どうです? もう失敗の予感しかしないでしょ? しかし1日だけ禁煙をして、リズにいいところを見せたいショーンはやる気満々。なんとかパブに辿り着くも、ゾンビたちと対峙することになったときに、突如「クイーン」の「ドント・ストップ・ミ―・ナウ」が流れてくるシーンは最高です。
パブに置かれたジュークボックスから突如流れ出した音楽に、知らず知らずのうちに体が合わせてしまうのか、襲ってきたゾンビをみんなでリズミカルにタコ殴りにします。こんなに緊張感のないゾンビとの対決でいいのかと思わず笑顔になってしまいます。音楽とシンクロしたシーンって、なんでこんなに気持ちいいんでしょう。
「グロいのが苦手」という人でも、ただ笑って見られるゾンビ映画なので、ぜひ年末年始にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?
▽コメディ・サスペンス・アクションが見事なバランス! 多彩なライト監督の才能がてんこ盛り!
「ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!」(2007年/120分/R15+)
B級ホラーコメディ「血とアイスクリーム3部作」の2作目。「ショーン・オブ・ザ・デッド」のライト、ペッグ、フロストが再集結して製作されました。今度はアクション多めのコメディに仕上がっています。
頭脳明晰、スポーツ万能のエリート警官であるニコラス(ペッグ)はその才能ゆえに、周りの人々から反感を買い、イギリス一犯罪率の低いサンフォードという田舎町に左遷されることに。平和な村のはずが、村で死体が発見され、警察署長の息子・ダニー(フロスト)とともにニコラスは捜査を開始する。しかし、警察官をはじめ、村の誰もが事件に興味がないなか、新たな事件や怪奇現象が発生。捜査をすすめるうちに、この村に隠された秘密が明らかになっていく……。
「ショーン・オブ・ザ・デッド」では、ダメダメ男を演じたペッグが、今回は完全無欠の生真面目警察官を演じます。優秀だからこそ疎まれ、彼はきっと役に立つことができないだろうと、犯罪率の低い村に派遣されるものの、そこは完全無欠な男らしく、村に隠された秘密へと近づいていきます。
このようにあらすじだけを見ると、真面目なミステリーのように感じるかもしれませんが、そこは「血とアイスクリーム3部作」。小ネタが随所にちりばめられ、不穏な住民たちもどこかコミカルで笑ってしまいます。また、「ショーン・オブ・ザ・デッド」に続いて、ペッグとフロストが最高のバディとして、こちらの笑いを誘ってくるのが最高です。
しかし今回はコメディアクション。笑わせるだけではなくて、アクションも見ものです。村全体を巻き込む銃撃戦では、ペッグの華麗な銃裁きが最高に爽快な気分にさせてくれます(ただし、かなりグロめの表現も多いので、苦手な方はご注意を)! コメディ好き、サスペンス好き、アクション好きの誰もが楽しめる作品で、ライト監督の振り幅の広さを感じられることでしょう。
▽日本のアニメ&ゲームをリスペクトした仕掛けが楽しい! 遊び心満載の新感覚アクションコメディ
「スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団」(2010年/112分)
ブライアン・リー・オマリーによるコミック「Scott Pilgrim」を映画化し、ライト監督がハリウッド進出を果たしたアクションコメディ。
カナダに住む売れないバンドのベーシスト、スコット・ピルグリム(マイケル・セラ)は、ある日、不思議な女の子ラモーナ(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)に出会い、すぐさま恋に落ちる。しかし、ラモーナと付き合うためには、彼女の邪悪な元彼7人を、決闘で倒さなければならなかった。
日本のアニメやゲームの影響が色濃く反映された、遊び心満載の本作。冒頭から、懐かしのゲームの電子音とともにユニバーサル・スタジオのロゴが表示され、いきなりテンションをあげてくれます。また、スコットとラモーナのキスシーンではハートが散ったり、邪悪な元彼たちを倒すとコインが出てきたり。漫画のような吹き出しやイラスト、ゲームで見かけるパワーゲージや、ソードやハンマーなどの攻撃アイテムなど、思わずニヤリとしてしまう仕掛けがスクリーン上を休みなく動き回ります。
また、スコットの行く手を阻む元彼たちの個性が強過ぎ! ボリウッド仕込みの、インド映画風ダンスを踊りながら攻撃してくる者、ビーガンを貫くことでスーパーパワーを手に入れた者……恐らく字面だけでは全く伝わらないかと思いますので、読者の皆様の目で直接確かめてみてください。思った以上にバカバカしく、カオスな世界が広がっているはず。漫画のコマ割りのように構成された新感覚のバトルシーンにも注目です。
そして、アナ・ケンドリック、クリス・エバンス、ブリー・ラーソン、オーブリー・プラザ、ジェイソン・シュワルツマンら脇を固める俳優たちも豪華! 邪悪な元彼のひとりで、ハリウッドスター役のエバンス(自分そっくりのスタントマンたちと一緒に攻撃してきたりする)や、スコットを捨てたロックスターのラーソン(ライブシーンでは歌声も披露!)の弾け過ぎた演技も見どころ。また元彼役で、日本からは斉藤慶太と斉藤祥太も参戦しており、スコットとバンドバトルを繰り広げています。
▽二日酔い映画かと思えばまさかのSFコメディ! 3部作の集大成
「ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!」(2013年/108分/PG12)
「血とアイスクリーム3部作」のラストとなる作品。もともとばらばらの作品だった前2作が、この作品でつながるように仕上げています。今作ではとうとうSF要素が追加されています。
20年前、地元で仲間5人とともに、一晩で12軒のパブを巡る「ゴールデン・マイル」に失敗したことが忘れられないゲイリー(ペッグ)は、リベンジをするため、当時の仲間アンディ(フロスト)と故郷ニュートンヘイブンに舞い戻る。やがて5人は町の人々が人間ではないものに変わっていることに気づくが、“奴ら”を油断させるため、12軒目のパブ「ワールズ・エンド」を目指し、パブ巡りを続けていくが……。
今回のペッグの役は、「ショーン・オブ・ザ・デッド」と同じダメダメで、20年前が人生の最盛期という残念な男・ゲイリー。一方で、フロストが演じるアンディは、20年前から実直に変わっていき、いまではお酒も飲まずに、弁護士として真面目な人生を送っています。しかし、ゲイリーに言いくるめられて、まんまと「ゴールデン・マイル」に挑むことになります。
はじめは「ハングオーバー!」シリーズのような二日酔い映画かと思うのですが、ところがどっこい! 「ホット・ファズ」のように、町中の人々が不審な動きを見せます。さらに、トイレでゲイリーが若者に喧嘩を売って始まった乱闘で、若者の首がとれて青い血(!?)が噴き出すともう大変。ここから一気に大乱闘の始まりか……と思いきや、ゲイリーの発案でパブ巡りは続けることに。なぜって? すでに4軒目を終えている彼らに、まともな判断力があるわけがないからです(笑)。
パブ巡りは続けつつも、徐々に人間ではない“何か”が迫ってくるなかで、「ショーン・オブ・ザ・デッド」好きな人にはおなじみの、パブでの乱闘が始まります。しかし、「ショーン・オブ・ザ・デッド」との大きな違いは、相手は人ではないということ! 頭はプラグのように外れ、出てくるのは青い血なので、グロいのが苦手な人には、3作のなかでは最もおすすめです。
そもそも「血とアイスクリーム3部作」は、この作品によってつながっています。もともと「ホット・ファズ」の宣伝の際、前2作に登場するコルネット・アイスについて指摘を受けると「3部作になる」と発言し、その後、本作をもって3部作になるように作り上げているのです。もちろん、本作でもコルネット・アイスが登場(!?)するので、ほかの2作とともに、登場シーンを探してみるのもおすすめです!
▽ライト監督の洗練された音楽センスが光る 音楽×アクションが完全シンクロ
「ベイビー・ドライバー」(2017年/113分)
音楽を聞き驚異的な運転テクニックを発揮する天才ドライバーを描いた新感覚アクション。
天才的なドラインビングテクニックで犯罪者の逃走を手助けする“逃がし屋”のベイビー(アンセル・エルゴート)は、子どもの頃の事故の後遺症で耳鳴りに悩まされているが、音楽で外界から遮断さえることで耳鳴りが消え、超人的な能力を発揮することができる。そのため、こだわりのプレイリストが揃ったiPodが仕事の必需品だった。ある日、ダイナーで運命の女性デボラ(リリー・ジェームズ)と出会ったベイビーは、裏の世界から足を洗うことを決意するが、彼の才能を惜しむ犯罪組織のボス・ドク(ケビン・スペイシー)に脅され、無謀な強盗に手を貸すことになる。
「ザ・ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン」の「Bellbottoms」が流れる冒頭6分の銀行強盗シーンだけで、ベイビーのiPodに入った珠玉のプレイリストとシンクロする、スタイリッシュなカーチェイスやアクションの虜になるはず。劇中では、来日時にはフジロックフェスティバルに参戦するほどの音楽好きとして知られるライト監督が厳選し、音楽ファンをも唸らせるであろうハイセンスな30曲が使用されています。シフトチェンジやワイパー、クラッシュ音に至るまでのさまざまな“音”が、最高にアガる音楽となり、直接脳を揺さぶってくるような感覚を与えます。その後も全編にわたり、料理をつくる生活音や、銃撃戦の衝撃音までもが、音楽とハイレベルに融合しているのです。
誰かがセリフのなかで突然歌い出したりすることはなく、ミュージカル映画ともまた違う味わいがあります。しかし、最初の銀行強盗のあと、ベイビーがチームメンバーのコーヒーを買うシーンでは、ソウルデュオ「ボブ&アール」の「Harlem Shuffle」に合わせてリップシンクし、軽やかに散歩。そんなベイビーの姿を彩るのは、車が走る音やクラクション、すれ違う人々の話し声。新たな“トラフィック・ミュージカル”とでもいうべきものが、誕生しているのです。
「ベイビー・ドライバー」の製作前にライト監督は、8年間も携わったマーベル作品の「アントマン」の監督を、クリエイティブ上の相違から降板(原案、製作総指揮、脚本にはクレジット)。つまり本作は、ライト監督が大手スタジオの制約を離れて自由に、好きなものを詰め込んだ作品といえるのかもしれません。
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