【コラム/細野真宏の試写室日記】「護られなかった者たちへ」。生活保護×3・11のテーマ性がある社会派ミステリー作品の意義は?

2021年9月29日 14:00


「護られなかった者たちへ」
「護られなかった者たちへ」

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)


今週末10月1日(金)公開における邦画の最大の期待作は、佐藤健×阿部寛の「護られなかった者たちへ」でしょう。

まず、本作の時代設定は、東日本大震災の2011年と、9年後の2020年です。

そして、宮城県が舞台なので、東日本大震災において最大の犠牲者を出した「津波」で被害を受けた人たちにまつわる話となっています。

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キャストは、佐藤健阿部寛がメインで、その脇を清原果耶林遣都倍賞美津子永山瑛太吉岡秀隆緒形直人らが固めています。

これだけを見ると、なかなか豪華な作品ですが、舞台とテーマの関係で作風がやや重厚な分、人を選ぶ作品なのかもしれません。

ただ、私たちが知っておくべき「生活保護」という大切な仕組みが大きなテーマとなっていたりするので、是非ともできるだけ多くの人たちに見て考えてみてほしい作品となっています。

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本作は瀬々敬久監督作品ですが、個人的な印象では、作風の安定感はありますが、内容的に「当たり」と「外れ」が、やや極端にも感じます。

2011年以降の主な作品を列挙するだけでも「アントキノイノチ」「ストレイヤーズ・クロニクル」「64 ロクヨン 前編」「64 ロクヨン 後編」「8年越しの花嫁 奇跡の実話」「友罪」「楽園」「」「明日の食卓」のようになっていて、かなりのハイペースで映画を手掛けていることが分かります。

本作は「刑事モノの社会派ミステリー作品」なので、「64 ロクヨン 前編」「64 ロクヨン 後編」のような作品に近い面もありますが、割と淡々と進む点では「アントキノイノチ」「友罪」に近い面もあります。

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内容的に「当たり」と「外れ」に分かれやすい瀬々敬久監督作品ですが、「護られなかった者たちへ」は、少しだけ独特な作り方をしているので、それに注意すれば、「当たり」の方の映画だとすぐに分かると思います。

それは、大きく「2011年」と「2020年」の2つの時間軸が行き来する点です。

最初は「2011年」から始まりますが、その後で「9年後」という親切な表示が出ます。

ところが、それ以降の表示はなく、いつの間にか「2011年」に戻っていたり、「2020年」になっていたりと、注意深く見る必要があるのです。

ここで、やや難点となっているのは、メインの佐藤健阿部寛がすでに大人のため、「9年間の見た目の変化」がほぼ見分けにくい点にあります。

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そこで、あえて原則的な見分け方を言うと、「2020年」の阿部寛の場合は、基本、警察の相棒となった林遣都と一緒にいる状態になっています。

そして、清原果耶は「2020年」のシーンで出てきます。

ただ、厳密に言うと、この映画のシーンは、「2011年」と「2020年」と、“その間の期間”もあり、“その間の期間”にも清原果耶は登場します。

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このように、「3つの時間軸を行き来する映画」だと最初から頭に入れておくと、それほど混乱することなく頭を整理して見られると思います。

さて、本作では、影の主役とも言える「生活保護」という大きなテーマの理解が重要になるため、「最低限知っておきたい生活保護」の知識を説明しておきます。

まず、日本では生活保護の不正受給問題がニュースなどで報道されますが、もちろんこれは大きな問題で、すぐ個別に対処すべき事案でしょう。
(ちなみに、生活保護の不正受給は、金額ベースでは生活保護費全体の0.5%にも満たない水準となっています)

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ただ、その一方で、本来、生活保護を受給すべき人が受給していない、という現状もあるのです。

実は、日本の生活保護受給者は、先進諸外国に比べて少ないという現実があります。

それは、主に「スティグマ(恥ずかしいと思う気持ち)」によって、できるだけ国の世話にならずに自分で生きていく、という面が根強くあることも関係しています。

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日本の生活保護費は年間3.7兆円という規模で、しかも、このうち「約半分は医療費」となっています。

そして、住宅や介護費の分を抜いた「生活保護の現金給付」は、日本の社会保障費の全体では、わずか1%強にしか満たない水準のものなのです。

以上のような知識を頭に入れておくと、より冷静に、この映画の深さを理解でき、今後に活きる知識になっていくと思われます。

日本では、このような社会の仕組みを学ぶきっかけが義務教育などで行われていないという欠点があります。

そこで本作は、まさにそれを補ってくれるような大切な作品になっているのです!

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