【映画食べ歩き日記】第6回:「パルプ・フィクション」「ベイビー・ドライバー」…映画ファンに捧げる“シネマごはん”アメリカンダイナー編!
2020年8月28日 09:00
[映画.com ニュース] 日々の“おうちごはん”に寄り添ってくれる映画をセレクトする“シネマごはん”企画。第2弾は「アメリカンダイナー編」と題して、映画ファン憧れの存在である、アメリカンダイナーが登場する映画5本を紹介します。なかなか“食べ歩き”ができない状況ですが、映画と一緒にごはんを充実させるのはいかがでしょうか。(映画.com編集部/飛松優歩)
しばしば映画ファンの心をときめかせるアメリカンダイナーとは、朝から晩まで、いつでも食欲を満たしてくれる食堂のような場所。店内はレトロでポップな、気取らない雰囲気に満ちています。比較的リーズナブルな値段で提供されるジャンクでアメリカンなメニューが、これまたおいしそうなものばかり。ハンバーガー、フライドポテト、サンドイッチ、ホットドッグ、フライドチキン、ワッフル、パンケーキ……、アップルパイやサンデーなどのデザートも充実しています。名前を書き連ねるだけで、ハイカロリーな食べ物たちに胸も胃袋も踊り出しそう。映画の中で様々なドラマが繰り広げられてきたアメリカンダイナーで、真っ赤なふかふかのソファ席に座って、思う存分食べまくりたい! では早速、そんな夢を疑似体験できるアメリカンダイナー映画の1本目に参りましょう。
最初は、音楽を聞き驚異的な運転テクニックを発揮する天才ドライバーを描いたエドガー・ライト監督作。アンセル・エルゴートが、犯罪者の逃走を手助けする「逃がし屋」をしているベイビーを演じました。ベイビーのiPodに入った珠玉のプレイリストにのせ繰り広げられる、スタイリッシュなカーチェイスやアクションが見どころです。
そんなベイビーに犯罪組織から足を洗おうと決意させるのが、リリー・ジェームズ扮する運命の女性デボラ。彼女の職場であり、ふたりが初めて出会う場所が、アメリカンダイナーなのです。赤色のボックス席が印象的なクラシカルな店内を、ウェイトレス制服姿で軽やかに歩くデボラが最高にキュート! その後、距離を縮めたふたりはイヤフォンをシェアしてコインランドリーでもデートします。恋の力が、ありふれた場所を特別にしてくれるのです。
24時間営業で、様々な立場の人々をあたたかく迎え入れるのがアメリカンダイナー。ベイビーと仕事をする殺し屋のバッツ(ジェイミー・フォックス)、バディ&ダーリン(ジョン・ハム、エイザ・ゴンザレス)も揃ってダイナーを訪れ、コーラを注文。やがてある事件が起こり、店内ではスリリングな銃撃戦も勃発! 「ベイビー・ドライバー」は、アメリカンダイナー映画の決定版と言っても過言ではないのです。
第89回アカデミー賞で作品賞、脚色賞、助演男優賞(マハーシャラ・アリ)の3部門を受賞したヒューマンドラマ。貧困地域で暮らす内気な少年シャロンは、学校ではいじめられ、家庭では麻薬常習者の母親ポーラ(ナオミ・ハリス)から育児放棄されていました。そんなシャロンに優しく接してくれるのは、近所に住む麻薬ディーラーのフアン夫妻(アリ、ジャネール・モネイ)と、唯一の男友達であるケヴィンだけ。やがてシャロンは、ケヴィンに対して友情以上の思いを抱くようになりますが、自分が暮らすコミュニティではこの感情が決して受け入れてもらえないことに気付き、孤独を募らせていきます。
アメリカンダイナーで始まり、アメリカンダイナーで終わる本作。冒頭でフアンは、いじめっ子たちに追われ、建物の中に逃げこんだシャロンを発見します。「今から何か食いに行く。お前も来ないか?」――フアンがシャロンにかける言葉が優し過ぎて、この時点で落涙寸前……。穏やかな音楽が流れるダイナーでは、何も話さず、ひたすら食事を口に運び続けるシャロンを、フアンが優しく見守ります。怯えて、疲れ切った時に食べさせてもらうごはんは、どんな味がするのでしょうか。
マイアミを舞台に、自分の居場所とアイデンティティを模索するシャロンの成長が、少年期、ティーンエイジャー期、成人期の3つの時代構成で描き出されます。物語も終盤に差し掛かり、たくましく成長したシャロンは、ある事件により疎遠になっていたケヴィンに会うため、彼が料理人として働くダイナーを訪れます。ジュークボックスが設置され、ランプのあたたかい光に包まれた店内。あまりの懐かしさに言葉を失うふたりがお互いの顔を見つめる瞬間が美しく、親密な会話に心が満たされていきます。「俺の料理を食わせる」というケヴィンが作る“シェフズ・スペシャル”は、おいしそうなソースがかかった鶏肉のグリルに、ブラックビーンズとライスが添えられたキューバのワンプレート料理。調理シーンもたっぷりと挿入されているため、おなかが空くこと間違いなし! ワインを酌み交わしながら、語ろうにも語り尽くせないほどの思いがこみ上げるふたりに、胸が熱くなります。
ブラッドリー・クーパーとジェニファー・ローレンスが共演した、最愛の人を失い心に傷を負った男女の“再生”の物語。第85回アカデミー賞で作品、監督、脚色、主演・助演男女と、主要部門すべてでノミネートされ、ローレンスが主演女優賞に輝きました。妻の浮気が原因で心のバランスを崩したパット(クーパー)は、仕事も家も失い、人生のどん底に。いつか妻とよりを戻そうと奮闘していたある日、事故で夫を亡くした女性ティファニー(ローレンス)と出会います。
ホームパーティで知り合い、ランニング中にも遭遇したパット&ティファニーは、誤解や諍いがありながらも、ハロウィンの夜にダイナーで“デート”をすることに。ラフな服装のパットとは対照的に、セクシーな黒のワンピースで登場したティファニー。しかし、妻を思い続けているパットは「(周囲から)デートに見えないように」という理由で、牛乳をたっぷりとかけたレーズン・ブラン(シリアル)をザクザク食べ始めます(呆れながらも、一口味見するティファニーにも注目)。ふたりが初めて、お互いの過去や苦しみをさらけ出す印象的なシーンです。
刑務所帰りの男とゆきずりの少女の奇妙な恋愛を、エキセントリックな演出で描く異色のラブストーリー。主演、脚本、音楽を兼任したビンセント・ギャロが映画監督デビューを飾り、クリスティーナ・リッチがヒロイン役を務めました。物語の主人公は、5年の服役を経て刑務所から釈放されたビリー・ブラウン(ギャロ)。彼は両親に、姿を見せなかった“空白の時間”は政府の仕事に関わっていたためであり、現在は裕福で妻もいると偽りの話を聞かせていました。このまま家に帰るわけにはいかないビリーは、途中で立ち寄ったダンス・スクールの少女レイラ(リッチ)を拉致し、妻として実家へと連れていきます。やがてふたりの間には絆が芽生え始めますが、ビリーには果たさなければならない復讐がありました。リッチのボウリング場でのタップダンスが、あまりにも有名です。
ビリー&レイラが逃避行の途中で立ち寄るのは、あの「デニーズ」。「ココアを飲まない?」というレイラの提案で、デニーズの煌々と光る看板を目指すビリー。それぞれの事情や背景を抱えて人々が集まる深夜のダイナーは、様々なロマンを秘めた場所ですが、ふたり以上に風変わりで切迫したドラマには、なかなか出会えないかもしれません。息が白くなるほどの寒い夜、念願の“熱々ココア”を頼んだレイラでしたが、ココアが来る前にビリーと大ゲンカし、ビリーはそのまま店を出てしまいます。しかし、考えを改めたビリーが戻ると、机の端にちょこんと座り、うつむきながらマグカップを握るレイラの姿が。甘いものが大好きなレイラのため、最後にビリーがドーナッツ店で買いこむビッグサイズのココアと、ハート形のクッキーにも注目です。
クエンティン・タランティーノ監督が、3つのエピソードが交錯する斬新なスタイルで紡いだクライムドラマ。ギャングのビンセント(ジョン・トラボルタ)とジュールス(サミュエル・L・ジャクソン)は組織を裏切った青年の家を訪れ、盗まれたトランクを取り返します。また、ボスから愛妻ミア(ユマ・サーマン)の世話を頼まれたビンセントは、彼女とふたりで夜の街へ繰り出しますが、帰り際にミアが薬物を過剰摂取し昏睡状態に陥ってしまいます。
劇中には2つのダイナーが登場。ひとつは、パンプキン&ハニーバニーが強盗目的で襲うダイナー。そしてもうひとつは、ミア&ビンセントが立ち寄るダイナーです。車を模した座席の周囲には、クラシック映画のポスターが貼られ、マリリン・モンローやジェームズ・ディーンらセレブの姿を真似したスタッフが働いているユニークな空間。ビンセントは「ダグラス・サーク・ステーキ」とバニラコーク、ミアは「ダーワード・カービイ・バーガー」と“5ドルのシェイク”を注文します(いずれも著名人の名前がつけられたメニュー)。カラフルなメニューを眺めながら、何を頼もうか考える時間は、最高にワクワクしますよね。
やがて運ばれてきた、サクランボがちょこんとのったバニラシェイクを最高においしそうな表情で飲むミア。観客にかわりビンセントが「5ドルのシェイクってどんな味がするんだ?」と聞き、味見してくれます(感想は、5ドルも納得のおいしさとのこと)。すっかりおなかを満たしたふたりのツイストシーンも必見です。
この他にも、アメリカンダイナーが登場する映画はまだまだたくさんあります。次回も「続・アメリカンダイナー映画編」と題した記事をお送りする予定ですので、更新をお楽しみに。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。