1980年代の中学生を描いた邦画 タイムマシン気分で楽しめる傑作5本
2020年4月18日 13:00
1980年代から90年代前半を舞台にしたり、当時のカルチャーを描いた新作映画やリバイバル作品がここ数年次々と発表されています。ネットもスマホもありませんでしたが、とりわけ80年代前半からの日本は景気がよく、近い未来への見通しは明るい時代でした。未知の冒険に憧れたり、恋に目覚めたり……中学生はどんな青春を過ごしていたのでしょうか? 当時を知らない世代が見ても抜群に面白い、80年代の中学生を描いた傑作邦画5作品を紹介します。
「時をかける少女」「さびしんぼう」と並ぶ大林宣彦監督の“尾道3部作”の第1作がこちら。山中恒氏のティーン向け小説「おれがあいつであいつがおれで」(旺文社刊)が原作で、神社の境内の階段から転げ落ちた中学生の一夫と一美の体が入れ替わり、ふたりが戸惑いながらも、恋愛とはまた違った秘密の絆を築いていく青春映画。現在個性派俳優として活躍する小林聡美さんと尾美としのりさんの映画デビュー作で、異性の体になってしまったふたりのドキドキが伝わる名演技に引き込まれ、本作を繰り返し見ている筆者は毎回ラストシーンで涙。一夫の母を演じる若き日の樹木希林さんの存在感も見逃せません。「入れ替わってる!?」で、世界的に大ヒットした新海誠監督の「君の名は。」は本作へのオマージュ作とも言えるでしょう。
団地に住む4人家族の沼田一家。高校受験を控えた中学3年生の茂之のため、伊丹十三さんが演じる父・孝助が雇ったのは、松田優作さん扮する三流大学の7年生でつかみどころのない怪しさを持つ家庭教師、吉本。この配役や設定だけで、ほのぼの仲良しファミリードラマではないことがわかります。当時の数々の映画賞に輝いた傑作なので、音楽なし、横一列に並び食事をする家族の食卓などの新しい表現についてよく語られますが、中学生映画としての見どころは、宮川一朗太さんが演じる茂之が、偏執的で風変わりな性格であること。今でこそ“オタク”は市民権を得ていますが、当時の青春映画には珍しいタイプだったのでは?と思います。そして、バブル時代の華やかさではなく、いじめ、校内暴力やバット殺人など当時の社会問題を反映しているのにも注目です。
菊池桃子さん(当時もめちゃくちゃ可愛い)のスクリーンデビュー作で、東京のニュータウンに転校してきた早熟少年を描くラブコメディ。ネットのない時代の男子中学生の煩悶がコミカルに描かれています。山本陽一さんが演じる主人公が「エロ本、エロ本、ワクワク!」と少年の愚直さを結晶化したようなセリフをつぶやきながら自動販売機に小躍りで向かうシーンは、性的なコンテンツがネット上に溢れる時代には味わえない紙媒体への期待がひしひしと伝わり、当時を知らない筆者は感動すら覚えました。また、主人公が盗んだパンツ片手にひとりで見る打ち上げ花火は、上述の大林監督「転校生」のワンシーンと重なるような夏の終わりの少年の抒情が感じられます。そして、武田鉄矢さんのぶっ飛びの役どころ、内容に反して劇中の楽曲のセレクトがおしゃれというギャップも楽しめる一作です。
東京近郊の地方都市、台風が迫る4日間と学校内での非日常の中で生まれた狂気を描いた青春映画。夜のプールで遊ぶ男女、東京への家出、目覚め始めた性の欲望、大人の欺瞞に気づく時、同級生の自殺……甘酸っぱいだけではない、思春期特有の不安定さと残酷さを繊細かつ大胆な演出でみずみずしく活写。筆者は、工藤夕貴さん演じる理恵がナンパされた大学生の家に行ってしまうシーンがもう心配で心配で……鑑賞するたびに本物の老婆心が。ちなみに大学生を演じているのは上述の「転校生」尾美としのりさんです。暴風雨の中、中学生たちが下着姿で当時のアイドルの楽曲を熱唱しながら踊り狂うシーンは、日本映画史上に残る名場面。ジム・ジャームッシュ監督が永瀬正敏さんを見出したと言われる相米監督のもう一つの中学生映画「ションベン・ライダー」も是非チェックを。
中学生と大人たちとの戦いをみずみずしく描いた、王道青春映画。厳しい校則、出来の悪い生徒に対する、言葉の暴力や体罰など、今で言うモラハラ、パワハラに嫌気が差した男子軍団が廃墟に籠城し、見つけた廃戦車で突撃するというアクション満載の活劇です。見どころの一つは、男子に救いの手を差し伸べる女子チームの代表格ひとみを演じ、女優デビューした宮沢りえさん。白いタンクトップにジーンズからすらりと伸びた脚、初主演ながら堂々とした演技とその美少女ぶりは、思わず一時停止してしばらく眺めたくなるほど。偏屈な教師を演じる佐野史郎さんの怪演も味わい深く、こっくりさんなどのオカルトブームも反映されています。小室哲哉さんの音楽、主題歌はTM NETWORKというのも、その後90年代の小室ファミリーブームを予感させます。
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内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。