劇場公開日 2016年8月26日

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君の名は。 : 映画評論・批評

2016年8月23日更新

2016年8月26日よりTOHOシネマズ日本橋ほかにてロードショー

3・11後の日本へのレクイエムとエール。新海誠の新境地であり最高傑作

理想的なメジャーデビュー作というべきだろう。新海誠のセンスを一切損なうことなく、メジャーアップデートを果たしている。監督のセンスもさることながら、プロデューサーのバランス感覚が素晴らしいのだろう。スタジオジブリでも細田守でもなく東宝が夏のアニメに新海誠を指名したことは大きな驚きだったが、作家性を存分に発揮させたうえで、多くの観客の心を掴むのに十分な広い窓口の作品に仕上がっている。

一人で作り上げた「ほしのこえ」、つづく「雲のむこう、約束の場所」でセカイ系の旗手として、アニメファンの認知を獲得、その後の「秒速5センチメートル」では等身大の恋物語を美しい風景にのせて描き、さらにファン層を拡大した。「言の葉の庭」では本音を見せない男女の恋模様を雨に心理描写を託し、風景描写に一層の磨きがかかった。興行的にも一定の成功を収め着実にステップアップしていた新海監督だが、本作は過去の新海映画の集大成ともいうべきエッセンスが凝縮されているだけでなく、今までの作品には見られなかった社会へのメッセージも込められている。

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高校生の男女が夢の中で入れ替わるファンタジックな設定と新海映画の代名詞ともいえる実写と見紛う美しい背景描写が絶妙なバランスを保ち、純な高校生男女の恋物語が、一つの街の危機という大きな物語と絶妙に絡みあう。セカイ系は日常の描写と世界の存亡をかけた戦いが唐突に重なりあう独特さが魅力でもあり弱点でもあったが、本作はその不自然さを払拭している。

3・11を経た我々は、ある日突然世界が終わるかのような災害に襲われることがあることを知っている。絶望は唐突に訪れる、しかし人間の歴史はその繰り返しで、一つの災害が終われば知見を増やし次に備え、日々の生活に戻り、時に忘れては思い出す。その中で人は愛し、生活を営み、笑ったり泣いたりして死んでいく。そんな幾人もの人生の積み重ねに今の我々があるのだ、ということを本作は思い起こさせる。時間はねじれて、絡まって、時に戻って。災害で失われた人々の想いは時を超えてもどこかで今を生きる我々とつながっているのだ。3・11だけではない、本作は歴史の全ての災害で失われた人々へのレクイエムであり、悲しみも喜びも背負ってこれからの時代を生きていく若者へのエールと希望を高らかに謳いあげた傑作だ。

杉本穂高

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