【映画食べ歩き日記】代々木「cafe & DINE in nope」壁一面を埋め尽くす圧巻ディスプレイ&こだわりの“シャイニングトイレ”
2020年1月23日 12:00
[映画.com ニュース] 映画とおいしいごはんに目がない映画.com編集部員が、映画をコンセプトにした飲食店や、映画のロケ地となった場所をめぐるコラム「映画食べ歩き日記」。第3回目は東京・代々木にある「cafe & DINE in nope」に足を運んだ。(映画.com編集部/飛松優歩)
代々木駅の北口から徒歩2分、新宿駅の東南口から徒歩8分という、映画の街・新宿に近い場所にたたずむ「cafe & DINE in nope」。店内に一歩足を踏み入れると、壁という壁にはりつけられたおもちゃの山、山、山! スター・ウォーズ、マーベル、DC、ゴーストバスターズなどの映画グッズから、シリアルのパッケージやおまけまで、1980~90年代初頭のアイテムが中心となっている。アメリカで放送されていたというシリアルのCMがモニターで流れるなか、お宝が所狭しと並ぶ圧巻の光景に、しばし言葉を失う。オーナーのMoyaさんとKenさんが「おもちゃが並べてあるお店ではなく、店ごとおもちゃにしたかった」と語る通り、並々ならぬ情熱が伝わってくる。
趣味でおもちゃを買い集めていたKenさんが、自宅に眠るコレクションを見た友人から「おもちゃの美術館か博物館をやった方がいいよ」とアドバイスを受け、カフェバーという形でオープン。当初はおもちゃ屋さんも検討していたそうだが、「販売用におもちゃを仕入れても、欲しくて自分のものにしてしまいそうで(笑)。おもちゃ屋は向いていないですね」とほほ笑む。店舗に飾ってあるものはコレクションの半分以下だそうで、「同じように、あと2、3店舗は作ることができますね」と胸を張る。一方のMoyaさんは「スター・トレック」が大好きで、大ファンだったMr.スポック役のレナード・ニモイさんの死が、人生のターニングポイントになったという。「いつかニモイに会いたかったので、亡くなった時はショック過ぎて、2週間くらい寝込んだんですよ。そこから見たいもの、会いたい人、欲しいもの、やりたいことを全部やらなきゃ時間がないと思って」。カフェバーのアイデアを思いついてから、わずか3カ月で開店にこぎ着けたという驚異のスピード感もうなずける。
インディ・ジョーンズ、バイクにまたがったスパイダーマン、「チャイルド・プレイ」の箱入りチャッキー人形……、壁に飾られたおもちゃは、挙げ始めるとキリがない。ちょうどクリスマスシーズンだった取材日には、スター・ウォーズのキャラクター・オーナメントが飾りつけられたクリスマスツリーもあった。実際に手にとったり、写真を撮ったりするのもOK。「古いおもちゃは良い意味で狂ったギミックが多いから、触ってもらいたいんですよね」(Moyaさん)、「『Don't Touch』が1番冷めるので、『ご自由にご覧ください、いじってもらって構いません』という感じ。皆さん遊んで帰りますよ」(Kenさん)とのこと。専門業者に発注してゼロから作った世界にひとつの宇宙人ポール人形(原寸大)や、店頭プロモーション用のグッズだったと推測できる、スティーブン・スピルバーグ監督のサインが入ったE.T.など、目を凝らせば貴重なお宝の数々が潜んでいる。
おもちゃの並べ方にもこだわりがあるというKenさん。「なるべく現行品は置かないようにしています。ジャンル、色味、サイズ、パッケージに入っているものと出ているもの、全てのバランスを考えながら飾っています」。さらに、分かる人には分かる小ネタも仕掛けられている。
「マニアックなところだと、ピーウィー・ハーマンの人形の左上に、(米カリフォルニア・アナハイムのディズニーランド・リゾートにある人気アトラクション)『スター・ツアーズ』のドロイドと、『バットマン』の悪役ペンギン(オズワルド・チェスターフィールド・コブルポット)が飾られていますよね。これは全て、ポール・ルーベンスつながり。彼がピーウィー・ハーマン役でブレイクし、『スター・ツアーズ』でナビゲーターの声を務め、ドラマ『GOTHAM/ゴッサム』でペンギンの父を演じていることにちなんでいます」
さらに、Moyaさんが「1番キュンと来る」というレイアウトは、ジャック・ニコルソン扮するジョーカーのメイクアップキットと、「ポパイ」のオリーブのフィギュアの2ショット。「ロビン・ウィリアムズがポパイを演じた実写版『ポパイ』で、オリーブを演じたのがシェリー・デュバル。ニコルソンとデュバル、『シャイニング』で夫婦役を演じたふたりを静かに並べているという小細工ですね(笑)。果たしてお客さんはいくつ見つけられるか……映画検定ができるかもしれませんね」(Kenさん)。遊び心たっぷりに配置されたおもちゃを眺めながら小ネタを探したり、友人とクイズを出し合ったりするのも楽しそうだ。
そんな“シャイニング愛”は、店内のトイレにも及ぶ。当初Moyaさんは237号室の緑色のバスルームを再現したいと考えていたが、緑のトイレと洗面台がなかなか見つからなかった。そこで「レディ・プレイヤー1」のVR世界をヒントに、入る前は237号室、中に入ったらラストシーンのジャックの部屋という形でユニークな世界観を作り上げていった。扉のデザインやドアノブは表裏それぞれ異なる仕様で、劇中のものと近いクラシックなスタイルのトイレと洗面台を海外から仕入れ、ウェンディが逃げる窓や、一瞬しか映らないシャワーカーテンも再現。内装業者も映画を見返しながらMoyaさんの徹底的なこだわりを形にしていったそうで、「チーム・シャイニング」のような体制でトイレの造作が進められた。アイテムだけではなく、施工や塗装などもオーバールック・ホテルが建てられた年代に合わせるという念の入れようだ。
おなじみのじゅうたんが敷かれたトイレに向かう廊下は、血をイメージした赤いネオンで照らされている。「レディ・プレイヤー1」から抽出し、鋳造したという237のプレートが怪しい光を放つ扉のノブには、海外から取り寄せたプロップサイズの鍵が差し込まれている。扉を開けると「シャイニング」の音楽が流れるようになっており、トイレに腰掛ける形で振り返ると、実際に斧で破壊した(!)というすき間からジャックの狂気じみた顔がのぞき、隅には包丁を片手に怯えるウェンディの姿も。背後に広がるタイルも、劇中のウェンディの身長から割り出し同じサイズで作るなど、極限までこだわり抜いている。
アメリカンフードを中心にしたメニューも充実。人気メニューはベーコン入りマカロニチーズ(マッケンチーズ)、チリ、マッシュポテト味わえる「MCMプレート」(税別899円)。アメリカのマッケンチーズは家庭ごとにレシピが違うそうで、「cafe & DINE in nope」でもオリジナルの「うちの味」を目指している。マッケンチーズにチリをつけたり、マッシュと組み合わせたりと“味変”も自在。まさにアメリカンな印象の、豪快な一皿だ。さらに、「ジュラシック・パーク」のT-REXを彷ふつとさせる恐竜形の容器に載ったタコス「TACO-REX」(税別1099円)。ひき肉とキャベツとトマトにチーズがたっぷりかかった具だくさんのタコスにかぶりつけば、スパイシーな味わいが口いっぱいに広がる。
さらに、個性豊かなドリンク類もラインナップ。まずは、キャラメルポップコーン味のシェイクに、本物のキャラメルポップコーンとチュロスがこぼれんばかりの勢いで盛りつけられた「CONCESSION AT MOVIE THEATER」(税別999円)。その名の通り、映画館のコンセッションで販売されているおなじみの食べ物が奇跡のコラボレーションを遂げている。ポップコーンとチュロスを頬張りシェイクでゆっくりと流し込むというハイカロリーの多幸感に、辛抱たまらず胃が踊り出す! 続く「JERRY POP 3D」(税別799円)は青色のゼリーと赤色のザクロソーダが、3Dメガネをイメージさせるドリンク。ゼリーとソーダを紫色になるまでクラッシュすると、レモンのような爽やかな口当たりに。グラスに乗っている3Dメガネには店名が入っており、来店記念のおみやげとして持ち帰ることができるのも嬉しいポイントだ。
店名にも、映画ファンが喜ぶ胸熱エピソードが。「No」のスラング的な表現「nope」の響きが気に入り、ネガティブなワードで肩の力を抜いてお店を始めたいという思いも伴い、ワードを決定したと明かすKenさん。ロゴは「店全体がおもちゃ」というイメージで、「トイ・ストーリー」のウッディの靴の裏に持ち主の名前が書いてあるように、子どもの手書き文字のような無邪気なものにしたいと考えた。
「『スター・ウォーズ フォースの覚醒』でライトセーバーを振り回して大暴れするカイロ・レンに、『Nope(やばい)』と言って引き返すストームトルーパーの二人組(デビッド・M・サンタナ、サンディープ・モーハン)がいましたよね。ファンの間では『ノップ・トルーパーズ』と呼ばれているんですが、このふたりに『nope』を手書きしてもらえたら、すごくしゃれが利いていいなと思いました。もともと知り合いだったので、(意識して丁寧に書くことを避けるため)理由を伝えずにさらっと書いてもらい、一発採用しました。後で『お店をやることになったので、書いてもらった字をロゴにしてもいい?』と確認したら喜んでくれて。開店初日はふたりが揃って来日し、オープニングイベントにも参加してくれたので、大盛況でしたね」
圧巻のディスプレイに加え、“シャイニングトイレ”やアメリカンフード&ドリンクなど、マニアックな映画ファンの期待をはるかに上回る、クレイジーなほどのこだわりが感じられる「cafe & DINE in nope」。映画への情熱を燃やすオーナーと濃厚なトークを繰り広げながら、店内の至るところに目を向けてみてほしい。自分の映画人生を一瞬にしてよみがえらせノスタルジーに浸らせてくれる、“宝物”のようなおもちゃと出合えるはずだ。
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