芝居のディスカッション一切なし! 木村拓哉が挑んだ二宮和也との“世紀の対決”
2018年8月25日 10:00
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[映画.com ニュース]平成最後の夏に“世紀の対決”が実現した――これまで銀幕で相まみえることのなかった木村拓哉と二宮和也が、洗練させ続けてきた演技力という“剣”で互いを斬り合いながら、慟哭の結末へと導く「検察側の罪人」。一太刀一太刀がまごう事なき致命傷となる剣筋、相手から発せられる追及の言葉を真正面から受け止め、時に華麗に身を翻す。死闘ともいえる舌戦を繰り広げた木村にとって、“役者・二宮和也”は願ってもない好敵手だった。(取材・文/編集部)
「火の粉」「犯人に告ぐ」で知られる作家・雫井脩介氏の“最高傑作”とされる同名小説を、「関ヶ原」「日本のいちばん長い日」の原田眞人監督のメガホンで実写映画化。東京地検刑事部に配属された若手検事・沖野啓一郎(二宮)は、人望厚いエリート検事・最上毅(木村)と同じ部署になったことを喜び、正義感を熱く燃やして仕事に励むが、ある殺人事件をめぐり考え方がすれ違っていく。
「時効」「冤罪」「法律」をキーワードにしながら、観客に問いかけるのは「正義とは何か?」。ドラマ「HERO」で検事役には慣れ親しんでいた木村だが「(最上役は)全くの別物」と説明しつつ、正義の執行者であるはずの「検察」と相対する「罪人」が並列されたタイトルの矛盾に着目していた。そして「原作を読まさせていただいた時と同じく、なんというハンドリングをしてくるんだろう」と原田監督がアップデートさせた脚本の妙に驚きを隠せなかったようだ。
「『なんだ、これは…』と思いながら読み進めていくと、それを『なるほど』と思わせる厳しいストーリーが最上にはあった」と振り返る木村。最上の確固たる信念を揺らがせるのは、時効が成立した未解決殺人事件で被疑者となった松倉重生(酒向芳)の存在だ。限りなく“クロ”に近かった男が、時を経て別の殺人事件の被疑者として目の前に姿を現す。誰もが憧れを抱く完璧な男に弱さが垣間見え、無情にも“一線を越える”トリガーとなってしまう。最上の行動を「拍手はおくれず、称賛はできない」と断じた木村だったが「彼のメンタルは理解できるという感覚はありました」とキャラクターの内面へと歩を進めていった。
撮影時、徹底したメンタルの理解を裏付ける印象的なエピソードがあった。それは沖野の取り調べによって、松倉が過去の罪を自供する場面だ。最上は自身の担当事務官とともに、別室で沖野たちの会話を聞いているという設定。輝ける青春のひと時を一転させてしまう、松倉の醜悪な“思い出”は、最上になりきった木村の心に激しい怒りを生じさせた。
木村「実際は、最上が最後まで自供を聞いているという設定だったんです。でも、途中で聞いていられなくなってなってしまったので、急きょ席を外しました。次の展開へのつながりを考えても大丈夫だろうと思っていましたから。だから、一緒にいた担当事務官の『どこいくんですか?』というのはリアルな反応。それほど供述内容は酷いものです。あのシーンで最上のスイッチが大きく入ると考えていました」
同シーンには、さらなる裏話があった。劇中では「最上はレシーバーで音声を聞いている」という描かれ方だが、撮影地は「電波が皆無の場所」だったらしい。そこで二宮が先行して取り調べ室のシーンを撮影し、木村はその音源を聞きながら熱演を披露してみせた。「取り調べ室の空気感が音声だけでも伝わってきました。『ありがとな』とLINEしましたよ」と手厚いサポートに謝意を示してみせた。
「普段目にしている二宮は、『嵐』のメンバーのひとり」というイメージが強かったようだが「『硫黄島からの手紙』や、ドラマ『赤めだか』『ブラックペアン』で発してた、彼ならではの瞬発力はやはり実在していた」という木村。「今まで色々な作品を見させていただきましたけど、不安を感じてしまうことは全くなかった。安心できる共演者です」と厚い信頼をにじませる。続けて「自分が『見たい』と感じた作品だけを見る」というポリシーを告白し「ストーリーが持つ面白み、時代背景などをひっくるめて、作品の評価だと思う。(良質な作品に)彼が求められるという関係性が、きっと『見たい』と思わせてくれる要因なのかもしれません」と思いの丈を述べた。
撮影の合間、二宮とは頻繁にコミュニケーションをとっていたようだが「芝居に関してのディスカッションは一切していない」と打ち明ける。劇中では、その事実を感じさせないほどの“激突”が活写されているのだが、とりわけ注目すべきは、松倉への裁きを巡って、最上と沖野が真正面からぶつかり合うシーンだろう。「監督は2人が並んだ時に『何が見えてくるか』を確認していた」というクランクイン前のリハーサルを経て、リテイクは両者の切り返しカットのみという、珠玉のシーンを生み出してみせた。
初タッグを組んだ原田監督について「初めて現場に来た人にとっては、尋常じゃない存在」と語った木村。「変化球を投げてくるのではなくて、(思いを)ストレートにぶつけてくれるんです。それは出演者に対しても、スタッフに対しても変わらない」と充実した芝居の場となったようだ。また、太平洋戦争で日本軍が決行し、3万人もの兵士が命を落とした「インパール作戦」を「まさかあの原作に練り込んでくるとは思ってもいなかった。そういう視点、発想、思想を、映画を武器にして表現している」と分析してみせ、“原田テイスト”を独特の言い回しで表現した。
木村「スーツを着て、ネクタイを締め、第一ボタンをとめる。髪型も整えて、言葉遣いも良く、とてもジェントルなんですが、パンクというイメージです。『日本のいちばん長い日』も伝えてくれる内容、描写に関して、『そこを切りとるんだ!』というものを切りとってくれる。原田組じゃないと味わえない独特さです。監督が現場で放出している熱も、この現場でしか体感できないものだと思います」
8月6日に行われた完成披露試写会の場で「平成元年から終わりを迎えようとしている30年、立ち位置もスタイルも変えず、ずっとトップを走り続けてきた“木村拓哉”という人と作品を作りたいと考えていました」と長年の思いを吐露した二宮に対し、妥協なき真剣勝負で応じた木村。スクリーンに投影されているのは、平成最後の夏を飾るに相応しい演技合戦だ。
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