日本のいちばん長い日
劇場公開日 2015年8月8日
解説
昭和史研究の第一人者・半藤一利の傑作ノンフィクション「日本のいちばん長い日 決定版」を、「クライマーズ・ハイ」「わが母の記」の原田眞人監督が映画化。1945年8月15日に玉音放送で戦争降伏が国民に知らされるまでに何があったのか、歴史の舞台裏を描く。太平洋戦争末期の45年7月、連合国軍にポツダム宣言受諾を要求された日本は降伏か本土決戦かに揺れ、連日連夜の閣議で議論は紛糾。結論の出ないまま広島、長崎に相次いで原子爆弾が投下される。一億玉砕論も渦巻く中、阿南惟幾陸軍大臣や鈴木貫太郎首相、そして昭和天皇は決断に苦悩する。出演は阿南惟幾役の役所広司、昭和天皇役の本木雅弘をはじめ、松坂桃李、堤真一、山崎努ら。
2015年製作/136分/G/日本
配給:松竹、アスミック・エース
スタッフ・キャスト
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2021年6月30日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD
1967年に岡本喜八監督版とはかなり相違がある。岡本版はタイトルにもなっている、いちばん長い日、日本の降伏を決めた8月14日から玉音放送までを中心に描き、様々な人間が思惑を抱えてうごめくドキュメントタッチの群像劇だった。特定の誰かの心情に深く立ち入らずに「現象」を外から捉えたような作品だったが、原田眞人監督は、それぞれの立場を深く掘り下げ、なぜ宮城事件が起き、あのような決着になったのかのメカニズムに迫ろうとする。
最も大きな変化は、阿南陸軍大臣の解釈だろう。徹底抗戦を主張し、暴走する陸軍を代弁しているように見える彼の発言は、実は陸軍の暴走を止めるための芝居であると本作では解釈している。この複雑な「本音と建前」は日本人を理解しづらくしているものだが、そこに踏み込んだことで、この映画はある種の日本人論のようにもなっている。また、昭和天皇をはっきりと描いている点も特筆すべき点だ。本木雅弘の強さと静謐さを兼ね備えた佇まいは素晴らしい。
2022年5月5日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
本作は、半藤一利原作の再映画化であり、太平洋戦争末期、ポツダム宣言から玉音放送までの知られざる真実に迫った歴史群像劇である。豪華キャストで、日本政府と軍部の対立、戦争終結に反発する若手将校の暴走など、様々な困難を乗り越えて日本が如何にして終戦を迎えたかが克明に描かれている。当時を俯瞰して客観的に捉えているので、ストーリーは理解し易く、感情移入し易い。 歴史ドラマとして観ると面白い。
しかし、自国の終戦をここまで客観的に描かれると、日本人として釈然としない。戦争の責任者はいたはずなのに、登場人物全員が、戦争に翻弄された被害者に見えてくる。更に、登場人物は、皆、家庭的で優しい。政府と軍部の対立も、国会での政党間抗争のようだ。戦時下という緊迫感に乏しい。何より、実際に最前線で戦っていた人々の姿が皆無である。自国の終戦を悲劇として踏まえ、生々しい描写で、戦争の狂気にもっとリアルに迫るべきである。
1967年公開の前作は、ドキュメンタリーを観ているような臨場感があり、画面から戦争の狂気が迸り、作品全体が熱気を帯びていた。その鮮烈な印象は今でもはっきり覚えている。戦後22年の当時、太平洋戦争は歴史ではなく、忘れ難い過去だった。
両作を鑑賞して、両作の違いの背景にあるのは、戦争からの経過時間の差であり、戦後70年以上という歳月の経過で、太平洋戦争が日本人にとって遠い記憶になってしまったと実感した。戦後をいつまでも太平洋戦争後にするために、我々に出来ることは、当時を題材にした作品をたくさん観て、戦争の狂気の記憶を保持し、決して忘れないことであろう。
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「ヒトラー 最後の12日間」とあわせて鑑賞。日独で同じ時期をテーマにした映画なのに全然違っていて、かつそれぞれの国柄がでているのが面白い。
「日本のいちばん長い日」ではポツダム宣言から受諾が決まるまで、延々と会議が続き誰もが決めきれない。陸軍と海軍はまるっきり逆のことを言ってるし、鈴木貫太郎首相もいまいち頼りない。会議は延々細かい文言の話だの、みんなで歌を歌うだの緊張感に欠ける。阿南陸相も役所広司はかっこいいけど言ってることは無茶苦茶、陸軍省内の暴発を避けたいのは分かるけど部下にきっぱりとは言えずあの手この手でなんとか乗り切ろうとする。内閣も陸軍省もなんとなくな空気で動いてる、そして一部が空気を自分に都合のいいほうに解釈して勝手に動く…そんなまさに日本的組織。
そんななかで聖断を下す昭和天皇の存在は一縷の光明というか、唯一の良心みたいな存在感がある。それでもよく言えば気配り・心配り、悪く言えばどっちともとれるふわっとした指示・発言が多く、感情を発しないのも相まって、責任者なのか責任者じゃないのかイマイチパッとしない。「ヒトラー 最後の12日間」を見た後だと、取り乱したり暴言吐いたり色々しつつもトップとして「俺が動かしてるんだぞ!」というヒトラーとの違いがありありと出ていて面白い。
そして、じゃあ天皇が決めたことなのでみんな従うかといったら、東條英機(元首相が!)が率先して「諫言するがそれが通らない場合は強制しても初心を断行する」なんて言ってしまう始末。昭和天皇、トップとして信頼されてない…(まあ史実なんだけど)。そしてその発言にたきつけられた熱い思いにたぎる若手将校たち。畑中少佐を演じる松坂桃李はなかなかの演技で、青筋たてるとか演技でできるんだな…と変なとこで感心した。しかし彼らは熱い思い「しか」ない。宮城突入までの作戦はかなり杜撰だし、蜂起すればほかの軍も同調してくれるというのも希望的観測にすぎず何か作戦や根回しがあるわけでもない。そもそも決起が成功していてもその先は本土決戦、国民2千万人が総突撃すれば勝てるなんて話だったけど、最後に放送局に押し入った際、局員は誰も協力せず一人ぼっちで決起を呼びかける虚しい姿…。ホントに熱い思い「しか」ない(陸軍的には必勝の信念ってやつか、まあほぼほぼ史実どおりなんだけど)。
で、蜂起の失敗と阿南陸相の切腹でこの映画は終わるが、映画では切腹そのものに焦点が当たっていたが史実では「全軍の信頼を集めている阿南将軍の切腹こそ全軍に最も強いショックを与え、~大臣の自刃は天皇の命令を最も忠実に伝える日本的方式であった」といわれ自決の結果、徹底抗戦や戦争継続の主張は止んだそうな。現代人には今一つわかるようなわからないよう感覚…。
「ヒトラー 最後の12日間」のほうと比べると、すべてがあいまいにもやもやとストーリーが進んでいく実に日本的な敗戦を現した映画だと感じた。
2021年4月18日
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鑑賞方法:VOD
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自分の内閣で戦争を終わらせるべく行動した鈴木貫太郎総理と、命をかけて陸軍のクーデターを許さなかった阿南陸軍大臣。
大和が沈没してから海軍では敗色濃厚だったが、陸軍は本土決戦による勝利を信じていた。
ポツダム宣言受諾の議論は平行線のまま、二度の聖断により結論を出すことになる。
天皇・総理と陸軍兵の間で板挟みとなった阿南はまさに孤軍奮闘であった。
昭和の日本男児の像を描いた作品。
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