MOTHER マザー

劇場公開日:

MOTHER マザー

解説

「日日是好日」「光」の大森立嗣監督が長澤まさみ、阿部サダヲという実力派キャストを迎え、実際に起きた「少年による祖父母殺害事件」に着想を得て描いたヒューマンドラマ。プロデューサーは、「新聞記者」「宮本から君へ」など現代社会のさまざまなテーマを問いかける作品を立て続けに送り出している河村光庸。男たちと行きずりの関係をもち、その場しのぎで生きてきたシングルマザーの秋子は、息子の周平に異様に執着し、自分に忠実であることを強いてきた。そんな母からの歪んだ愛に翻弄されながらも、母以外に頼るものがない周平は、秋子の要求になんとか応えようともがく。身内からも絶縁され、社会から孤立した母子の間には絆が生まれ、その絆が、17歳に成長した周平をひとつの殺人事件へと向かわせる。長澤まさみがシングルマザーの秋子、阿部サダヲが内縁の夫を演じる。息子・周平役はオーディションで抜てきされた新人の奥平大兼。第44回日本アカデミー賞で長澤が最優秀主演女優賞を受賞した。

2020年製作/126分/PG12/日本
配給:スターサンズ、KADOKAWA
劇場公開日:2020年7月3日

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第44回 日本アカデミー賞(2021年)

受賞

最優秀主演女優賞 長澤まさみ

ノミネート

新人俳優賞 奥平大兼
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(C)2020「MOTHER」製作委員会

映画レビュー

2.5母親の描写に深みがなく残念

2020年7月17日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

 いわゆる毒親と、親子の共依存を延々と描写する作品。貧困家族を描く話として(実に荒い括りだとは思うが)引き合いに出されがちな「万引き家族」とは本質的に異なると感じた。「万引き家族」の登場人物には、あのような生活に陥らざるを得なかった悲哀を感じたが、本作の秋子はただの自己中心的な人間で、もっぱら本人の刹那的な行動により貧困が引き寄せられている。  強いて物語のテーマを探すとすれば、実際の事件の裁判で裁判官が母親の姉に問うた「周りにこれだけ大人がいながら何故助けられなかったのか」だろうか。あるいは、秋子のような人物が生まれた社会の病理がどうとかいうことだろうか。  周囲の大人は助けようとしなかったわけではない。周平に差し伸べられた手はあったが、秋子がことごとく薙ぎ払ったのだと作品を見る限りでは思えた。踏み込み方が甘いと感じる面もあるにはあったが、あれ以上介入すれば親側の人権問題がどうこうという話になるのだろう。  また、秋子の生い立ちがほとんど語られず、彼女の行動の原点が暗示されないまま毒親ぶりの描写が続くため、見ていて嫌悪感が先に立ち、問題が秋子の個人的資質に矮小化され、そこから何か他人事ではない問題に思いを馳せることはなかった。  実話ベースである点はすごいので、ひどい女がいたもんだ怖いねえ、という感想である。  それにしても、ベースになった事件はたった6年前の出来事だ。殺人を犯した息子は今も刑務所だが、母親はごく最近出所しているはずだ。収監中に彼女を取材した記事等を見たが、殺人を息子一人のせいにし、取材の見返りを細々指定して要求する等、とても反省しているとは思えない。息子は、彼女が出所したら妹に売春させて金を得ようとするのではと心配していたという。  この女を美しい長澤まさみに演じさせ、キャッチコピーに「聖母」を持ち出すのは、非常に軽薄な判断に思えた。元々長澤まさみの演技は好きだし、今回の熱演(もっぱら金切り声で突然叫んだり掴みかかって暴れたりすることでエキセントリックさを表現するのは安直だと思うが、これは監督側の問題だ)にも賛辞を送りたい。しかし、作品に「MOTHER」と命名しながら母親の行動の原点を掘り下げないのはどうなのか。  もっと息子一人にスポットが当たる形で描いてもよかった。中途半端な印象。

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ニコ

4.0傍観するのではなく、自分に何ができるかを問う

2020年7月11日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

泣ける

悲しい

製作陣も参考にしたであろう当該事件のノンフィクション本『誰もボクを見ていない』(山寺香著)を読んだ。毒親で息子との共依存関係を生んだ母を非難したり、貧困や虐待や居所不明児童を放置する社会も悪いと糾弾するのは簡単だが、それでは済ませられない。そんな著者の思いをこの劇映画も確かに汲み取った。 夏帆演じる児相職員や仲野太賀のラブホ従業員など、家族を支援しようとする人物は架空だが、実際に助けようとした大勢のエピソードを取捨選択して効果的に配した(港岳彦の脚本が手堅い)。彼らが手を差し伸べても、その手をすり抜けるように母子は消えてしまう。ほぼホームレスの外見のこんな母子を町中で見かけたら、あなたは声をかけたり、実際に助けたりできるのか。そんな難しい問いを孕む。 共感されることを拒む役作りに徹した長澤まさみは新境地。周平役・奥平太兼の物憂い目が哀しく、「誰も知らない」の柳楽優弥を彷彿とさせる。

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高森 郁哉

4.0もう一つの「万引き家族」。見終わった後の気持ちがこれ程まで違うのは何故だろう?

2020年7月2日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

まず、本作は大まかな題材が「万引き家族」と似ています。 そして、共にビターなラストでしたが、気持ちの「重さ」が全く異なりました。 では、何故ここまでの違いが出るのでしょうか? それは、本作の「実話の要素が重すぎる」という点が最大の理由でしょう。 さらに、もう一つ、主演が長澤まさみだったから、というのも大きいと思います。 要は、「好感度が圧倒的に高い女優」に、みんながトコトン嫌がるような「好感度ゼロの役」をやらせたらどうなるのか、という、ほぼ実現不可能なことをやってのけている点が、本作の特殊性としてあるのです。 社会が成り立つには、最低限の共通の価値観の「常識」というものが必要になります。 そのため、「働けるのに全く働かずに遊びまくり子供らに迷惑をかける親」は傍から見ると嫌気しか起こりません。 まさに、そんな「働くのをトコトン嫌がり、どんな悪い事をしても、できるだけラクをして生きていこうとする母親」を長澤まさみが演じているのです。 しかも、これまで通り「演技派」なので、これがまたリアルに演じ切っていて、見ている側が複雑な気持ちになってしまいます。 さらに、「自由奔放で行き当たりばったりの生き方」でも、自分一人で生きているのなら、これほどの強い気持ちは動かないのかもしれません。 ただ、この母親は「自分の子供をどう育てようと私の勝手でしょう」と、時には子供を洗脳するような言動で操り続けているので、さらに嫌悪感が増すわけです。 とは言え、これはあくまで実話をモチーフにした「映画」に過ぎません。 1本の映画でこれだけ心が動かされるのは、ひとえに役者が全員上手いから、ということもあります。 最初から50分まで登場する「小学生の時の息子」は、窪田正孝の少年期を思わせるような顔立ちで是枝作品にも出ていそうな演技の上手さで、50分以降の「5年後の息子」も初の演技とは思えないほどの「名役者」でした。 子供への目線に立つと居た堪れない気持ちになったりもしますが、個人的な感情を抜かして純粋に評価すると、これ程までに人の感情を動かすことができた点で、映画史に残るくらいの作品と言えますね。 役者全員の見事なアンサンブルに加えて、長澤まさみの新境地が見どころと言えると思います。

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共感した! 70件)
細野真宏

3.5時間と共に衝撃度が増! ラストは誰かと語りたくなる作品

2020年7月1日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:試写会

「実際に起きた事件」に着想を得て、ニュースなどでは見ることが出来ない母子の裏側を「フィクション映画」として製作された衝撃作。 息子は学校には行かず、ずっと母親と一緒にいる。そして、その母親は奔放で天真な姿を見せ息子を励ます一方、金銭面で困ると、息子に悪事をさせるなど世間的には「困った母親」。 事ある度に「誰にも渡さない」と言い、息子を所有物としている姿勢には一貫性がある。ただ、その他については、私には一貫性が無くブレているようにしか見えない。そんな難しい役柄を演じているのが長澤まさみ。本作でも他作品と同様に、違和感のない力演で、率直に本作で再び演技の幅を広げたことを実感する。 そして、そんな母親に対して忠実な息子。共依存という難題も考えさせられる息子役(少年期)は、本作がスクリーンデビューの奥平大兼。鋭い眼差しと役柄のギャップが印象的で、この先どのように活躍していくのかが気になるくらい頼もしい存在感があった。 母子の「要役」となる阿部サダヲは、映画「彼女が名を知らない鳥たち(2017年公開)」とは真逆に近い役柄を演じている。「阿部サダヲが出て来たら笑える」という感覚は捨てる覚悟で本作に挑むことがオススメ。 本作では、息子がこれまでとは違った普通の生き方をできるチャンスに巡り合える時がある。でも結局は母親の言うがままにする息子の気持ちは、本作を最後まで見ないとわからない。さらに、本当に重い事件は「見た者」にしか感じることができない行間がある。 劇中、私は、内容がキツくて苦しいと感じながらも、「この先はどうなってしまうのだろう?」という気持ちが率先して、エンドロールまで上映時間を気にする隙がなかった。

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山田晶子