劇場公開日 2020年7月3日

MOTHER マザー : 特集

2020年6月29日更新

新星・奥平大兼がすごい…!圧倒的存在感、長澤まさみとの競演に心乱される
「新聞記者」製作陣が放つ新たな衝撃作 少年の告白に、あなたは何を思う?

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長澤まさみが主演し、阿部サダヲら実力派が共演した「MOTHER マザー」(7月3日公開)は、実話をベースに描く感動と衝撃の物語だ。

今回の特集で読者に伝えたいこと。それは、母からの歪んだ愛情を受け育った少年を演じる、新人・奥平大兼(おくだいら だいけん)の存在感だ。

本作が映画初出演にも関わらず、その存在感には目を見張るものがある。彼を“目撃”するだけでも、鑑賞の価値が大いにあるほどだ。

そして当然、長澤の“決意の熱演”もすさまじい。日本映画界に一石を投じた話題作「新聞記者」を手掛けたスターサンズによる、新たな衝撃作。ある少年が起こした凄惨な殺人事件を通じ、親子の絆とは何なのかを問いかける――。

ひと足先に鑑賞した編集部員が、感想を交え、本作の見どころを語っていく。物語の結末を見届けた時、あなたは果たして、どんなことを思うだろうか。


【予告映像】 母と息子。ひとつの殺人事件。少年の“告白”とは、果たして――。

17歳の少年が犯した祖父母殺人 なぜ彼は、凄惨な事件を起こしたのか?
背後に見え隠れする母親は、何者か? 実話を基にした衝撃の一作

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●あの子は私の分身 舐めるようにして育ててきたの 母と少年の歪んだ共生

まずは、実際の事件に着想を得た物語に言及していこう。

男たちと行きずりの関係をもち、その場しのぎで生きてきたシングルマザーの秋子(長澤)。働きもせず欲望のまま行動する一方で、息子の周平に執着し、忠実に命令をこなすことを強いてきた。

秋子が連れてきた内縁の夫(阿部サダヲ)は、クズ男のように見える。自由奔放な母との生活だけが、周平の日常だった。しかし少年は、母の要求になんとか応えようともがく。

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秋子は内縁の夫との間に娘をもうけ、出産する。しかし彼女が「まともに生きる」ことなどなく、生活は荒む一方だった。秋子と周平は肉親から絶縁され、差し伸べられる救いの手をも振り払い、やがて社会から孤立する。

母と息子の間には、名状しがたい絆のような“何か”が生まれていく。それは、17歳となった周平を、「実の祖父母を殺害する」という事件へと向かわせる。

なぜ周平は、秋子から離れなかったのか? 事件を起こした理由とは? そして秋子が抱く息子への執着は、愛情か、それとも――。周平の“告白”を聞いた時、観客の感情はどうしようもなく乱されるだろう。

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●配給は「新聞記者」「宮本から君へ」などのスターサンズ

近年、日本映画界に次々と衝撃作を送り出す会社がある。その名も「スターサンズ」。菅田将暉とヤン・イクチュンがひりついた魂のぶつかり合いを見せる「あゝ、荒野」、日本政府に渦巻く“陰謀論”を真っ向から描ききった「新聞記者」、池松壮亮と蒼井優が“業火”とも言うべき熱量で共演した「宮本から君へ」と、話題作を次々と世に放った映画会社だ。

本作は、そんなスターサンズが製作。同社で上記の作品を手掛けてきた河村光庸氏が企画・製作を担っている。彼らの特徴は、常に忖度せず作品を創出していることだ。

表現や描写に一切の妥協をせず、スポンサーや観客の顔色をうかがうこともしない。だからこそ、完成した作品は危険なまでのリアリティと突き抜けた面白さがあり、見る者の心を震わせる。

その姿勢は、本作でも貫かれていた。日本映画界で躍進を続ける同社が生み出した新たな衝撃作を、その目で見届けてほしい。

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●「誰も知らない」「万引き家族」などの系譜…社会の底辺を生きる家族の行く末は

実話をベースに殺人事件を描くという点で、「冷たい熱帯魚」「凶悪」など、鮮烈な “実録もの”を思い浮かべる読者もいるだろう。共通点は確かにある。しかし本作が映し出すものは、凄惨な描写ではない。

本作は主に、先進国における“社会の底辺”を描いている。その点で、是枝裕和監督の「誰も知らない」「万引き家族」、ケン・ローチ監督によるカンヌ・パルムドール受賞作「わたしは、ダニエル・ブレイク」、鮮やかな色彩で貧困にスポットを当てたショーン・ベイカー監督作「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」などの系譜である。

劇中、こんなシーンがある。周平と秋子と内縁の夫が、海岸で魚の刺し身を食べる。刺身は、ビニール袋に入った残りものだ。その姿を見て、ほほ笑ましいと思うか、哀れみを感じるか……あなたの胸には、どんな感情が宿るだろうか。

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この俳優は誰だ? 突如現れた“ダイヤの原石”
奥平大兼(おくだいら・だいけん)、その圧巻の存在感に迫る

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●映画初出演の新星 異彩を放つ切実な熱演

17歳の周平に扮したのは、本作が映画初出演の奥平だ。重たい前髪の間からのぞくのは、猜疑心に満ちた切れ長の目。口元は自信なさげにすぼんでいる。それらとは対照的なまでに、真っ直ぐに伸びる鼻梁が際立って印象的だった。

セリフは多くはない。たどたどしい瞬間すらある。しかし、その存在感から目を離せない。彼1人を長回しでとらえる場面がいくつもあるが、いくらでも見ていられそうな気がする。時おり、本心がにじんだような表情が浮かび、そのたびにハッとさせられる。

奥平は現在17歳。今後が楽しみな俳優が、また1人、映画ファンの前に現れた。

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●発掘された才能 運命的な出会いを経て、いざスターダムへ

奥平の経歴が興味深い。芸能界入りのきっかけは、東京・渋谷駅で現在の所属事務所スターダストからスカウトされたこと。

演技は未経験で、「勉強のため」という理由で本作のオーディションを受けた(それが初めてのオーディションだった)。その立ち居振る舞いと雰囲気が製作陣の目に止まり、周平役に抜擢されることとなる。

学業優先で仕事をセーブしていたこともあり、事務所内でもその存在を知る人は少なかった。そのため、「この子は誰!?」と驚きの声が上がったという。

スターダスト所属、初オーディションで大役を射止めた……。その経歴は、是枝監督作「誰も知らない」で脚光を浴びた柳楽優弥とよく似ている。奥平は本作の撮影後、山崎賢人、横浜流星らと同じくスターダスト制作2部に籍を置いている。

本作との運命的とも言える出合いを経て、いざ、スターダムを駆け上がる。

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こんな長澤まさみ、初めて見た 女優業20年で切り拓く新しい顔
観客の心を乱し、親とは何かを問いかける“決意の熱演”

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●近年、急速にオーラを増す長澤まさみ 演じるのは、初めて踏み込む“暗黒面”

1999年度の“東宝シンデレラ”オーディションで見いだされ、2004年の「世界の中心で、愛をさけぶ」などで一躍、人気女優となった長澤。近年はミュージカル「キャバレー」や実写版「キングダム」などで実力を発揮し、急速にオーラを増しているようにも見える。

今年で女優業20年。節目の年に挑んだのは、映画業界に長く身を置く者でさえ「こんな姿、初めて見た」と驚くような役どころだった。

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劇中、秋子は度々、猫なで声で男に近づき、体を重ねる。それは欲望に忠実だからなのか、あるいは生きるためなのか……。

ラブホテルの薄暗く狭い廊下を歩く秋子と幼い周平を、背後からとらえたショットがある。長澤が体現した秋子の背中は、彼女の心情を何よりも雄弁に語っているように感じられた。

秋子は怪物か。あるいは、息子・周平にとっては聖母か。大森立嗣監督によるドキュメンタリータッチの演出も相まって、判断は観客に委ねられる。

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●「海街diary」夏帆との対峙は必見 阿部サダヲら共演陣も鈍く光る

夏帆は、ホームレス同然となっていた秋子らを保護する福祉施設の職員・高橋亜矢を演じる。成長した周平と交流を深めていくが、秋子は彼女をどこか敵対視していて……。物語の終盤、夏帆と長澤による静謐な会話劇がある。「海街diary」で姉妹に扮した2人が、かつてとは別のかたちで響き合う姿に、感慨深くなるはずだ。

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また、個性派・阿部サダヲが、秋子の内縁の夫・遼を演じる。長澤とは意外にも初共演。秋子や幼い周平を所有物同然に扱うクズ男だが、どこか「こういうやつ、いるよな……」と納得してしまうほどリアリティがある。

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秋子の母(つまり周平の祖母)に扮した木野花の“叫び”も印象的だ。秋子と周平を絶縁する場面。それまで穏やかで気弱そうだった祖母は、突如「もう顔も見たくない」と、気でも触れたのかと思うほどの金切り声を上げる。秋子が親族にしてきた仕打ちを、木野は絶叫を通じて表現しきっている。

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キャスト陣の芝居からにじみ出る“生々しさ”が、いつまでも脳裏に焼き付いて離れない。これは単なる“物語”ではなく、壁一枚を隔てた隣の部屋で起こる確かな“現実”なのだと、私たち観客は感じざるを得ないだろう。

撮影現場の様子。幼少期と青年期の“ダブル周平”が参加し、みんなでゲームに興じるなど、明るく和やかな現場だった。
撮影現場の様子。幼少期と青年期の“ダブル周平”が参加し、みんなでゲームに興じるなど、明るく和やかな現場だった。

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