パブリック 図書館の奇跡

劇場公開日:

パブリック 図書館の奇跡

解説

「ブレックファスト・クラブ」「レポマン」などで知られる俳優で、「ボビー」「星の旅人たち」など映画監督としても活動するエミリオ・エステベスが製作、監督、脚本、主演を務めたヒューマンドラマ。オハイオ州シンシナティの公共図書館のワンフロアが約70人のホームレスたちに占拠された。記録的な大寒波の影響により、市の緊急シェルターがいっぱいで彼らの行き場がなくなってしまったのだ。彼らの苦境を察した図書館員スチュアートは図書館の出入り口を封鎖するなどし、立てこもったホームレスたちと行動をともにする。スチュアートにとってそれは、避難場所を求める平和的なデモのつもりだった。しかし、政治的イメージアップをねらう検察官やメディアのセンセーショナルな報道により、スチュアートは心に問題を抱えた危険な容疑者に仕立てられてしまう。エステベスが主人公のスチュアート役を演じるほか、アレック・ボールドウィン、クリスチャン・スレイター、ジェフリー・ライト、ジェナ・マローン、テイラー・シリングらが顔をそろえる。

2018年製作/119分/G/アメリカ
原題または英題:The Public
配給:ロングライド
劇場公開日:2020年7月17日

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映画レビュー

4.0図書館の役割

2020年8月22日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

 大寒波のシンシナティ。行き場のないホームレス集団が、図書館員を巻き込んで図書館に立てこもり、一晩を過ごす…。図書館好きには、設定だけでわくわくする物語だ。けれども本作は、観る前の期待を軽々と跳び越えてくれた。そうくるか!という驚きの連続。さりげなく張られた伏線が、後半でじわじわと効いてくる。怒りを知性に、もどかしさをユーモアで包み込む彼らの力強さ! 醒めない余韻が、今も生き生きと残っている。  立てこもりに至る背景、彼らがホームレスになった経緯を紐解くのかと思いきや。本作のウェイトは、内にこもった彼らが、いかに外と繋がっていくか、に置かれている。そこが素晴らしい。主人公である図書館員の過去をほじくり出し、人質事件と片付けようとする市長選立候補の検察官(クリスチャン・スレーターが、一手に悪役を引き受けていて、これがまたいい。)の圧力を跳ね返すべく、交渉役の刑事(アレックス・ボールドウィンが、公私で揺れるさまを体現)との電話やスマホ動画を手段に、外の世界に発信し、一歩踏み出していく。外界と繋がり、自分の世界を広げること。それはまさに、図書館の役割ではないだろうか。せっかく動画を入手したテレビレポーターは、思考停止のスクープ狙いで、全く戦力にならない。けれども、ニュースソースそのものから事態を読み取り、行動する人々が現れる。「読み取る力」の大切さが押さえられているところも、本作にふさわしく、心憎かった。  冒頭、館長の趣味?!で持ち込まれたホッキョクグマの剥製。一見もふもふと可愛らしいが、脚を振り上げ、くわっと歯を覗かせた顔つきには迫力がある。ラストで再び、屹立する彼の姿に出会うとき、初めとはちょっと違って見えるはずだ。彼こそ、まさに図書館にふさわしい。

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cma

4.0多少の古さはあるものの、真摯で軽妙な社会派エンタメとして秀逸

2020年7月31日
PCから投稿

この映画のことが大好きだと断った上で、いくつか批判めいたことを書きたい。ひとつは序盤のアパートの管理人との恋愛パート。男と女が気の利いた会話をしてカジュアルにベッドインという80年代、90年代的なシーンを久々に見た気がする。そして、管理人や職場の部下も含めて、女性たちがあくまでもサポート的な役割に徹していること。また、図書館に立てこもるホームレスが男性ばかりであること。クライマックスのオチのために主要キャラは男性限定にしたかったのかも知れないが、人種差別や貧富の格差など、さまざまな公的なテーマを扱っている以上、本作における男性優位性は、さすがに批判の対象になっても仕方ないと思う。 一方で、80年代育ちのエステヴェスが、今の感覚にしてみればちょっと古い作風であることが、正しい正しくないはともかく、愛らしく感じられるというのはある。全方位に正しい映画作りなんてものは存在しないし、エステヴェスが真摯にテーマに向き合っていることはちゃんと伝わるし、実直さを失わず、愉快なエンタメに仕上げてみせたバランス感覚もいい。いくつか不満はあるものの、やはりこの映画もエステヴェスのことも大好きなのである。

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村山章

4.5図書館が民主主義と命を守っている

2020年7月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

「図書館は民主主義を守る最後の砦」という台詞にぐっと来る。図書館は、だれもが情報にアクセスできる自由を保証する。移民によって発展してきたアメリカでは、言葉を学んだり、知識を得たりするために図書館は大きな役割を果たしてきた。その図書館が、今全米でホームレスたちのたまり場となっている。そして、行き場のないホームレスの生命を守る最後の砦になっていることが本作では描かれている。 大寒波に襲われた街で、ホームレスのシェルターも全く足りない状況で、行く宛のないホームレスたちが図書館を占拠する。今追い出されたら寒さで死んでしまうという状況で、図書館司書たちは彼らとともに図書館に立てこもる。検察は法を執行しようと彼らを追い出そうとする。 表現の自由や情報アクセスの自由を守るだけでなく、図書館は今、貧困で家を無くした人々の命をも守っている。タイトルの「パブリック」のあるべき形がここには描かれている。

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杉本穂高

3.5公共。地味だが奥深いテーマ設定の巧さ

2020年7月28日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

笑える

楽しい

知的

監督としてのエミリオ・エステベスは、ロバート・ケネディ暗殺を扱った「ボビー」など派手めの題材も手がけたが、新作で描くのは一見地味な、大寒波の夜にホームレスたちが図書館を占拠する騒動。兼脚本のエステベスが、巻き込まれる心優しい司書スチュアートの役で主演している。 図書館がホームレスのシェルター代わりになっている、との記事に着想を得た。他の利用者から苦情で退去させた悪臭のホームレスに訴えられる話が出てくるが、実際に米国の図書館が苦慮している難題だとか。 騒動に乗じて顔を売ろうとする野心家の検察官(こんな小悪党役が増えたクリスチャン・スレイター)とTVレポーターにより、スチュアートは危険な扇動者に仕立てられてしまう。占拠の行方も楽しめるが、所得格差、ホームレス支援の不足といった社会問題の穏やかな提起に感じ入った。公共は、また知の拠点である図書館は、どうあるべきかを考えさせる力が確かにある。

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高森 郁哉

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