ビューティフル・ボーイ

劇場公開日:

ビューティフル・ボーイ

解説

「フォックスキャッチャー」のスティーブ・カレルと「君の名前で僕を呼んで」のティモシー・シャラメが父子を演じ、父デビッドとドラッグ依存症だった息子ニックがそれぞれの視点から描いた2冊のノンフィクションを原作に、家族の愛と再生を描いたドラマ。監督は「オーバー・ザ・ブルースカイ」を手がけたベルギー出身のフェリックス・バン・ヒュルーニンゲン。「ムーンライト」「それでも夜は明ける」を手がけたブラッド・ピット率いるプロダクションのプランBエンターテインメントが製作。脚本に「LION ライオン 25年目のただいま」のルーク・デイビス。

2018年製作/120分/R15+/アメリカ
原題または英題:Beautiful Boy
配給:ファントム・フィルム
劇場公開日:2019年4月12日

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映画レビュー

4.0作品を彩るあらゆる要素が、光り輝くエモーションを紡ぎ出していく

2019年4月28日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

ドラッグ依存に陥った息子を救おうと全力を尽くす親。その立ち位置そのものには目新しさを感じないし、そこから発展する余地があるのか疑問符さえ浮かぶ。だがこの映画はタイトル通りの透明感と飛翔感によって限界の壁を軽やかに突破していくのだ。

現実の一点を見つめるのみならず、そこに過去の記憶を散りばめたり、時系列を少しずらすことでストーリーに緩急をつける。そして柔らかな肌触りを大切にしながら、暗闇の中の輝きを際立たせる。かくも希望や光を失わずに前に進むことこそ、親子の歩むべき道なのだとということを痛いほど突きつけられる。

カレル&シャラメの演技もさることながら、彼らを包み込む風、木々、光、水、音楽、詩といったものこそ、空気感を成す欠かせない要素だ。その中央にeverythingという言葉があり、すべてを受け入れる愛がある。こんな絶妙なニュアンスを表現し得たベルギー生まれの監督にも賞賛を送りたい。

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牛津厚信

4.0親子の“分かり合えなさ”の普遍性

2019年4月25日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

泣ける

悲しい

薬物依存の問題を真正面から描く、なかなかにヘビーな映画ではある。依存症に苦しんだ若者の手記と、その父親の手記、それぞれの視点を原作から引き継ぎ1本の脚本にに紡ぎ合わせたのも新味と言えるだろう。だがいかんせん、何らかの依存症に深くはまった人かその身内でもない限り、この話をストレートに自らへ引き寄せて共感することは難しい。でも視点を変えて、親の心子知らずと言うように、家族の相互理解の困難さを扱う作品と考えてはどうだろう。こんなに苦しいのに親に分かってもらえない、愛する家族を助けたいのに思いが通じない…そんな普遍的な体験を象徴する話ととらえるなら、共感できるかも。

もともと気が滅入る筋に、不穏なBGMが流れてさらに心が重くなるが、タイトルになったジョン・レノンの「ビューティフル・ボーイ」が対照的に優しく美しい。だがジョンも家ではDV親父だったという逸話を知ると、この曲も一層複雑に響いてくる。

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高森 郁哉

3.5人は個々の空間で生きる孤独な生き物

2019年4月17日
PCから投稿

悲しい

怖い

なぜ、人は覚醒剤にはまるのか?当事者でない限り、否、当事者すら意識していないちょっとした気の緩み、好奇心、自分への甘さから、代償が大きすぎる依存へと堕ちていくプロセスを、ティモシー・シャラメがその筋肉のない、細い身体で演じている。彼の薄い胸と、小さなウエストが主人公の心理と健康状態を如実に表現していて、とても痛々しい。我々の生活の中でも、すぐそこまで迫っている覚醒剤中毒の恐怖が、若手随一の人気俳優の肉体を介して伝わって来る、これは必見の作品だと思う。そして、最愛の息子が別人に変貌していくのを、ただ見守るしかない親の視点で眺めると、何と人は個々の空間で生きる孤独な生き物であるかという厳しい現実が、胸に突き刺さる。名曲の"ビューティフル・ボーイ"がここまで皮肉めいて聞こえるなんて、思ってもみなかった。

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清藤秀人

3.5ヤクで成長

2024年9月23日
PCから投稿

一定期間、鎖かなにかで繋いでおきゃいいのに。とは思う。
人道的ではないが嘘ついてでも裏切ってでもなんとしてでもやるのがアディクトであるなら繋いでおくのが確実でしょうに。

──と思ってしまう薬物依存の様子を描いている。

息子のニック(シャラメ)はリハビリ施設に入っては脱出し、クリーンになったと思えばまたやりだし、父デヴィッド(カレル)は信じては裏切られを、幾度となく繰り返してきた。

デヴィッドは離婚しており再婚相手がいるが家庭は裕福。
新しい母はアーティストで、義弟妹となるちびたちは天使のよう(弟はSweet Toothだよ)で、邸宅は趣味がよく、豊かな自然に囲まれている。
ニックは父母からも義母からも愛され、演じているのは美しいシャラメ。

端から見ると彼がドラッグへはしらなければならない生活環境上の欠損はひとつもない。

The Smashing PumpkinsにTryTryTryという曲があってMVをよく覚えている。
末路はあんな感じなんだろうと思うが、映画はきれいな絵面で構成されている。
編集過多で、時間軸がズタズタと言っていいほど交錯する。
素直だった幼少期と、救いようのないアディクトになった現在が絡まり、父の苦悩を体感することができる。

シャラメは演技がじょうずでがん決まりのハイになったところも真に迫っている。
きれいで線が細い人だがイケメンをかなぐり捨てて踏み込んでくる。
父役は最初からカレルだったがニック役は当初Will Poulterが予定されていたそうだ。が、200以上のオーディションリールから最終的にシャラメに決まったとのこと。

薬中を体現するのにシャラメの痩身が活かされているが撮影は過酷でwikiに以下のような激白があった。

シャラメは入院シーンの撮影の数週間前に減量するよう指示され、その後、残りの撮影をこなすために休養して回復した。シャラメは、撮影中に何度も医師の診察と危機一髪があったことを明かし、「心は演技をしているとわかっている。でも、体重が20キロも落ちて、Tシャツ姿で8テイクも雨の下にいたら......身体は演技をしていることに気づかないんだ」

同監督で、英The Eight Mountains、伊Le otto montagne、邦帰れない山(2022)という映画があって個人的にすごく感動した。まっとうでむりがなくて音楽も編集も撮影も絵のセンスもいい。そして普遍性のある父子の葛藤をすくいとっている。これもそうだった。状況はぜんぜん違っても描かれる家族には根底で共感できるものがあると思う。

実話で、父デヴィッド・シェフが書いた本と、息子ニック・シェフが書いた本を組み合わせて脚本を構築したとのこと。
映画では省略されているが、ニックは異性愛者だが薬代をかせぐためゲイのハスラーをやっていたそうだ。

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津次郎

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