残穢(ざんえ) 住んではいけない部屋 : 映画評論・批評
2016年1月19日更新
2016年1月30日より丸の内ピカデリーほかにてロードショー
多様化するJホラー界において、久々に正攻法なアプローチで観客を震え上がらせる
引っ越してきたばかりのマンションの部屋で、何かが畳を擦るような音がする……。ある女性小説家のもとに寄せられた、怪奇現象を訴える不思議な読者投稿。そこで小説家が起因を探っていくと、近づいた者に災いをもたらす「穢(けが)れ」の存在が明らかになる。
自分の住んでいる土地には、過去に忌まわしい出来事や陰惨な事件があったのではないかーー? 誰もが漠然と感じている疑問に冷ややかな答えを出すのが、この恐怖映画の役割だ。小野不由美の原作は実話系怪談をヒントにしたリアルホラー小説の傑作で、虚実をないまぜにした実録ドキュメントの文調で書かれているが、その持ち味を損ねることなくドラマ変換に成功している。
マンションに起こる怪異を探るうちに、元凶が「穢れ」という死者の怨念にあり、それが感染拡大していくという展開は、いわゆる「リング」(98)や「呪怨」(00)を筆頭とするJホラーの系譜にあるものだ。しかし本作はJホラー的なショック演出を極力排し、ゾッとするような状況設定と観る者の想像力で恐怖を増幅させていく。今やJホラーが進化し、多彩な恐怖のありようを見せている邦画界において、久々に正攻法なアプローチで観客を震え上がらせる。
監督は「アヒルと鴨のコインロッカー」(07)「ゴールデンスランバー」(10)の中村義洋。劇場長編作のフィルモグラフィだけを俯瞰すれば、ホラーとは繋がりが弱い気がするが、どっこい「おわかりいただけただろうか?」の語りで知られるオリジナルビデオ「ほんとにあった! 呪いのビデオ」シリーズのメインクリエイターだ。いわば投稿怪談のひとつのフォーマットを確立させた張本人であり、こうした題材にうってつけの剛の者といえる。
原作では実在のミステリー作家らが登場してリアリティを高めているが、映画ではそれらが架空の人物に変えられている。それでも平山夢明氏をモデルにしたとおぼしきキャラ、平岡芳明(佐々木蔵之介)は本作で突出した印象を残す。実話系怪談を追求していくうちに、自ら怪しさの化身となったその異質ぶりは、東京国際映画祭でのプレス試写に参加した海外マスコミに引きつり笑いをもたらしていた。題材は土着的だが、恐怖に国境はない。
(尾﨑一男)