さよなら歌舞伎町 : インタビュー
平成生まれの染谷将太×前田敦子「さよなら歌舞伎町」で体感した廣木隆一監督の熱量
平成生まれの染谷将太と前田敦子が、2015年の日本映画界をけん引する。昨年9本の出演作品が公開された染谷は、今年も既に6本が封切りを待機中。一方の前田も昨年、タイプの異なる3人の監督と仕事をし、さらなる意欲を燃やしている。そんな2人にとって、15年のスタートを切る作品が、廣木隆一監督がメガホンをとった「さよなら歌舞伎町」だ。(取材・文/編集部、写真/江藤海彦)
今作は、メジャーからインディペンデントまで幅広い作品を手がけてきた廣木監督が、「ヴァイブレータ」(03)、「やわらかい生活」(06)に続き、脚本家・荒井晴彦と3度目のタッグを組んだ意欲作。染谷は一流のホテルマンになれなかった歌舞伎町のラブホテル店長・徹、前田は有名ミュージシャンになる夢をかなえようともがく沙耶に息吹を与え、けん怠期を迎えた同棲カップルを演じている。
92(平成4)年生まれの染谷と91(平成3)年生まれの前田は、今作が初共演。ここに至るまでの道筋は大きく異なり、一度も交わることはなかったが、映画をこよなく愛する2人でしか成立しえないアンサンブルを本編で奏でている。廣木監督は作品の中で自転車を多用することで知られているが、今作でも染谷と前田が2人乗りで街を流すカットなど幾つか用意されており、そのどれもが見る者の脳裏に明確な意味合いを刻み込むものとなっている。
そんな2人は撮影中、会話を交わすことはなかったそうだが、以下のやり取りからも現場で過ごした時間がいかに濃密なものであったかがうかがえる。共演してみての印象を聞いてみると……
染谷「何を考えているのか、まったく分からない人でした(笑)」
前田「そっくりそのままお返しいたします(笑)」
染谷「現場では全くしゃべらなかったんですよ。お芝居をしてみて発見することが多かったというか、いろいろと自分が投げてみると、毎回違うお返しがあって。それは非常に面白かったですね」
撮影終了時、染谷は廣木組について「誰が無理をしていることもなく、いたって自然に廣木さんについていっている現場に感動を覚えました」と語っている。2人に改めて現場での廣木監督について振り返ってもらった。
染谷「群像劇だったので、廣木さんがいろんな役者さんに接している部分を垣間見ることができたんです。役者さんそれぞれに対して方法論が全く違っていて、演出が異なっていたんです。それが新鮮でしたね。自分はあまり言われることはなかったのですが、結構言葉を浴びせられる方もいらっしゃいましたし」
前田「私は冷静に向き合ってくださる監督だなと感じました。時間がないのにもかかわらず、時間を惜しみなくくださる方でしたね。リテイクもしてくださいましたし、なんて役者に対して優しいんだろうって思っていました」
今作は筆者が見る限り、社会的なテーマも盛り込まれているが、近年の廣木作品の中で一番のエンタテインメント作だといえる。徹と沙耶を軸に、5組の男女の人生が歌舞伎町のラブホテルで交錯していくわけだが、染谷と前田のほか、南果歩(ラブホテルのベテラン清掃人)、松重豊(その夫で時効を待つ指名手配犯)、大森南朋(音楽プロデューサー)、村上淳(デリヘル嬢に入れあげるサラリーマン)、忍成修吾(風俗嬢のスカウトマン)、田口トモロヲ(デリヘル店長)ら芸達者な個性派が脇を固めていることも心強い。2人は、登場人物のなかで誰に感情移入したのだろうか。
前田「私は果歩さんが演じられた役(鈴木里美)が好きです。あのサバサバした感じが救われますよね。若者たちを見守っている立ち位置にいるじゃないですか。実際は結構なものを抱えているのに、それを感じさせないところが好きです」
染谷「僕は自分が演じた徹ですね。徹にとっては散々な1日ですよね。僕は経験したことがないですけれど、男の子らしいなって思いました。プライドが高くて自意識もすごく強いけれど、いろんな目に遭うことでそれが崩れ、維持できなくなるさまが男の子の弱い部分だなあって。ひどい目に遭うシーンを演じているときこそ、おかしみを感じました」
2人のコメントからも、今作の登場人物たちが「不器用で愛おしい人々」であることがうかがえる。舞台がラブホテルであることにスポットが当てられがちだが、オファーを受けた俳優陣が荒井の脚本にいかに引き込まれ、出演を決意したかという真意も透けて見えてくる。
染谷「群像劇だから、いろいろ比較されているわけじゃないですか。見ている人も登場人物を比較して見ちゃうと思うんですよ。社会的地位とか全く関係なくなる瞬間がいっぱいあるわけで。そうすると、とても動物的に見えてきますよね。“神”目線で見ることになると思うのですが、自分だってそこの一員だっていうことに気づかされる。そこがとても素敵で、とても意味のある映画だなと感じたんです」
前田「普通の登場人物がいないんですよね。でも、実際のところ何もない人なんていないじゃないですか。いろいろあるけれど、それでも普通に生きているのが当たり前の世の中だよなあって、私も思いますね」
また、見どころのひとつとして、現在の歌舞伎町の街並みを切り取っていることが挙げられる。廣木監督はこれまでにも、「やわらかい生活」では蒲田、「RIVER(2011)」では秋葉原と、街が主人公といもいうべき作品を残している。コマ劇場がなくなり、今年は4月にTOHOシネマズ新宿が開業するなど、変わりゆく歌舞伎町を映像におさめたことは特筆すべきことだ。
2人は歌舞伎町にどのような思い入れがあるのだろうか。前田はあまり馴染みがないとしながらも、「先日、花園神社の酉の市には行きましたよ!」と明かす。染谷も、「僕もあんまり行かないけど、最初の思い出は近くで撮影をしていて、その流れでラーメンを食べに行ったんですよ。『こんな街が日本にあるんだ!』っていう印象を受けましたね。あと、ゴールデン街に行った事もあります」と述懐。さらに、「ずっと歌舞伎町で撮影ってしてみたかったんですよ。映画として、映像がきれいにはまるイメージがあったんです。いろんなドラマを突っ込んでも成立する街だなと思っていたので」と話すと、横に座る前田も強く同調していた。
染谷と前田は、言わずと知れたシネフィル。本人たちもメジャーからインディーズまで幅広く出演し、バジェットの大小など意に介さないだけに、日常的にどのような作品を見ているのかは気になるところ。好きな映画について語り合う2人の様子からも、今作の空気感が伝わってくるはずだ。
前田「最近、いい映画がいっぱいありますよね」
染谷「僕は昨日、TOHOシネマズ日本橋で『寄生獣』を見てきました(笑)。でかいスクリーンで、1回見ておきたいなあと思って。湾曲したでかいスクリーンがあって、楽しかったです。あと、お客さんの入り具合も見ちゃいました(笑)」
前田「そういうところを隠さないところがいいですよね。私は最近だと、『6才のボクが、大人になるまで。』『天才スピヴェット』『ショート・ターム』です! この3本がいい感じでした」
染谷「あと衝撃的だったのは、『ジャージー・ボーイズ』。(クリント・イーストウッド監督は)あの年齢で、あんな映画が撮れるんだ! 若いなあってビックリさせられました」