007 スペクター : 映画評論・批評
2015年12月1日更新
2015年12月4日よりTOHOシネマズ日劇ほかにてロードショー
イオン・プロ50年の歴史を踏まえ、守り通してきた「キスキスバンバン」の魅力
ボンド映画の製作会社であるイオン・プロが、007シリーズ第24作目となる本作を50余年守り通して来た「公式」を遵守し超一流のエンターテイメント作品へと仕上げた。それでいてすばらしい「ミスター・キスキスバンバン」ぶりなのだ。これはスゴい、スゴすぎる。
本作では「カジノ・ロワイヤル」「慰めの報酬」「スカイフォール」で散りばめた伏線を、ストーリー中で巧みに回収している。しかも「ロシアより愛をこめて」や「007は二度死ぬ」や「女王陛下の007」など古き良き1960年代の007シリーズへの「目配せ」(オマージュ)もある。さらに、これまで権利関係で使えなかった「スペクター」と「ブロフェルド」が40年ぶりに復活しており、そういう意味でとてもカラフルなヴィランをクリストフ・ヴァルツが演じている。彼は声がいい。思わず聴き入ってしまうほどだ。
今回の007には二人のボンドガールが登場する。モニカ・ベルッチのファンは不満だろうが、本作はもう一人のボンドガール、レア・セドゥに思わず恋をしてしまうように出来ている。まさに後半出ずっぱりで、「ロシアより愛をこめて」のダニエラ・ビアンキや「カジノ・ロワイヤル」のエヴァ・グリーンのような深い印象を残す。
そして、毎度のことながら唸らされるのがボンドの愛車や彼が着用するアイテムの数々。アストンマーティンDB10、オメガシーマスター、トム・フォードの高級スーツ。男の一流品しか身につけないボンドだが、今回も過不足なくストーリー中に組み込まれている。
メキシコシティの「死者の日」、古都ローマ、冬のオーストリアアルプス、モロッコと、風光明媚なロケ地を訪ねて旅情を誘ってくれるのもすばらしい。
ダニエル・クレイグ版007シリーズではベストともいえる出来だ。ある部分内省的とも言えるサム・メンデス監督の筆致が、本作では見事なまでに突き抜けているところにも注目だ。
(サトウムツオ)