少年H
劇場公開日:2013年8月10日
解説
作家・妹尾河童の自伝的小説で、上下巻あわせて340万部を突破するベストセラーを、「ホタル」「鉄道員(ぽっぽや)」の降旗康男監督が映画化。太平洋戦争下という時代に翻弄されながらも、勇気や信念を貫いて生きた家族の激動の20年間を描き、実生活でも夫婦の水谷豊と伊藤蘭が夫婦役で映画初共演を果たした。昭和初期の神戸。名前のイニシャルから「H(エッチ)」と呼ばれる少年・肇は、好奇心と正義感が強く、厳しい軍事統制下で誰もが口をつぐむ中でも、おかしなことには疑問を呈していく。Hはリベラルな父と博愛精神に溢れる母に見守られ成長し、やがて戦争が終わり15歳になると独り立ちを決意する。
2013年製作/122分/G/日本
配給:東宝
スタッフ・キャスト
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2022年11月21日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル
空気を読めないクソガキが我がままに成長していく映画
終戦になり学友に「戦争終わって良かったー」と言って殴られる描写があったけど、戦争を語らない人が多いのはこういうことだと思った、周りの環境を汲まない発言は地雷を踏む。
少年Hとは何を表現したかったのか?他の方のレビューにもあるけど子育てについて表現したかったんだと思いたい。
2020年12月20日
iPhoneアプリから投稿
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WOWOWで何気に観だしたらとまらなくなった。
ある一家の戦争物語。
作家 妹尾河童さんの自伝的小説が原作。
腕のいいテーラーで愚直な父、敬虔なクリスチャンの母のもとに生まれた肇、少年H。
利発でまっすぐで、正義感の強いH。
仲の良い家族の戦前の平和な風景が、日常が、開戦ののち次第に富国強兵の世の中に飲み込まれて行く。
大変印象に残ったのが、Hの同級生の悪気ない行動によりHの父が政府にスパイ容疑をかけられ憲兵に連行され、翌日帰ってきた日の父子のこのシーンの会話です。
拷問により赤く腫れ上がった父の手を見て動揺し、同級生を殴りに行く!と息まく息子の腕を掴んで引き戻し、まっすぐ息子の目を見て、穏やかな、でもしっかりとした言葉で諭す父の言葉。
「その原因をつくったのは、あんたじゃないんか。(友達だけを責められるんか)
犯人探しなんかしても、つまらへんよ。あんたまで嫌な人間になってしまうで。
それよりも、むしろ友達は苦しんでるんちゃうか。自分のせいでこうなったって、一人で困ってるんと違うか。
ここに座り。ええか、よう聞くんや。この戦争がどうなるか、お父ちゃんもわからん。自分がしっかりしとらんと、潰されてしまうで。
今、世の中で何が起こっとるんか、自分の目でよう見とくんや。
いろいろ我慢せなならんことがあるやろけど、何を我慢しとるんかはっきり知っとったら、我慢できる!
戦争は、いつか終わる。
その時に、恥ずかしい人間になっとったら、あかんよ」
正座をして父の言葉を聞くH。
(お父ちゃんはこんな酷い目にあったのに、恨んでないんや。すごい人や)と子供心に感じたに違いない。
ハリウッド映画のようにここで抱き合ったりはしないけど、そこには父子の確かな愛がありました。父としての、子供の未来を思う、深い愛情がありました。
そして私は思ったんです。今と似てる、と。
これは戦争に走った日本が国からある意味一方的な価値観を押し付けられ洗脳され、大半の国民が疑問にも思わず、混乱しながらも夫や息子を戦地に差し出し、新聞の政府の都合の良い記事にある意味騙されていた時代。
当時の様と、今のコロナ禍の混沌とした状況が重なって、置き換えてみると、この水谷豊演じる父の言葉がズシンと胸にきたのでした。
【自分がしっかりしてんと、潰されてしまうで。
しっかりと、世の中を自分の目で見るんや。
いつかこの混乱が終わった時、恥ずかしい人間になっとったら、あかんよ】
久しぶりに、泣けた。
その後、空襲で焼け野原になる神戸の街。瓦礫の中で立ち尽くし、みんな家も財産も失い、一から這い上がってきた。
敗戦後は一変して「アメリカさん」の言うなりの価値観に。国って何なんでしょうか。
それでも人は、生きていくしかない。
水谷豊さんはドラマ【相棒】しか知らなかったけど、こんなに演技が上手いとは。
この役は彼しか考えられない。
子役も頑張ってるし、実生活でも実の奥さんであるすーちゃんもとても良いです。
凄く丁寧に作っている映画。しょうもないアイドル出演の映画では無く、ちゃんとした映画。こういう作品が増えると邦画ももっと評価されると思う。
2020年7月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
舞台美術家の妹尾河童さんが自分の少年時代を描き、300万部という大ヒットとなった小説の映画化です。
妹尾さんを演じる吉岡少年が、真に素晴らしい演技を見せて、お見事の一言です。
お父さん役の水谷豊の大阪弁はヘンな上に自信なさげですが、この点を除けば、なかなか良い演技でした。
お父さんは、自由主義・博愛主義を愛しながらも、柳のようにしなやかにわが子を育てています。
一方、お母さんがゴリゴリのキリスト教信者。
この人一人では殉教しかねないぐらいのコチコチ頭に固まっています。
しかしその毒を、しなやかなお父さんが解毒する、そういう家族関係の中で少年Hは育ったのでした。
「正しいと思うことは正しいと思う」と、うかつにも言ってしまう少年H。
その少年Hの目に第二次世界大戦はどう映ったか、という、あたかもレンズを二枚重ねで描いたような構図によって、この作品は成功したのでしょう。
しかしその代償として、妹尾さんは、実は片耳の聴力を失っています。
映画の中でも妹尾少年はさんざんに殴られるシーンが描かれていますが、 耳が聞こえなくなったとまでは一言も触れられていません。
しかし事実はかくの如し。
信念を貫くことは、なんと辛いことなんだと、今だから言えるのかも知れません。