「頑張れ」という言葉は難しい。相手を追い詰めることになるので「頑張れ」と言ってはいけないとか、無理を強いるような「頑張れ」という言葉は嫌いだ、という人が増えたのは、いつ頃からだろうか。それでいて、震災後は「頑張ろう」という言葉が巷に溢れ、無数の車や菓子パンにまで「頑張ろう」と無言で激励されるようになっている。
私は、へそ曲がりだ。「頑張らなくていいよ」なんて言われると、「じゃあ、誰かが何とかしてくれるんですか」と言い返したくなるし、「頑張ろう」を連発されると「どう頑張ればいいのでしょうか」と尋ね返したくなる。たぶん、「私は私なりに頑張ってるんですけれど。」という気持ちが根っこにあるのだろう。
ダンディをめざす宮田と真田、そして宮田の子どもたちは、幾度となく「頑張れ」という言葉を口にする。彼らの「頑張れ」は、私にも不思議とすんなり受け入れることができた。彼らは、相手との距離を縮めようとしても、決してなくそうとはしてしない。自己開示しまくったり、手を取り合って泣いたり笑ったりする関係はカッコ悪い。家族であっても、友人であっても、所詮は他人。それぞれ、ばらばら。相手へのもどかしさを抱きつつも、ぶつけられない。それでいいんだ、それでこそダンディだ、と声高にならずに映画は語る。
他人なのだから、思い通りにはならないし、わからない部分もある。けれども、大切に思っている。だからこそ、様々な思いを「頑張れ」に込め、そんな「頑張れ」をまっすぐに受け止める。そんな関係が、じわりじわりと見えてきた。
光石研と田口トモロヲ(敬称略)のベテラン二人や、石井組とも言える森岡龍の絶妙な存在感は言うまでもないが、収穫だったのは吉岡淳。無愛想に見えて内心は揺れ動いている、年頃の女の子を、やりすぎず、ごく自然に体現していた。無言の演技、表情がいい。今後が楽しみ。それから、ちいさい役ながら、写真屋の店員・綾野剛も印象に残った。「うさぎドロップ」に続き、不穏さとユーモアを兼ね備えた脇役ぶりが光っている。ゆくゆくはダンディな二人に近づくかも? これまた、期待だ。