J・MOVIE・WARS

劇場公開日:

解説

九二年十二月から九三年六月にかけて、WOWOW日本衛星放送において放映された、五人の気鋭の監督がそれぞれ一話約十分の映画を各四話ずつ演出した競作。時間的制約を除き、各監督が自分たちの作りたい企画を各々の個性を思う存分発揮して作り放映時から評判を呼んでいたのが劇場公開となった。日本映画の製作システムの新しい試みとしても注目された。シリーズ全体の監修を「逆噴射家族」の石井聰亙がつとめている。 石井聰亙篇「TOKYO BLOOD」 〈閃光への予感〉というテーマのもと、特に各話に共通項はなく作られた石井聰亙作品。脚本は石井と「てなもんやコネクション」の宇野イサムの共同。撮影監督は「きらきらひかる」の笠松則通。(37分) 崔洋一篇「月はどっちに出ている」 在日朝鮮人のタクシードライバーが体験するしたたかな日常を描く連作。梁石日の原作『タクシー狂噪曲』をもとに、「Aサインデイズ」の崔洋一が監督し、同作でもコンビを組んだ石橋凌が主演した。脚本は崔と鄭義信の共同。撮影は「死んでもいい」の佐々木原保志。後に作られた長編「月はどっちに出ている」のステップとなった。 山川直人篇「来たことある初めての道」 雪の北海道を舞台に、二人の男女の出会いと別れをファンタスティックに描く。監督・脚本は「バカヤロー!3 ヘンな奴ら」の一エピソード「クリスマスなんか大嫌い」の山川直人。放映時は一エピソード・一カットであったが、劇場公開用の別バージョンとなっている。撮影監督は「ワールド・アパートメント・ホラー」の篠田昇が担当。 長崎俊一篇「ワイルドサイド」 ラジオで人生相談をしている男性を中心に、大人の男女の恋愛にまつわる葛藤を描く。監督・脚本は「ナースコール」の長崎俊一。撮影監督は「誘惑者」の渡部眞が担当。 榎戸耕史篇「殺し屋アミ」 普段はごく普通の少女だが、実はプロの殺し屋であるアミの日常を描く。監督は「ありふれた愛に関する調査」の榎戸耕史。脚本は戸塚和子。撮影監督は石井篇と同じく笠松則通が担当。テレビの司会などで活躍する新人・沢弥かながヒロインに選ばれた。

1993年製作/171分/日本
配給:日本衛星放送
劇場公開日:1993年10月30日

ストーリー

<石井聰亙篇> 「STREETNOISE」繁華街の片隅で、エンジンの咆哮、群衆の声、サイレン、スピーカーなど、自分に向かってくる〈音〉を聞いた男は、その〈音〉を追って走る。全力疾走する男の左手には金属製の義手が光り、次第にマシーンのスピードに近づいていく……。「自転車」夜明けの都電の駅で、十七歳の夏音は自転車に乗った二二歳の美都と出会う。夏音は彼女の自転車に乗り、自分を誘拐しないかともちかける。初めて出会い、そして何となく別れる二人の間に、懐かしさに充ちた感情が流れる。「穴」記憶喪失の男は〈穴〉によって記憶を呼び戻す。都会のあらゆる〈穴〉を医師とともに探訪する男は下水道に落ちる。そして、あらゆるものが〈穴〉から噴出する……。「HEART OF STONE」世紀末の、ひとりの少女の〈石〉をめぐるイメージ。石に触れた人々は言語や人種に関係なくお互いの心をテレパシーできるようになる。ストーンヘンジから大地に埋もれた超LSIの結晶片に至るまでの、壮大な〈石〉の輪廻転生。 <崔洋一篇> 「昔、大きな戦争があった」今日もまた自分の居場所が分からなくなった運転手仲間の安保に、“月はどっちに出ている?”と確認させる忠男。ある夜彼は母親・英順の経営するスナックで働くフィリピーナ、コニーに愛を告白する。『何やの、これは?』コニーに釘を刺されたにもかかわらず、忠男は彼女の部屋に荷物を持ち込んで同棲を決め込む。反発したコニーもふと心を動かされたようだが。 「肉弾戦」忠男とコニーの“肉弾戦”の真っ最中、同僚の細川から借金申し入れの電話が何度もかかる。翌日、運悪く英順がコニーに長野行きを勧めるものだから、遂にコニーはキレてしまい、忠男の目の前で英順と舌戦を交わす。 「今もお嫌いですか?」忠男のタクシーに乗ってくる酔っ払いのサラリーマン。忠男にキムチから朝鮮人問題まで訳知り顔に話しかけるが、いざ目的地に着くと金を払わず逃走。必死で追い詰めた忠男は男の財布から金を受け取り釣銭を渡すと、“ありがとうございました”と一礼する。(33分) <山川直人篇>「来たことある初めての道」 生演奏レストランでドラムを叩くコバックスと、デパートでバイトをしていたキリコは、地下鉄の改札口で初めて出会った。外は吹雪。きっかけは、キリコの落としたランボオの詩集だった。一年後には、雪の公園でいつものデートをしながら、演奏ツアーの話を楽しく夢見たりする二人だったが、その話は流れ、やがて関係もうまくいかなくなる。雪原でキリコのために作った歌をコバックスが人前で歌うのをキリコは耐えられず、またコバックスはキリコの描いた絵をけなし、スケッチに付き合うのはたまらないとグチる。二人の間の壁は大きくなり、やがて思い出の公園で、別れの日は必然的にやってきた。(30分) <長崎俊一篇> 「電話」朝のベッドでまどろむ二六歳のSM嬢・木村リカ。現在の恋人はラジオで人生相談をしている新谷だが、電話をかけると彼の側には別の女性の気配がする。「街角」繁華街の雑踏、新谷はもう一人の恋人である三〇歳の人妻・洋子との情事を終えたばかりだった。別れたはずのリカの顔が見たくなり、彼はラブホテルから彼女のいるSMクラブへ電話をかけ呼び出す。「バス」観光バスのバスガイドとして働く洋子は、運転手である夫の城ヶ崎と横浜ベイブリッジへ。尾行してきた新谷が現れ、城ヶ崎に“奥さんと別れてくれ”と懇願する。激昂した城ヶ崎は新谷に猛然殴りかかった。 「ワイルドサイド」城ヶ崎に殴られた跡が生々しいまま、人生相談の仕事を続ける新谷。三角関係を続ける主婦に“あなたの問題は自分に自信が持てないからでは”と諭すが、それは自分にこそ当てはまる言葉だった。収録後リカに呼び出された彼は、待ち合わせ場所で、おもいがけない人物に出会う。(33分) <榎戸耕史篇> 「カナリア」普段はフラワーコーディネーターとして働くアミのもう一つの姿はプロの殺し屋だった。今日も地下駐車場で彼女は依頼通り中年男性を殺すが、男が最後に残した“カスミ…”という言葉にひっかかり、仲介人の山猫に標的の正体を尋ねる。 「愛の殺人者」険しい岸壁に立つ豪華別荘。釣り客を装い、アミはそこに住む標的の人物を狙う。初老の域がかかった男性の横には、愛人らしい若い女性がいた。 「小鳥の背中」街の花屋で働く青年マコトはアミの表の仕事の得意客だった。アミに興味を持ったマコトは彼女を尾行するが、それに気づいた彼女にまかれてしまう。数日後、マコトはアミがあるビルの屋上に上っていくのを目撃して……。 「渚にて」アミがいつも花を活けている喫茶店のゲイのマスター・南は、彼女の様子がいつもとは違うことに気づく。南の口ぶりからいつもの軽い調子が消える。“あたしを殺しに来たの?”アミはいつもの仕事通り、手際良くスミス&ウェッソンの銃口を南に向ける……。(38分)

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