ブロークン 復讐者の夜 : 映画評論・批評
2025年9月9日更新
2025年9月12日よりシネマート新宿ほかにてロードショー
静かな怒りと悲しみを背負った復讐者ハ・ジョンウの圧倒的な存在感
多様なテーマを描き続け、世界的な高い評価を得ている韓国の映画やドラマの中にあって、パク・チャヌク監督の「復讐者に憐れみを」「オールド・ボーイ」「親切なクムジャさん」(“復讐3部作”)を筆頭に、復讐ものは人気の高いジャンルの一つである。公開前から世界158カ国に販売が決定し、韓国の公開初日には動員数第1位を記録した「ブロークン 復讐者の夜」は、弟を失った男が繰り広げる復讐劇を描くサスペンスアクションだ。
弟ソクテが死体で発見され、ソクテの妻ムニョンが姿を消す。手がかりを探すなかで小説家の男ホリョンと出会った兄ミンテは、彼のベストセラー小説の中で弟の死が予言されていたことを知る。そして、ムニョンの行方を追いながら真実にたどり着いたミンテは、壮絶な復讐の鬼と化していく―。

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復讐に燃える兄ミンテを演じるのは、ナ・ホンジン監督の「チェイサー」「哀しき獣」、リュ・スンワン監督「ベルリンファイル」など、アクションから社会派映画まで幅広い役柄を演じてきた演技派のハ・ジョンウ。本作では静かな怒りと悲しみを冒頭から背なかで表現し、復讐者としての圧倒的な存在感を放っている。
事件の鍵を握る小説家ホリョンには、「殺人者の記憶法」「非常宣言」のキム・ナムギルが扮し、2020年の「クローゼット」以来、ハ・ジョンウと2度目の共演を果たした。失踪した妻ムニョンを「サスペクト 哀しき容疑者」のユ・ダインが演じたほか、「アシュラ」のチョン・マンシク、ドラマ「ムービング」のイム・ソンジェ、ドラマ「イカゲーム」のホ・ソンテら錚々たる俳優陣が脇を固め、ドラマに厚みを加えている。
組織に属する弟ソクテはどうしようもない男だが、自分が組織に引き入れた後悔もあって、兄ミンテは弟のために服役した過去を持ち、今は組織を抜けている。韓国映画の復讐劇の最大の武器は拳銃でもナイフでもなく、鉄パイプ(もしくは鉈)である。港町や歓楽街、工事現場の片隅に落ちていそうなものであるだけに、復讐の手段・武器としてリアリティを高め、復讐者の怒りが乗り移り次々と殴打していく様は見ていて痛快でさえある。
長編第1作「The Boys Who Cried Wolf」が第20回釜山国際映画祭で韓国映画監督組合賞、第22回春史国際映画祭で新人監督賞を受賞するなど高い評価を受けたキム・ジンファンが脚本と監督を手掛け、韓国の二大スターと注目の新鋭監督ががっぷり四つに組んで、復讐劇の新たなケミストリーを発揮。映画「工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男」「アシュラ」やドラマ「悪の心を読む者たち」なども手がけたサナイピクチャーズが製作を担った。
配信作品が世界で華々しい評価を得る一方で、韓国国内の映画市場は冷え込んでいたが、この夏はチョ・ジョンソク主演の「ゾンビになってしまった私の娘」が大ヒットを記録するなど再び息を吹き返しつつある。韓国復讐劇の流れを汲む本作を是非味わって欲しい。
(和田隆)