コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第82回

2020年4月30日更新

佐藤久理子 Paris, je t'aime
フランスのエンタメサイト<Konbini>のYouTubeチャンネル
フランスのエンタメサイト<Konbini>のYouTubeチャンネル

新型コロナウイルスの影響で、フランスも映画館がいつ再開できるかわからない状況のもと、ストリーミング・サービスを利用する人々が増えている。たしかにこんな機会にこそ、見逃していた旧作、巷では傑作と言われているもののじつは観ていない作品などを掘り出して観たいもの。だがそうは言っても、いざとなるとたくさんありすぎてわからない、観たかった作品が思い出せない、といったこともあるだろう。

今回ご紹介したいのは、そんなときに打ってつけの指針となる、楽しい企画。エンターテインメントの話題をフレッシュな切り口でワールドワイドに提供するサイトKonbiniが企画する、パリのレンタルビデオ屋を映画人が訪問してオススメ作品を紹介する<Konbiniビデオクラブ>シリーズである。

パリ11区にある「JM Video」は5万作のDVDを所蔵する、パリで最大にして最後の映画愛好家の牙城と言われる、業界でも有名なビデオ屋。所蔵作のなかでおよそ8000点は、VODなどでも見つからないレアな作品という。そんなお店を、フランス人の監督や俳優のみならず、自作のプロモーションなどでパリを訪れたインターナショナルな映画人が訪問して、お気に入りの作品を紹介するのが本シリーズで、YouTubeチャンネルなどで観ることができる。たとえばタイカ・ワイティティエドワード・ノートンダニー・ボイルリチャード・カーティスジェリー・ブラッカイマーニコラス・ウィンディング・レフンクロード・ルルーシュシャルロット・ゲンズブールと夫のイバン・アタル是枝裕和ら、これまでに多彩な人々が登場している。

携帯にサインをしてもらったというほどホウ・シャオシェン(侯孝賢)を敬愛する是枝監督は、80年代に自分が迷っていたときに監督になりたいと決心させてくれた、ホウ監督の「恋恋風塵」のほか、今年2月のベルリン国際映画祭で対談し、絶賛していたアン・リーの「ブロークバック・マウンテン」、「万引き家族」を撮る前にもっとも観直したという大島渚の「少年」、映画館通いが始まったきっかけのフェデリコ・フェリーニによる「道(1954)」「カビリアの夜」そして「フェリーニのアマルコルド」、最近作では、「すべてにおいて大人の映画として脱帽した」と語る「COLD WAR あの歌、2つの心」ほか、多数を紹介している。

映画のエキスパートである彼らの独特な解説を聞いて、作品を観たくなるのはもちろんのこと、それぞれの好みの傾倒を知ることができるのもまた面白い。

もうひとつご紹介したいのは、セドリック・クラピッシュオリビエ・アサイヤスパスカル・フェランローラン・カンテベルトラン・ボネロというフランスの監督たちが手掛ける、二十世紀の傑作を紹介するVODプラットフォームのLA CINETEK(https://lacinetek.com 英語サイトあり)だ。こちらは「監督が選ぶセレクション」というのがセールスポイント。サイトでは、フランス人監督に限らず、マーティン・スコセッシデイミアン・チャゼルポン・ジュノ河瀬直美、是枝監督ら、さまざまな監督たちがマイ・フェイバリットを挙げている。

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外出制限下、メールで取材に応じてくれたクラピッシュ監督は、こんな素敵なエピソードを教えてくれた。

「このプラットフォームを立ち上げたのは、インターネットで文化的なヴィジョンを供給して行きたいというのが、まず目的でした。とくにわたしたち監督にとって、いまの若い世代に、映画史において重要な作品について知ってもらうのは大きな喜びです。たとえばヒッチコックやジャン・ルノワール、ヌーベル・ヴァーグの監督たち、あるいは60年代のイタリア映画、小津安二郎溝口健二黒澤明大島渚小林正樹ら日本の名作など。たとえばわたしには12歳の息子がいるのですが、彼に「七人の侍」を観せました。観る前はモノクロの古い日本映画なんて、と興味のない風だった息子が、観たら熱中して、あとで友だちにまで宣伝していたのです。わたしとしては『してやったり』という思いで、とても嬉しかったです(笑)」

現状、海外から視聴できるのはドイツ、ベルギー、スイス、オーストリアに限られているというが、ゆくゆくは世界に広げていきたいとか。サイトで各監督のおすすめリストを観るだけでも、参考になって楽しい。

外出自粛の機会を利用して、自宅でゆっくり旧作を発掘して楽しむのも乙なものではないか。(佐藤久理子)

筆者紹介

佐藤久理子のコラム

佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。

Twitter:@KurikoSato

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