コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第62回
2018年8月31日更新
日仏友好160周年記念「ジャポニスム2018」開催 若手世代の日本映画に熱視線
日仏友好160周年を記念しフランスで開催される、「ジャポニスム2018:響きあう魂」展が7月12日に開幕した。美術展や映画、舞台公演などさまざまな分野にわたって伝統文化から現代アートまでを紹介する、一大日本万博だ。すでに開幕より一足早く開催されたチームラボの「Au-dela des limites」展が成功を納めるなど、フランスにおける日本文化への関心の高さが伺える。
映画関係では、河瀬直美の「Vision」(仏題Voyage a Yoshino)がパリのシネマテークでプレミア上映されたのを皮切りに、同館とパリ日本文化会館において、戦前から現代に至る日本映画の回顧上映が来年3月までおこなわれる。これは1984年に約500本の日本映画がシネマテークで紹介されて以来の大規模なものだが、まさに絶好のタイミングと言えるだろう。というのも、今年のカンヌ国際映画祭で是枝裕和の「万引き家族」がパルムドールを取ったことはもとより、ここ数年で、深田晃司、富田克也、濱口竜介ら日本の新世代監督たちが徐々に注目を集めている背景があるためだ。深田監督は「ほとりの朔子」が2015年のナント三大陸映画祭で最高賞と若手審査員賞をダブル受賞、さらに一昨年はカンヌのある視点部門で「淵に立つ」が上映され、審査員賞を授与された。富田監督は「サウダーヂ」がナント三大陸映画祭で最高賞を受賞し、続いてフランスで公開された「バンコクナイツ」が高い評価を得た。
さらに濱口監督も、一昨年ロカルノ国際映画祭で素人を起用した「ハッピーアワー」が女優賞と脚本のスペシャル・メンション賞をダブル受賞。今年の5月には「SENSES」という題名で317分を3パートに区切って公開になり、この原稿を書いている今もロングラン中。アートハウス系の小規模な公開ながら、3パートの総計で動員14万人を超え、大健闘を果たしている。濱口監督といえば、新作「寝ても覚めても」で今年カンヌに初めて参加したのも記憶に新しい。評価は割れたものの絶賛するフランスのメディアもあり、こちらは来年に公開を控える。
他にもジャポニスム展に合わせるかのように、山田尚子のアニメーション「聲の形」や黒沢清の「予兆 散歩する侵略者 劇場版」といった公開作が続く。とくに聾唖の少女を主人公にした大今良時の漫画を映画化した山田の作品は、日本のアニメにしては珍しい重いテーマで、思春期の若者たちの差別や疎外感を扱ったものとして称賛されている。日本映画に新風を吹き込むこうした若手世代の活躍によって、新たな日本映画ブームが到来しつつあるのかもしれない。(佐藤久理子)
筆者紹介
佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。
Twitter:@KurikoSato