コラム:編集長コラム 映画って何だ? - 第67回
2024年3月6日更新
ドゥニ・ビルヌーブ監督の「デューン 砂の惑星 PART2」の試写を見ました。前作のクオリティが圧倒的だったので、今回も非常に楽しみにしていましたが、これがまた想像を遙かに超える素晴らしい仕上がりで、「このレベルの映画は、あと数年は現れないのではないか」という感慨を抱きながら試写室を後にしました。
もっとも、「あと数年」たつと、恐らく「デューン PART3」が公開されると思います。ビルヌーブ監督も、「PART3」までは自分が監督するとインタビューに答えて語っていますので、少なくてもあと1本、レベル違いの凄い映画が堪能できることは保証されたようです。
さて、今回の「PART2」を鑑賞している間、私が個人的に感じていたのは、自分の中の「スター・ウォーズ」の記憶が、次々にアップデートされていく感覚です。
整理するために、日本における「スター・ウォーズ」と「デューン」の映画公開年を時系列に並べてみました。
第43回の本コラムでも少し紹介したのですが、ジョージ・ルーカスの「スター・ウォーズ」は「デューン」が元ネタのひとつであることは間違いありません。フランク・ハーバートの原作小説(1965年刊行)がそうなのか、あるいはアレハンドロ・ホドロフスキーが1974年頃に作った絵コンテ(「ホドロフスキーのDUNE」に詳しい)がそうなのか分かりませんが、とにかく元ネタであることは間違いない。
「デューン 砂の惑星 PART2」の鑑賞は、その確認作業でもありました。ポール・アトレイデスが「ルーク・スカイウォーカー」の原形であり、クイサッツ・ハデラッハが「ジェダイ」に置き換わり、声を使った超能力が「フォース」になった。ハルコンネンの巨体は「ジャバ・ザ・ハット」で再現されているし、「サンドワーム」にいたっては、造形から生態までほぼ一緒……。
ティーンエイジャーの頃、映画館で「スター・ウォーズ」の1作目を見に行って、オープニングから腰を抜かしそうになるほど興奮し、ライトセーバーのチャンバラに手に汗握り、ダースベイダーの強さとカリスマに驚嘆しながら、大満足で映画館を後にした思い出。「スター・ウォーズ」の新作が出るたびに先行オールナイトを見に行った若き日の記憶。
それらの記憶が、45年の時を経て上書きされている感覚。これは、かなり珍しい。前作「デューン 砂の惑星」の時も多少感じましたが、今回「PART2」鑑賞時の方が強烈です。
もちろん、「スター・ウォーズ」の初期3部作は抜群に面白かった。しかし今の自分にとっては「正典」ではなくなった。デジャブを感じながら、その記憶を消し去り、新たな記憶で上書きしようとする自分がいます。ルーク・スカイウォーカーを消去し、ポール・アトレイデスに上書きしようとする自分が。
非常に複雑な感覚ですが、これはあくまで個人的な体験です。こんな体験は初めてです。
ひとつだけ、最後に念押ししたいのは、「デューン 砂の惑星 PART2」は圧倒的な傑作で、来年(2025年)のオスカーを席巻するのは間違いないということ。IMAXで鑑賞することを強くおすすめします。
筆者紹介
駒井尚文(こまいなおふみ)。1962年青森県生まれ。東京外国語大学ロシヤ語学科中退。映画宣伝マンを経て、97年にガイエ(旧デジタルプラス)を設立。以後映画関連のWebサイトを製作したり、映画情報を発信したりが生業となる。98年に映画.comを立ち上げ、後に法人化。現在まで編集長を務める。
Twitter:@komainaofumi