コラム:編集長コラム 映画って何だ? - 第43回

2021年10月15日更新

編集長コラム 映画って何だ?

「デューン 砂の惑星」をドゥニ・ビルヌーブが傑作にアップデート。ここにいたるまでの黒歴史

本日(2021年10月15日)公開の「デューン 砂の惑星」は、個人的に今年のベストワンです。それも、圧倒的なベストワン。ドゥニ・ビルヌーブ監督は、本作にしても、前作の「ブレードランナー2049」にしても、年季の入った古典SF案件をモダンな映像と音楽で今どきの傑作に仕上げる、クリエイティブなマイスターとして唯一無二の存在だと感じます。最近のインタビューで、次回の「007」は自分がやりたいって言ってますけど、適任じゃないでしょうかね。

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ビルヌーブ版「デューン」についての私の感想は、特集にその思いの丈を吐き出しました。本稿の最後にリンクを置いたので、是非併せてお読みください。

そもそも「デューン」は、フランク・ハーバートが1965年に発表した伝説的なSF小説で、大ベストセラーになっています。そして、私たちの世代にとって「デューン」と言えば、デビッド・リンチの「砂の惑星」です。1985年日本公開でした。デビッド・リンチは「イレイザーヘッド」でデビュー、「エレファントマン」でブレイクし、「スター・ウォーズ ジェダイの帰還」のオファーを蹴って「砂の惑星」を撮ることになった。

バジェットは、当時としては破格の4000万ドル、スタッフ・キャストは総勢1700名というビッグプロジェクトです。メキシコで撮影とポスプロを1年かけて行いましたが、結局リンチはファイナルカット権を確保できず。プロデューサーのディノ・デ・ラウレンティスによってズタズタに切り刻まれた「砂の惑星」は、批評家からも観客からも不評を買い、失敗作の烙印を押されてしまったのです。

「夢みる部屋」という自伝でリンチは語っています。「もう最悪、とにかく最悪の代物。要求された上映時間2時間17分におさめるために、この映画は本当に悪夢みたいなことをしなきゃならなかった。あれこれぶち切られ、観客は何が起きているか分からないだろうということで、囁き声のナレーションが追加された。<中略>ディノにとって、これはお金だ。ビジネスだ。2時間17分より長いと、劇場での上映回数が減る。それが理屈で、だからこの数字を達成するしかなくて」

「砂の惑星」
「砂の惑星」

改めて、リンチ版の「砂の惑星」を見てみると、確かに話は分かりにくいし、構成もバランスが悪い。そして今回初めて気づいた点は、ポール・アトレイディスよりも、その母レディ・ジェシカの方がよりフィーチャーされていること。ジェシカを演じたフランチェスカ・アニスが、ラウレンティスの寵愛を受けていたのは明らかですね。リンチは当時「ブルーベルベット」の企画も進めていて、「ドロシー役をフランチェスカ・アニスで考えている」とラウレンティスに売り込んでいます。しかしラウレンティスは、「彼女はそういうタイプの役には向いていない」と却下し、結局イザベラ・ロッセリーニがドロシーになりました。ちなみに、ラウレンティスはリンチの次回作「ブルーベルベット」の製作を引き受けますが、リンチがファイナルカット権を要求したところ、「給料と映画の予算を半分にするなら」という条件でこれを飲んでいます。

ところで、「デューン」をテーマにした映画はもう一本あって、これもなかなかの傑作です。「ホドロフスキーのDUNE」についても、少し紹介しておきましょう。

1974年頃、フランスのコンソーシアムが「デューン」の映画化権を獲得し、チリの映画監督アレハンドロ・ホドロフスキーが呼ばれました。「エル・トポ」「ホーリーマウンテン」の後ですね。そのホドロフスキーが、ハリウッドで製作費を調達するために奔走する模様を語るドキュメンタリーが「ホドロフスキーのDUNE」です。

「ホドロフスキーのDUNE」
「ホドロフスキーのDUNE」

彼は、バンドデシネの作家メビウスとともに、「デューン」の絵コンテ集を作成します。キャラクターデザインでダン・オバノンH・R・ギーガーなどに声をかけ(この2人は後に「エイリアン」で大ブレイクします)、サウンドトラックはピンク・フロイドが内定、さらに凄いのはキャスティングで、フェイド・ラウサ役はミック・ジャガー!、ハルコンネン男爵にオーソン・ウェルズ!、皇帝役にはなんとサルバドール・ダリ!と思わず「!」を多用してしまう顔ぶれが内定していました。

結局、プロジェクトは破綻するのですが、このドキュメンタリーを見る限り、かなりワクワクするプロジェクトだったことは間違いありません。そして、このホドロフスキーたちが作った絵コンテ集が、後の「スター・ウォーズ」の元ネタの相当部分を占めていることも分かります。つまり、ジョージ・ルーカスは「デューン」をかなりパクっています。

「ホドロフスキーのDUNE」
「ホドロフスキーのDUNE」

「デューン」を映画化しようとして、果たせなかったホドロフスキー。「デューン」を映画化したけど、権力に屈し失敗作とされたリンチ。リンチ版の「デューン」についてホドロフスキーは、「傑作に違いないと思ったけど、見たら違った」というニュアンスの感想を語っていました。ホドロフスキーには、今回のビルヌーブ版も是非見て欲しいですね。感想を聞いてみたい。

そしてデビッド・リンチは、恐らく「デューン」と名のつくものは一切見ないことでしょう。彼のフィルモグラフィーに残る、唯一の汚点ですからね。

そんな事故物件を拾ってきて、見事な作品に仕上げたドゥニ・ビルヌーブには改めて感服します。とにかく、後編が早く見たい。これに尽きますね。

【「デューン 砂の惑星」特集】
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筆者紹介

駒井尚文のコラム

駒井尚文(こまいなおふみ)。1962年青森県生まれ。東京外国語大学ロシヤ語学科中退。映画宣伝マンを経て、97年にガイエ(旧デジタルプラス)を設立。以後映画関連のWebサイトを製作したり、映画情報を発信したりが生業となる。98年に映画.comを立ち上げ、後に法人化。現在まで編集長を務める。

Twitter:@komainaofumi

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