コラム:シネマ映画.comコラム - 第12回

2022年7月12日更新

シネマ映画.comコラム

上映禁止も納得の“鬼畜版「ハングオーバー!」” タブー作「セルビアン・フィルム」で味わう底なし地獄

第12回目となる本コラムでは、7月22日の劇場公開前に、7月16日から18日までの3日間、先着200名様限定で“公開直前プレミア上映(配信/OSOREZONEセレクト)”する「セルビアン・フィルム」4Kリマスター完全版をピックアップします。

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【作品概要】

内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、また、上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。「ABC・オブ・デス」の1編「Removed」も手掛けたスルディアン・スパソイエビッチが監督を務め、エミール・クストリッツァ監督作「黒猫・白猫」「アンダーグラウンド(1995)」にも出演したスルジャン・トドロビッチが、物語の中心を担う元ポルノ男優役を担当。日本では、2012年にノーカット版で劇場公開されました。

【物語】

引退した元ポルノスターのミロシュは、美しい妻と幼い息子の3人で平穏に暮らしていました。しかし、かつて共演した女優から海外向けの大作ポルノで高額のギャラが支払われるという仕事の誘いを受けたことで彼の人生は急転。経済的に困窮していたミロシュは依頼を引き受けますが、撮影が始まると、それがブラックマーケット向けに実際の拷問と殺人を記録するという内容だったことが発覚! 真実を知ったミロシュでしたが、時すでに遅し。逃げ場を絶たれ、想像を絶する底なしの地獄を体験することになるんです……。


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●「二度と見る気になれない」「心がつぶれそうになる」安易におススメできない“ヤバい映画”

まずは、本作のポスタービジュアルを見返していただきましょう。「人でなしの映画」「これが鬼畜残酷ホラー史上一番ヤバいやつ」「一生分のトラウマがここにある」。凄まじいテンションで煽ってきますね。でも、このキャッチコピー、非常に的確です。この映画は、それほどの“ヤバさ”を秘めています。全世界46カ国以上で上映禁止……鑑賞後、納得してしまいました。

セルビアン・フィルム」が製作されたのは、2010年。以降、数々のサイトが注目をしていました。米サイトBuzzFeedは、13年に「人間不信になる/絶望する映画25本(25 Movies That Will Destroy Your Faith In Humanity)」を発表。「レクイエム・フォー・ドリーム」「ダンサー・イン・ザ・ダーク」「ミスト」「ファニーゲーム」といった、この手のランキングの“常連”とともにランクインを果たしています。

続いて選出されたのが、米サイトTaste of Cinemaが、15年に発表した「一度見たら二度と見る気になれない不穏なホラー映画17本(17 Disturbing Horror Movies You Will Never Watch Again)」。過剰で不快、残虐性、子どもへの暴力、カニバリズムや殺人フィルムなどのタブー、絶望のエンディングを含む作品が中心となったようで、本作に関しても「確かに、要素をおさえてるな……」と思い当たる節がありまくりです。

16年には、米サイトTaste of Cinemaが「心がつぶれそうになる傑作映画20本(20 Great Soul-Crushing Films That Are Worth Your Time)」の1本に選ばれています。その他の作品は、「レクイエム・フォー・ドリーム」を筆頭に、ドキュメンタリー「ザカリーに捧ぐ」、リン・ラムジー監督作「少年は残酷な弓を射る」、パク・チャヌク監督作「オールド・ボーイ(2003)」、ギャスパー・ノエ監督作「アレックス」、熊切和嘉監督のデビュー作「鬼畜大宴会」等々。「人間であることが恥ずかしくなるような行為や感情を扱った映画」という観点で選ばれたようですが……。「セルビアン・フィルム」に関しては「まさに、その通りです」としか言い様がありません。

さて、予告編をご覧ください。映像のラストには、こんな忠告がでてきます。

「必ず自己責任でご覧ください。精神や肉体に異常をきたしても、責任は負えません」

編集部に身を置いている者としては「まずは作品を見てほしい!」という思いで、日々記事を執筆しているのですが、本作に関しては、この警告文が胸の内を代弁してくれています。精神的にズドンとくる。そんな作品を4Kリマスター……悪夢です。必ず覚悟を決めてから、鑑賞に臨んでください。


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●丁寧に描いたキャラクターの日常を「完全破壊」 物語の“落差”がすさまじい

全編血みどろ&不快描写!……というわけではないんです。実は、序盤から中盤にかけては、ミロシュのバックグラウンドが丁寧に描かれていきます。かつては“スター”ともてはやされたミロシュですが、現在では生活費に困っている様子。息子の将来のためにも、どうにか金を稼がなければいけない。そんな状況下で「高額ギャラ」という甘いお誘い。妻も「え、そんなに貰えるの!?」と驚く破格の値段が提示されるんです。

現役時代のミロシュの実像、妻子との日常、警察官の兄マイクの葛藤――。これらを丁寧に描写しているからこそ、中盤以降の展開が際立っていきます。幸福、平穏、平凡の「完全破壊」と言えばいいでしょうか。すさまじい落差なんです。

その道先案内人となるのが、超個性派キャラのヴックミル。謎めいた監督で、金持ちクライアントのために「芸術的なポルノ」を撮影しようとしています。口八丁手八丁でミロシュの出演を画策。芸術的なポルノとはなんなのか……ミロシュは、結局具体的な内容の説明も聞かず、契約書にサイン。きっとツッコミたくなると思いますよ。「契約書、読まずにサインは絶対アカン!」って。

とにもかくにも、本作の魅力のひとつは、ストーリーの転調です。丁寧に描かれていく日常から、地獄の底まで到達する。光があるからこそ、闇は映える。そんなことを考えてしまうほど、ミロシュの“堕ち方”が強烈なのです。


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●何をやってしまったのか……? 鬼畜展開がいっさい笑えない“地獄の「ハングオーバー!」”

本作を鑑賞した際、まずリンクさせた作品があります。それは「ハングオーバー!」シリーズ。未見の方のために、簡単に概要を紹介しましょう。

同シリーズは、「ジョーカー」の監督でも知られるトッド・フィリップスが創出した作品。これまで「ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い」「ハングオーバー!! 史上最悪の二日酔い、国境を越える」「ハングオーバー!!! 最後の反省会」が製作されています。スト-リーの基本軸となっているのが「大酒をくらう→記憶喪失→その間に何が起こった!?→真相を求めて奔走」(第3弾「最後の反省会」は、このテッパン路線を変更)。

セルビアン・フィルム」の中盤以降は、この構造を採用。ただし、ミロシュがくらうのは、明らかにヤバそうな“薬”なんですけどね……。ヴックミルの罠にハマり、なぜか血まみれ状態で意識を取り戻したミロシュ。観客は、彼とともに「何をやってしまったのか?」という答え合わせの旅に出ることになります。

その先に待ち受けているのは、数々の絶望です。極度の性的興奮状態に陥ったミロシュは、一体何をしてしまったのか。ひとつひとつ答えが明示されていくのですが……。「トラウマ映画」という括りがありますよね? もちろん本作もその範疇に入るのですが、答え合わせとなる描写の数々が、あまりにも“キツ過ぎる”。最後の最後まで画面から目をそらさない――映画鑑賞では、この心構えが大切。でもですね、本作に関しては、その心構えを一旦忘れてもいいのかもしれません。耐えられそうになければ、視線を外す、もしくは目をぎゅっとつぶる。それほどの展開が待ち受けていますから。


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●倫理的に完全アウトな場面も ある人物の“一言”で精神的疲労は極限に達する

では、どんな凄惨な展開が待ち受けているのか。例えば……いや、書けませんって。覚悟を決めた方だけ、本編を見て確かめてください。

詳細の記述を避けますが、特にしんどかったシーンは、ヴックミルがミロシュに見せる“作品”。出演に難色を示しているミロシュに対して、ヴックミルが自らの芸術性を見せつけるというパートになるのですが、作品の内容がヒドすぎる。フィクションといえども、おそらく怒りさえ感じてしまう方もいらっしゃるはず。倫理的に完全アウトなシーンになっていますので、お気をつけください。

後半パートに関しては、不快&ゴア描写のオンパレード。惜しみなく出し続け、その勢いはクライマックスまで留まることをしりません。7月1日から公開されている「哭悲 THE SADNESS」はご存知でしょうか? 人間の凶暴性を助長するウイルスが蔓延した台湾を舞台にしたパニックホラーです。実は同作に登場する“ある強烈描写”が「セルビアン・フィルム」でも描かれています。気になる方は、ぜひチェックしてみてください。「あ、これか……」と思うはず。

さて、最後にひとつだけ。この映画は、ある人物の“一言”を経て終幕へと向かっていきます。この短いセリフ、それに伴う簡潔な動作によって、精神的疲労はピークに達するはずです。最後の最後まで油断できない……邪悪すぎる。覚悟を決めた方は、この“地獄”をぜひ味わってみてください。

(執筆/編集部 岡田寛司)


>>【まさに底なし地獄!覚悟を決めて鑑賞してください……】

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