「リンダ リンダ リンダ」に“演奏させない”ラストの可能性があった 山下敦弘監督の学びとなったのは「ストレートなカタルシスの良さ」【NY発コラム】
2025年9月7日 20:00

ニューヨークで注目されている映画とは? 現地在住のライター・細木信宏が、スタッフやキャストのインタビュー、イベント取材を通じて、日本未公開作品や良質な独立系映画を紹介していきます。
公開20周年を記念して4Kデジタルリマスター化された青春映画「リンダ リンダ リンダ」(日本公開中)。同作は、今年のトライベッカ映画祭にも出品され、配給会社GKIDSによって、全米公開されることが決定している。今回のコラムではメガホンをとった山下敦弘監督にインタビューを敢行。当時の撮影を振り返ってもらった。
高校生活最後の文化祭で「ザ・ブルーハーツ」のコピーバンドをすることになった少女たちの奮闘を描く。たどたどしくも心に響くブルーハーツの名曲と、若き俳優陣の奇跡的なコンビネーションを、山下監督が自身初の35ミリフィルム作品として撮りあげたゼロ年代を代表する青春映画。ペ・ドゥナ(ボーカル/留学生ソン役)、前田亜季(ドラム/山田響子役)、香椎由宇(ギター/立花恵役)、「Base Ball Bear」の関根史織(ベース/白河望役)らが出演している。

僕は大学時代から映画を撮っていました。大阪でインディーズ映画を3本ぐらい作って、それらは自分が主人公、自分を投影したキャラクターだったんです。そんな頃に、東京のプロデューサーである根岸洋之さんが、女子高生が「ザ・ブルーハーツ」のコピーバンドをするという企画を立ち上げて、ある企画コンペで賞をとりました。まずその企画があって、僕の映画を見てくれた根岸さんが、「山下が撮った映画とは全然違うけれど、こういうのをやらないか?」と言われて。自分にとっても商業作品へのチャンスでもあったのと、自分の幅を広げるためのチャレンジという意味で――最初は本当のノープランでしたけども――この企画を受けたというのが、この映画の“スタート”でした。

彼女の名前は「協力」という形で入っています。基本的には、韓国のペ・ドゥナさん以外は、みんなオーディションという形で決めていったキャスティングで、その中に木村カエラさんも来てくれたんです。彼女がボーカルもできるとは知っていました。例えば他のキャラクターでもキャスティングできないかと、色々検討してみたんですが、彼女は役者というよりは“歌い手”の意識の方が強かったこともあって、映画出演とはならず、「協力」という形で名前を残させてもらいました。
あれは、セルフパロディみたいなシーンなんです。要するに「監督が決められないシーン」なんです。だから、カメラマンから「もう一回やった方が良いんじゃないか?」と提案される。当時の自分(=山下監督)もそんな感じ。なかなか自分で判断ができず、優柔不断で決められない監督だったんです。
あれは、もともとロケハンしている時から、なんとなく決めてはいました。真横から撮っているんですが、カメラマンはもっと正面かつ平行移動した撮影プランを提示してくれました。でも「どうしても、真横にしてくれ!」と頼み込みました。真横からの移動ショットというのは、当時の自分が、すごくこだわって撮ったシーンだったことを覚えています。
2、3回はやったと思いますけど、そんなに回数は多くはなかったと思います。

日本で学園モノを撮影する際は、廃校、つまりもう使われていない学校を使うことが多いんです。でも前橋工業高校は、撮影の数カ月前まで実際に使われていました。新しい校舎ができるまでの間、使われなくなる期間に撮影させてもらったので、学校自体がまだ「生きている」状態だったんです。それが本当にリアルな雰囲気につながったので、かなりラッキーでした。あの場所があったからこそ、学校の中を自由に、のびのびと使って撮影できたという感覚がすごくあります。

ポン・ジュノ監督とは、実は盛岡の映画祭でお会いしていました。当時、ポン・ジュノ監督が審査員を、僕がコンペで出品者として参加していたんです。その時にお会いして、僕の作品は受賞できなかったのですが、監督は僕の作品を覚えてくださっていました。その後、ポン・ジュノ監督の長編デビュー作「ほえる犬は噛まない」を拝見したのですが、主演がペ・ドゥナさんでした。その演技を見て、彼女のことがすごくいいなと思ってオファーしたんです。
たぶん、ペ・ドゥナさんもポン・ジュノ監督に相談したんだと思います。「日本の山下という監督からオファーが来たんだけど」と言ったら、監督が「彼の作品は面白いから、出たらいいんじゃないか?」と後押ししてくれたそうです。だから、いろんなタイミングが重なって実現したキャスティングでした。
ペ・ドゥナさん自身も日本にとても興味があって、日本語も少しだけわかる状態でした。だから、すごくやりやすかったですね。
ペ・ドゥナさんは韓国にいたのでそれほどではありませんでしたが、他のメンバーとは何度もリハーサルを重ねて、万全の準備で撮影に臨みました。なので、実は現場での即興はあまり多くない作品なんです。
ただ、一つ覚えているのは、みんなでハシゴを登るシーンです。ペ・ドゥナさんが「みんな、パンツ見えてる!」と言うセリフがあるのですが、あれは現場で彼女と相談して追加したものでした。

もちろん、もちろん、CDも買ってます。
お会いしたことはないですね。
もちろん、楽曲の許可は得ています。ただ、私たちが撮影していた当時はすでに「ザ・ブルーハーツ」というバンドは解散していましたので、楽曲使用料など、純粋に手続きだけで進めたと思います。
今も甲本ヒロトさんはさまざまなバンドで活動されていますが、基本的には「ザ・ブルーハーツ」とは一線を引いているという関係性らしいです。だから、「ザ・ブルーハーツ」との関わりは“楽曲を使用させてもらった”という点のみでした。甲本雅裕さんは、純粋に俳優として好きだったので出演をお願いしたんです。それが大きかったですね。

いや、とにかく初めてのことだらけだったので、先ほどもお話ししたように、リハーサルをものすごくやりました。今思えば、彼女たちが役に入り込むためというのももちろんありますが、僕自身が彼女たちの空気感を吸収したい、理解したいという気持ちがあったんです。だから、同じシーンを何度も何度もリハーサルしました。それが、作品のリアリティーにつながったのかなと思っています。一見、すごく即興的にやっているように見えるかもしれませんが、実はものすごく準備をして臨んだという記憶ですね。

よく話しているのですが、相米慎二監督の「台風クラブ」や「お引越し」、それこそ「セーラー服と機関銃」ですね。相米監督は当時、若い女優さんを使ってジャンル映画を撮っていた時期があり、主人公は女性が多いんです。テーマは少し違いますが、見せ方や演出に関しては、すごく影響を受けました。相米監督独特の、少女たちの生々しさがどうやったら出せるのか、盗もうとしましたし、影響を受けた人です。真似はできていないと思いますが(笑)。
実はこの映画、最初は彼女たちに演奏させないというラストを考えていたんです。間に合わなくて文化祭が終わってしまった、というような。でもプロデューサー陣の反対を受け、今日も改めて見直して思ったのですが、やはり最後に演奏しないと映画は終わらないな、と思うくらいラストが素晴らしいんですよね。
当時の20代の自分は、ストレートな表現をひっくり返したいとか、斜めから物事を見たいという気持ちがありました。「リンダ リンダ」という曲を聞けば、ある種のまっすぐさや、ストレートな感覚を思い知らされました。それはもう、現場でも感じたんです。彼女たちが演奏しているシーンを見て、やっぱり良いなと思ってしまったので。
そこが、作り手としてものすごく変わったところでした。そこからは、お客さんが見たいと思う、ストレートなカタルシスの良さというものを、この映画から一番学びました。

自分にとっても不思議な映画で、特に物語の仕掛けや伏線があるタイプの映画ではありません。今日も自分で見て思ったのですが、気づいたらあの4人のことが好きになっている、そんな不思議な映画です。最後はただ演奏するだけなんですけど、ちゃんとグッとくるものがある。
僕自身が当時28歳と若かったことも含めて、当時の彼女たちの魅力をただ閉じ込めて記録しただけの映画というか、それだけなんじゃないかと感じています。たぶん、もう一度同じメンバーが集まっても、二度と同じものは撮れないでしょう。当時の僕と彼女たち、そしてスタッフみんなで、彼女たちの魅力と楽曲の良さをただ形に残そうとした映画だと思っています。
だから、純粋に彼女たちの生き生きとした姿を楽しんでもらえたら、それで十分だと思います。メッセージや社会的なテーマをあまり含んでいない映画なので、彼女たちの存在をかみしめてもらえたら嬉しいです。
そうですよね。物語的な古さはあまり感じない作品になっていると思います。
(C)「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ
執筆者紹介

細木信宏 (ほそき・のぶひろ)
アメリカで映画を学ぶことを決意し渡米。フィルムスクールを卒業した後、テレビ東京ニューヨーク支社の番組「モーニングサテライト」のアシスタントとして働く。だが映画への想いが諦めきれず、アメリカ国内のプレス枠で現地の人々と共に15年間取材をしながら、日本の映画サイトに記事を寄稿している。またアメリカの友人とともに、英語の映画サイト「Cinema Daily US」を立ち上げた。
Website:https://ameblo.jp/nobuhosoki/
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